【アジア野球CS台湾代表】NPB注目・曾峻岳に、157km/h右腕、WBC代表や「台湾王者」味全の主力も代表入り

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2023.11.13(月) 18:00

曾峻岳(富邦)は、NPBへのアピールを意気込んでいる(C)CPBL
曾峻岳(富邦)は、NPBへのアピールを意気込んでいる(C)CPBL

 11月16日~19日に東京ドームで開催される「カーネクスト アジアプロ野球チャンピオンシップ2023」。侍ジャパンが初日16日に対戦するのが台湾代表だ。16日の試合を含め、大会をより楽しんでいただけるよう、注目選手の紹介をメインに、台湾代表関連の話題をお届けしよう。

 今大会、台湾代表を率いるのは、台湾人野手初のメジャーリーガー、富邦ガーディアンズの陳金鋒・二軍監督だ。現役時代は「台湾の大砲」として知られ、国際大会、特に好投手に強く、アテネ五輪で上原浩治から、北京五輪アジア予選ではダルビッシュ有から本塁打を放った。

 11月9日、CPBLから最終登録メンバー26人が発表された。今年のWBC代表からも、投手の曾峻岳(富邦)、外野手の陳傑憲(統一7-11ライオンズ)と郭天信(味全ドラゴンズ)の3名が選ばれた。

 曾峻岳の名前を見てピンと来た方もいるだろう。曾は最速157km/hのストレートに、スライダー、フォークを持つ救援投手で、この7日に22歳になったばかり。今年2月、米「FanGraphs」サイトの国際プロスペクトランキングで台湾選手として唯一ランキング入りすると、WBCのキューバ戦ではピンチを迎えてから、今季ア・リーグHR3位、38HRのロベルトら世界の強打者を三者連続三振に仕留めた。シーズン開幕以降は、NPB球団のスカウトの姿が見られるようになり、特に北海道日本ハムの稲葉篤紀GMは熱心で、幾度も球場で姿を見かけた。

 CPBL3シーズン目の今季、54試合全試合が救援登板、2勝2敗、9ホールド、18セーブ、防御率1.22、被打率.161、三振率10.45と素晴らしい成績を残した。シーズン中は海外挑戦について多く語ることはなかったが、合宿では「今年は、海外でのプレーという『夢』が、『目標』に最も近づいた1年かもしれない」と述べ、「結果を気にしすぎるあまり、実力が発揮出なかったらどうしようという不安はあるが、とにかく全力を尽くしたい」と意気込みを語っている。モチベーションが最も高い選手の一人であることは間違いないだろう。

 東北楽天ゴールデンイーグルスの王彦程も選出された。2019年以来、育成選手としてプレーしてきた王は10月30日に自由契約となったが、それ以降も、合宿参加で帰国するまで東北楽天の秋季キャンプに参加していた。台湾メディアの報道によると、本人は今後も日本でのプレーを希望しており、マネージメント会社は東北楽天を含めNPB球団と交渉を行っているという。王は今季、8月以降調子をあげ、9月の杭州アジア大会にも出場、先発した日本戦では打線の援護がなく負け投手となったものの、6回2失点(自責1)と試合をつくった。今大会で侍ジャパンに選出された同僚の早川隆久とは激励し合ったといい、第一希望は韓国戦だとしつつも、「もし同じ試合で投げ合うことになったらおもしろい」と期待を示している。

CPBLを代表する本格派右腕、古林睿煬(統一)の日本戦先発はなるか(C)CPBL
CPBLを代表する本格派右腕、古林睿煬(統一)の日本戦先発はなるか(C)CPBL

 陳監督は先発候補として、古林睿煬(統一)、陳克羿(楽天モンキーズ)、江國豪(富邦)、そして前述の王彦程の4人の名前を挙げたが、一部の台湾メディアが、日本戦の先発として有力視しているのがCPBLを代表する本格派右腕、23歳の古林睿煬だ。

怪我が多いのが玉に瑕だが、MAX157キロの直球にカーブとチェンジアップを交える投球は見る者をワクワクさせる。今年は杭州アジア大会に出場、韓国戦、中国戦に中継ぎで登板し計4回を無失点、7つの三振を奪った。今シーズン三振は減ったものの被打率が改善、13試合80回を投げ、5勝2敗、防御率1.80という内容であった。今大会は球数制限の条件付きだが、統一側との話し合いの結果、球数の上限が引き上げられた。

 また、曾峻岳と共に抑え投手に指名されたのは、オーバーエイジ枠、2019年プレミア12代表の林凱威(味全)だ。2015年にアリゾナ・ダイヤモンドバックスと契約すると、2Aまで昇格、帰国後、昨年のドラフトで味全から1位で指名された。今季は51試合登板、3勝1敗12ホールド、18セーブと、ブルペンを支えた。

台湾王者味全ドラゴンズの若き主砲、劉基鴻が四番打者を務める(C)CPBL
台湾王者味全ドラゴンズの若き主砲、劉基鴻が四番打者を務める(C)CPBL

 一方、野手陣でまず注目なのは、陳監督に「彼ほどこの打順を理解している選手はいない」と言わしめた23歳の四番サード、劉基鴻(味全)だ。味全がリーグに復帰した2019年のドラフト会議で、一巡目1位で指名した劉は順調に育ち、今季は公式戦でリーグ最多となる136安打、16本塁打(リーグ3位)、80打点(同2位)をマークした。初の台湾シリーズでも初戦、先制そして試合を決める延長14回のサヨナラと、一試合2本塁打をマークするなど7試合連続ヒット、.367の高打率で優勝に貢献した。

 味全から選ばれた選手は、いずれも12日まで台湾シリーズに出場していたチームの主力で、優勝した勢いそのままにプレーをしてくれそうだ。WBC代表の外野手、郭天信はハッスルプレーが信条、打撃で結果が出なくても守備で盛り上げる。正捕手の蔣少宏は守りだけでなく、シリーズではバットでも貢献した。ショートの張政禹は凡ミスもあるが華麗な守備が魅力。さらに、外野手の林孝程は他チームにとって脅威となる脚をもっている。

 そのほか、岳政華(中信)や邱智呈(統一)の打撃や、現在はショートながら、今大会はかつてゴールデングラブ賞を2度獲得したセカンドでのプレーが濃厚な林靖凱(統一)の守備などにも注目していただきたい。

 今大会キャプテンを務める熱いハートをもつムードメーカー、オーバーエイジ枠、29歳の外野手の陳傑憲(統一)も見逃せない。岡山県共生高校では呉念庭(埼玉西武)の一学年下で、前回2017年大会は共に出場。楽天の古久保健二ヘッドコーチも「NPBレベル」と絶賛するバットコントロールの持ち主だ。今年はWBCでも活躍、統一の前期優勝にも貢献し、打率.315はリーグ3位、4年連続でベストナイン(外野手)に選出された。出場打診の際、陳監督からは、疲労の蓄積を心配されたというが、「自分らが若い時は先輩たちに引っ張ってもらっていた。選ばれたからにはリーダーを務めるのが責任であり、義務でもある」と、快諾した。

11月9日に発表された台湾代表最終登録メンバー26人(C)CPBL
11月9日に発表された台湾代表最終登録メンバー26人(C)CPBL

 現在、台湾プロ野球全6球団には日本人指導者がいる。今回の代表選手には一、二軍でこうした指導者から直接指導を受けてきた選手も多い。これでも一部のみだが、例えば、現在中信のレギュラーの岳政華は昨季、当時の平野恵一打撃・内野統括コーチからアドバイスを得たことが躍進のきっかけとなった。

  今季からサイドハンドに転向しブレイクした左腕、王志煊(楽天)を二軍時代から指導してきたのは、川岸強コーチだ。その頑張りを知るだけに、プレーオフで王がお立ち台に立った際には目をうるませた。先発候補の一人、陳克羿(楽天)も川岸コーチのアドバイスで不振を脱した投手だ。

  また、捕手の戴培峰(富邦)は、現・楽天の古久保ヘッドコーチが富邦のバッテリーコーチ時代に基礎から鍛え上げた選手。さらに、第6の球団、台鋼ホークスから唯一選出された二軍の二冠王(最多勝、最多奪三振)左腕、陳柏清は、横田久則コーチが手塩にかけ育てた。

 このほか、今大会は、普段は二軍で主に若手育成に励む許銘傑コーチ(楽天)と蕭一傑コーチ(味全)という、2人のNPB経験者が首脳陣入りした。日本のファンにもおなじみの元NPBの指導者が育てた選手たちが多数いるのだ。

 今大会の台湾代表の展望を語るならば、選手層という根本的な課題に加え、代表選出で兵役期間が短縮となる9月のアジア大会や12月のアジア選手権に挟まれたこと、さらにコンディション不良で辞退した主力選手も出たことで「ベストメンバー」とは言い難い。そのため、特に日本、韓国との試合は厳しい戦いになりそうだ。

 ただ、そうしたなか、陳金鋒・監督は合宿の初日、「皆はベストを尽くしてくれ。どんな結果になろうが、勝敗については俺が全ての責任を背負うから」と激励したという。10日の富邦戦は10対2、11日の社会人桃園市戦は8対3と練習試合は連勝、選手たちは14日に日本へ飛び立つ。元NPBの指導者たちも、選手らが食らいついてくれることを祈っているだろう。

CPBL応援団&チアリーダーに加え、WBCプールAのMVPも「応援」に(C)CPBL
CPBL応援団&チアリーダーに加え、WBCプールAのMVPも「応援」に(C)CPBL

 大会には、今や台湾プロ野球を語る上で欠かすことができない応援団やチアリーダーも「参加」する。台湾から駆けつけるのは、一軍5球団、計10名のチアリーダー、そして中信兄弟と味全の男性応援団長2人だ。

 国際大会への関心が高い台湾では、CPBLと大手旅行代理店が応援ツアーを企画、日本円で約20万円のツアーだが、約200名が参加予定だ。行程には、参加者限定のチアリーダーとのファンミーティングも含まれている。CPBLは12日、秘密だったツアーのスペシャルゲストが、張育成(現在FA)であると明らかにした。地元台湾、台中で行われたWBC1次ラウンドプールAで大活躍してMVPを獲得、今季はボストン・レッドソックスでプレーした張が、東京ドームでファンと共に台湾ナインを応援することになりそうだ。

 今大会は各日2試合が観戦できる「1日券」制、そして、日本戦以外は「応援ステージシート」を除きエリア内は自由席だ。応援の雰囲気は周囲の席でも十分に満喫できるだろう。コロナ禍に続き円安と、気軽に海外遠征がしにくい状況の今、東京ドームで観戦予定の方は、ぜひ「台湾スタイル」の応援を体感してほしい。来日した台湾のファンと交流を深める絶好のチャンスにもなるだろう。(情報は11月12日現在のもの)

文・駒田英                

関連リンク

台湾在住記者がファイターズファンに送る、「台湾の宝」孫易磊徹底ガイド
台鋼ホークス、二軍チャンピオンシップを制し来季の一軍参入に弾み
大混戦の後期は味全ドラゴンズが制す
王柏融の「契約所有権」譲渡の背景、真相を台鋼GMに直撃

記事提供:

駒田英(パ・リーグ インサイト)

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE