打撃指標の中でもポピュラーな「長打率」だが……
「長打率」は、打撃指標の中でもとりわけポピュラーなものの一つだ。長打率を求めるための計算式は、「塁打数÷打数」と実にシンプル。「塁打数」には単打、二塁打、三塁打、本塁打が全て含まれるため、算出の際には単打の数も大きなウェイトを占めることになる。
そのため、長打率においては必ずしも本塁打が多い長距離砲だけが有利になるわけではなく、打率が高い中距離砲タイプの選手も一定以上の数字を残せる。そのため、名前に反して必ずしも真の長打力を指し示す指標ではない、という指摘がなされることも少なくはない。
そうした長打率が抱える課題を解消するために、「長打率-打率」という計算式で算出される、「ISO」という指標が用いられることがある。この指標は、打率を考慮の外とすることで長打率から単打の影響を除外した、いわば“真の長打率”と呼べるものになっている。
それでは、長打率とISOの間にはどの程度の差異が存在するのだろうか。今回は、2023年のパ・リーグにおける規定打席到達者のうち、長打率が上位10名に入った選手たちが実際に記録した数字をもとに、2つの指標をより深く掘り下げていきたい。
長打率のランキングとISOのランキングの間には乖離が
2023年のパ・リーグで規定打席に到達した選手のうち、長打率ランキングでトップ10に入った選手たちの成績は下記の通りだ。
規定打席到達者の中で長打率が.500を超えたのは、近藤健介選手と森友哉選手の2名のみ。さらに、ISOに目を向けても、近藤選手がリーグ1位、森選手がリーグ2位と、上位2名は長打率と全く同じ順位となっていた。
ただし、3位以下の選手たちに関してはやや趣が異なる。長打率のランキングでは頓宮裕真選手が3位、柳田悠岐選手が4位だが、ISOでは頓宮選手が8位、柳田選手は6位と、いずれも順位を下げるかたちとなった。
その一方で、ポランコ選手は長打率ではリーグ7位ながら、ISOは近藤選手と森選手に次ぐリーグ3位の数字を記録。それに加えて、ISOのランキングでは万波中正選手が4位、浅村栄斗選手が5位と、熾烈な本塁打王争いを繰り広げた選手たちが軒並み上位に入っている。
ポランコ選手だけではなく、万波選手の長打率はリーグ5位、浅村選手が同6位と、いずれもISOに比べて順位を下げていた。また、万波選手とポランコ選手はOPSも.700台と際立って高いわけではなく、長打率とISOの乖離が特に大きいケースとなっていた。
ISOとAB/HRのランキングでは、どちらも上位5名が全く同じ顔ぶれに
ここからは、本塁打を1本打つのに必要な打席数を示す、「AB/HR」という指標に目を向けたい。今回取り上げた選手たちの中で最もAB/HRが優秀だったのは、長打率がリーグ7位だったポランコ選手で、およそ17打席に1本のペースで本塁打を記録していたことになる。
AB/HRのランキングでは、2位が近藤選手、3位が浅村選手、4位が万波選手と、本塁打王を争った選手が順当に上位に来ていた。また、110試合の出場ながらリーグ5位の18本塁打を放った森選手が、万波選手とほぼ同水準のAB/HRを記録してリーグ5位に位置している。
以上のように、ISOのランキングとAB/HRのランキングは、どちらも上位5名が全く同じ顔ぶれとなった。その一方で、長打率のランキングでは上位5名に入っていた頓宮選手と柳田選手は、ISOとAB/HRのランキングではどちらも6位以下となっている点は示唆的だ。
安打内訳とOPSから見て取れるものとは
前項で示した通り、長打率と本塁打の間には少なからず乖離が見られた。しかし、だからといって長打率が指標として優れていない、というわけではない。長打率の有用性を示す具体例としては、「出塁率+長打率」という計算式によって算出される、「OPS」という指標の存在が挙げられる。
OPSは、打者の能力や生産性を測る上で非常に有用であるとされている。すなわち、その計算式に用いられる長打率も重要な指標であるということだ。その点を頭に入れたうえで、先ほど取り上げた10名の選手たちが、2023年に記録した塁打数の内訳を確認したい。
近藤選手は本塁打数だけでなく、二塁打もリーグトップタイの33本を記録。安打数もリーグ2位の149本と、あらゆる面で高水準の成績を残した。長打率、ISOに加えてOPSでもリーグトップの数字を記録した近藤選手は、まさに2023年のパ・リーグで最も優れた打者と呼べる存在だった。
リーグ2位の長打率を記録した森選手は、110試合の出場で18本塁打・24二塁打を記録。2本の三塁打を放った点も含め、ハイペースで塁打を積み重ねていたことがわかる。OPSでもキャリア平均の値(.840)を上回る.893という数字を残しており、打撃内容の優秀さが指標にも示されていたといえよう。
また、最多安打のタイトルを獲得した柳田選手は、リーグ3位タイの29二塁打、同5位の22本塁打を記録。2023年のISOは.185とキャリア平均の数字(.227)を大きく下回り、2014年以来9年ぶりに.200を割り込んだ。それでも、OPSと長打率はともにリーグ4位と優秀な水準を維持しており、打者としての生産性は十二分に高いことを示している。
頓宮選手は113試合で16本塁打・23二塁打を記録し、柳田選手を僅差で上回る長打率.4837という数字を記録。ISOは前年の.214から.177に低下した一方で、長打率は.440から.484へと向上。自身初タイトルとなる首位打者を獲得した点も含め、打者としての完成度はシーズンを通じて大きく高まったと考えられる。
そして、万波選手は近藤選手と並んでリーグ最多タイとなる33二塁打を放ち、長打率でもリーグ5位の数字を記録。長打率.460以上を記録した選手は、万波選手を除く全員がOPS.820以上と優秀な数字を記録していただけに、課題の選球眼を改善して出塁率を上昇させることができれば、打者としてのさらなる生産性向上も期待できるはずだ。
中川圭太選手は12本塁打、ISO.148、AB/HRは42.17と決して長距離砲ではないものの、リーグ3位タイとなる29本の二塁打と、同2位タイとなる5本の三塁打を記録。その結果として長打率.417と上位10位以内に入る数字を記録しており、長打率における本塁打以外の数字の重要性を示す存在となっている。
長打率を他の指標で補佐すると、打者の特性をより深く掘り下げられる
長打率は、打者の能力や生産性を推し量る上で有用な指標の一つとなっている。その一方で、名前に反して必ずしも純粋な長打力を指し示す指標ではなく、打者として多くの塁打を生み出す能力を表す数字である、という点には留意する必要がある。
そこで、より純粋な長打力を推し量るのに適した「ISO」や「AB/HR」といった指標を参照することによって、打者の能力をより深く掘り下げることが可能となる。来たる新シーズンでは、本塁打ランキングの上位を争う選手たちが記録している長打率やISOといった指標について、ぜひ興味を持ってみてはいかがだろうか。
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