五十嵐亮太さんが選ぶ今年のパ・リーグ優勝のキーマンは?

パ・リーグ インサイト 海老原悠

2024.3.18(月) 18:00

【撮影:パ・リーグインサイト】
【撮影:パ・リーグインサイト】

 日米5球団を渡り歩き、2020年の引退後は解説者として活躍する五十嵐亮太さん。この春も宮崎キャンプやMLBのキャンプを訪れ、精力的に取材を進めています。そんな五十嵐さんに今季のペナントレースを占っていただきました。今年絶対に見ておきたいと熱を込めて話す選手についても。

ーー今年の宮崎キャンプはどこの球団を見て回りましたか?

今回はセ・リーグ中心で、パ・リーグはホークスだけでした。

ーー新監督の元でホークスが変わった点は?

監督が変わるとチームの色も変わり、それに合わせてチームも変わらないといけないんです。キャンプでは自分の状態を上げていくことも重要ですが、選手がどこまで理解して野球ができているかを注目しました。

ホークスの今季のスローガンが「VIVA ビバ」ということですが、小久保監督は「私生活が野球に繋がる」という話をしている方なので、身だしなみなどをすごく大切にしている。だから唾を吐く選手はいなくなると思いますね。僕も選手とコーチという関係だった時代に注意されたことがあるんですが(笑)。やっぱり見られている仕事ですからね。

能力的にはどの選手も高く、今年右の大砲として山川穂高選手が加わったことでそこがどう機能するか。周東佑京選手が去年の終盤のような活躍を見せてくれれば1番に入って、2番・近藤健介選手、3番・柳田悠岐選手、4番・山川選手のように、どこをどう組み合わせてもクリーンアップはすごくいいメンバーになると思うので、打線はまず問題ないのかなと思います。

あとは先発ピッチャー。1番手は有原航平投手でしょうね。その次に勝ち星の順番だと和田毅投手になってきますが、注目はモイネロ投手がどれくらい先発適性があるかですね。

あとは東浜巨投手や石川柊太投手など名前は揃っているように見えるけど、去年の成績を見ると本人たちも納得いっていない成績なので、こうした選手たちがしっかり力を発揮することができれば、かなり高い確率で優勝すると思います。

ブルペン陣は抑えのオスナ投手がしっかりしているので、そこまでどう繋ぐか。藤井皓哉投手や松本裕樹投手、津森宥紀投手などが揃っているので、6回ぐらいまで(先発が)投げればどうにかなると思います。やっぱりオスナ投手の存在感は大きい。そして藤井投手は真っすぐとフォークのピッチャーだけど、今年からカーブもある程度投げていきたいという話をしていて、どこまでカーブを使えるのかというのが藤井投手のなかでポイントになると思います。

ーー五十嵐さんが考えるポストモイネロ投手は藤井投手ということですか?

そうですね。8回は藤井投手か松本投手。藤井投手は昨年、身体の状態がよくない時期があったみたいで、よくなってから比例して結果もついてきたという話をしていたので、身体の状態が良ければ7回、8回のどちらかには入っていくと思います。

ホークスは誰かが離脱しても他の選手で補えるぐらい戦力が揃っている。でも去年は際どいところで勝ちを逃しているので、それをどれだけ減らせるかがポイントです。小久保監督がイメージしている野球をどれだけできるか、ということ。勝ちを重ねることによって信頼関係が築かれるのでそこですかね。全ていい形で勝っていくのはシーズン通しては難しいので、よくないときにどのように戦っていくか。

ーー若い戦力について思うことは。

今回のホークスのキャンプは、全体の練習は2時くらいで切り上げてそこから先は各自に任せるというところで、若い選手が残って打ちまくっているという感じがそこまでなく、小久保監督はクタクタになるまで練習する姿を見せてほしいのかなと感じました。今の練習は効率的にはなっていますが、量をこなして「何とかレギュラー取るぞ」と気持ちを見せる選手が少なくなってきているのかなと感じます。

ーー現役時代を通してそういう場面はありましたか?

練習量は多かったですね。最近の選手が周りを気にしていないとは思わないですが、昔の選手のほうがプレーや練習姿勢に負けない気持ちが出ていましたね。こうしてチーム内の競争が生まれてきますが、今は自分は自分、他は他と区切れている。それはそれでいいと思いますが、ちょっと寂しさがありますね。

オフに違うチームの選手同士で練習して何かを吸収するのもいいことですが、「こいつには負けない」みたいな負けん気の強い選手は減ってきているのかなと思います。

ーー自主トレの過ごし方も変わってきていると言われています。球団を超えて弟子入りをしたり、他競技の選手との合同練習も目を引きます。

そうですね。技術を伝えるというのはコーチだけではなくなってきているのも特徴です。ピッチングフォームをさまざまな角度で見れる施設もあり、そこである程度形を作ってそれをキャンプで継続するというのが主力級選手の主流で、今年チームに戻ってきた倉野投手コーチはそのようなデータを選手と共にすり合わせができる方なので心強いかなと思います。

ーー情報量が多すぎて取捨選択できない選手も多いと思います。

その辺を判断してくれるのが倉野さんで、レンジャース傘下のマイナーリーグでコーチをしてきた経験は投手にとって大きいですよね。しっかり判断してくれるし、選手も納得できる。練習の方向性も定まってきます。

ーーホークスにとって倉野コーチはすごく大きな補強だったんですね。五十嵐さんが見たキャンプで光るものがある選手はいましたか?

今回だと前田悠伍投手は完全に育成システムに乗っかっていましたね。佐々木朗希投手の1、2年目に似た方針で、慎重にかつしっかり調整しているという感じでした。じっくり段階を経て育て上げるといった球団の意図を感じました。

線はまだ細いですが、筋肉の付き方はいいし、バネがあるような体つき。受け答えもしっかりしていて、考えていることに曖昧さというのは感じませんでした。

今季、登板するチャンスはあると思います。常に中6日でというのは難しいですが、中盤や終盤のどこかで経験させてよかったらまた間を開けてというように段階を経て経験させていけばと。順調に行けば今年中に見られる可能性はあると思います。

対抗馬はやはりオリックスか

ーー他のチームのことも聞いていこうと思います。まずリーグ3連覇中のオリックスについて。

山本由伸投手と山崎福也投手の貯金を誰が補うかは再三言われていることですが、それ以上に、山本投手の存在は投手陣のメンタル面に影響していたことも絶対に大きい。連敗中ってどの投手も辛いですが山本投手は絶対止めてくれるから、そういう支えがいなくなったときに、どれくらい別の投手がその役割を担えるかが重要だと思います。

宮城大弥投手や山下舜平大投手もいいものは持っていますが、山本投手がいなくなったことで気の持ちようも変わるなかで、どのようなピッチングをしてくれるのかは注目したいところです。もしくは、新しい先発投手が出てきて「やっぱりオリックスすごいな」となるのかもしれません。

打線は今までは頻繁に組み替えてフィットしそうな打順を選んでいましたが、広島から西川龍馬選手を取ったから、そこまで組み替えなくてもいい位の厚みにはなってきましたね。そう考えるとやっぱり投手2人抜けた穴をどう補えるかが大事だと思います。

ーー4連覇は可能だと思いますか?

ここまでいい野球をしているので可能性はとてもあると思います。でも他のチームは許すのか? という感じですね。あと中嶋監督がどういった野球をするのか。

ーー中嶋監督とは面識は?

ないですね。あんまりインタビューとかも話さないじゃないですか。でも結果を残していますよね。

ーーパ・リーグ6球団の監督座談会で、小久保監督が中嶋監督に「高卒若手の紅林弘太郎選手を起用した理由」を投げかけていました。

なんて答えたんですか?

ーー「ボーンヘッドはするけど、次はなんとかしてくれるかもしれないという期待感がある選手」だと。

結局はポテンシャルがあるから期待するんですよね。技術だけではなく人間性や魅力というのも見ていると思います。今は数字ばっかり見がちな時代だけど、そこだけじゃないし期待感があるっていう言葉が素敵ですよね。

ーーもう1球団のAクラス入り予想はどの球団でしょうか?

埼玉西武はおもしろいと思います。甲斐野央投手の補強は大きいですね。抑えとしても活躍する選手かもしれません。新人左腕の武内夏暉投手しかり、ピッチャー陣をみるとライオンズはかなり魅力的だと思います。

課題はやはり打つほうですね。と言っても勝ちで逃げ切れる態勢をつくっていけばいい。そのような戦い方もありです。そうなると、ピッチャー中心になり、どれだけ勝ちをひろえるかということになりますね。

ーー他3チームの注目選手は。

イーグルスは若い野手は出てきていますが、やはりピッチャーですね。則本選手が抑えに転向したことはいいと思います。そうなると計算がしやすくなるじゃないですか。ただ投手陣の年齢が高くなっていますので、ここがなんとか結果を残さなければ厳しい状況。やはりまだまだ田中将大投手に頑張ってもらわないと困りますよ! 本人もチームを背負う覚悟で、勝ち星を重ねていかないと、何かいい兆しをつくるのは難しいという状況ではありますかね。あとは新人と外国人ですかね。

ーーファイターズからポンセ投手が移籍し、広島からターリー投手を獲得。着実に補強はしています。

どこのチームも外国人選手というところがポイントになっていると思います。そう考えたらホークス投手陣とバファローズ、イーグルスはそれなりですね。ファイターズも比較的数は揃えましたが、実際やってみないとわからないところ、埼玉西武も実戦に入るまでは少しわかりにくいところですね。

ーーマリーンズの注目選手は?

吉井監督も去年すごくいい野球をやったと思うんですよ。吉井さんじゃなかったら、あの順位も難しかったのではないかと、正直思っています。そんななかで千葉ロッテの注目はやはり佐々木朗希投手。

ポスティングがささやかれているなかで、本人も結果を残したい気持ちは強いと思いますし、やはりある程度彼に頼らざるを得ないようなチーム状況ではあるので、フル回転でけがをせず回ってもらえば10勝以上は狙えるピッチャーなのですが、彼が投げている試合で点数入らないことには勝てないですからね。

ーー野手陣の奮闘が鍵に。

野手も佐々木投手で落としたくないと絶対意識するでしょう。そこでどういった点のとり方をするのか。序盤からバントなどで手堅く先制点を、となるんですよ。1点ずつ、1点ずつという野球になってくる。接戦が予想される戦い方になると思います。

抑えていても勝てないとピッチャーはどんどん苦しくなっていきますね。そういったときこそ、何か彼がチームにいい影響を及ぼすような流れをつくり、乗り越えることによって、彼もまた一段階、二段階と成長していくと思います。そういったところを注目していきたいですね。

ーー投手も野手もいい意味でヒリヒリとした空気感で戦うことになります。

さきほどの中嶋監督の話にもありましたが、数字だけじゃなく人間性もうまくコントロールしないと、選手はうまく機能しないような感じがします。やっぱりプレーするのはデータではなく人間だから。

といった意味でファイターズは、もちろんデータもそうなんだけど人間性も加味するチーム。新庄監督は、田中正義投手をうまく抑えで使い、環境的には何か力を発揮できそうなチームだなと思うんです。ただなんせ選手層が若いから、いい野球をするんだけどなかなか続かないという課題はあるわけです。

球場も新しく変わり、エラー数が多いのは若干仕方ないかなと思うんですよ。その辺も考慮しても、安定的に試合を重ねれば、強い時代が近くあるんじゃないかなって思うような戦力ですよね。

キーマンは昨年も言ったのですが、やっぱり伊藤大海投手ですね。伊藤投手は僕のなかでもっと来ていい選手なんですよ。ちょっと苦しい時期が長かったですよね。なので、今年どういった伊藤投手が見られるかっていうところは楽しみ。山崎福也投手が入ったので、投手陣はそれなりに安定感が出てきていると思うので。

ーーレイズへ移籍した上沢直之投手を補う、山崎福也投手の加入は大きいですね。

山崎投手はバッティングもいいので、新庄監督の起用法も注目ですね。

同じ速球派、佐々木朗希投手への思い

【撮影:パ・リーグインサイト】
【撮影:パ・リーグインサイト】

ーーさまざまな選手をキーマンとして挙げましたが、今年見逃せない選手を1名挙げるとしたら。

それは佐々木朗希でしょう! やはり彼の投球っていうのは、人を引きつける力があるので、次のオフにどういう選択をするにしても僕は注目するでしょう。でもやっぱり今年のオフに球団との話し合いが長引いたとか、本人の中で気持ちの整理のうえで今年に挑む意気込みも例年とは違ってきていると思うので、そういったなかで彼がどういった成績を残すのかは誰もが気になること。もちろんファンは“千葉ロッテ佐々木朗希”をずっと見ていたいんでしょうけど、こればっかりは球団と本人の中での決まり事なので、周りがあまり言えることではないですよね。

選手はもちろん早ければ早いほどいいわけだし、WBCで共に戦ったメンバーがアメリカに行って活躍している現状を見てはやる気持ちはわかるんですけど。まずは今季しっかり結果を残してもらいたいというのが僕の意見です。

ーー海外FA権の取得を待って五十嵐さんは移籍しましたが、ポスティングで行きたかった、もっと早いうちにいきたかったという思いはありますか?

いや、僕はそんな力がなかったし、そこまで今みたいにみんながみんなポスティングポスティングって言ってる時代ではなかったので。でも僕も日本でやってよかったなと思うし、早くに向こうの野球を知ることはいいけど、やっぱり日本での練習とか培われたものっていうのは、結局海外でもしっかり生きてくるんです。

もう少し佐々木投手のピッチングについて話をすると、現段階で完成度が高いので、日本にいるうちは去年と投球内容は変えなくていいのかなと思います。基本、ストレートとフォークの組み立てなんですけど、海外を意識しているのであれば、フォーク以外に何か1個、例えばカットボールとか球種を増やす可能性はあるんじゃないかな。まず今持っている変化球の質を上げていくことが大事になってくると思います。

あとは完全試合をするようなピッチャーですから、コントロールがいい。やっぱりストライクゾーンで勝負できるってのは彼の強みですよね。今年は何よりも怪我をしないで年間を通してやるっていうことが彼の目標だと思います。

それと、吉井監督のアメリカ行きについての選手の気持ちとか佐々木朗希の気持ちって、多分誰よりもわかると思うんですよ。

ーー五十嵐さんはホークス時代にコーチと選手の関係だった吉井監督の性格的な面や指導面もよくご存知で。

吉井さん自身も(1998年にメッツ入りしたが)きっと早く行けばよかったと思っていたと思うんですよ。なので、その辺がわかり合える監督っていうのはいいのかなと思います。

ただ、「コーチと選手」と「監督と選手」の立場はまた違うから。一野球人としてなのか、監督としてなのか、によって思いは変わってきますよね。

ーー今年佐々木投手の投球を見逃すと気軽に見ることが叶わないかもしれないですね。

そういう意味でも今年彼を追う価値はあります。既存ファンも、WBCの影響で初めて野球を見始めた方も、これから見てみようかなという方も、球場や中継で彼の勇姿にぜひ注目してください。

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パ・リーグ インサイト 海老原悠

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