【台湾プロ野球だより】二軍チャンピオンシップは台鋼ホークスが制す、来季の一軍参入に弾み

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2023.11.3(金) 07:00

「胴上げ投手」となったのは元横浜DeNA、今季、楽天から移籍した38歳の王溢正(C)台鋼雄鷹球団
「胴上げ投手」となったのは元横浜DeNA、今季、楽天から移籍した38歳の王溢正(C)台鋼雄鷹球団

二軍チャンピオンシップは、公式戦1位富邦二軍と、2位台鋼ホークスの対決に

 台湾プロ野球は今季、一軍の公式戦は5球団、二軍の公式戦は昨年新たに加盟した台鋼ホークスを加えた6球団で行われた。

 一軍のポストシーズンは10月28日から、まず前期優勝の統一セブンイレブンライオンズと、楽天モンキーズとの間でプレーオフが、そして、11月4日からはこのプレーオフの勝者と、後期優勝、味全ドラゴンズとの間で台湾シリーズが行われる。一方、二軍は一足早く、10月17日から5試合3勝制の優勝決定戦、二軍チャンピオンシップが行われた。

 前後期制の一軍とは異なり、1シーズン制の二軍のチャンピオンシップは、年間1位と2位のチームで争われる。最終週を迎えた段階でも上位2チームは決まっていなかったが、10月10日、首位の富邦ガーディアンズ二軍が2位の味全二軍を下して年間1位を確定させると、3位の台鋼ホークスは10日から三連勝、味全二軍を土壇場でかわして2位に浮上、滑り込みでチャンピオンシップ進出を決めた。

 富邦二軍を率いるのは、昨季、二軍公式戦を1位で突破、チャンピオンシップも制し、「アジアプロ野球チャンピオンシップ2023」(11/16~19・東京ドーム)では、台湾代表の監督を務める陳金鋒監督だ。一方、台鋼ホークスは、台鋼グループから三顧の礼で迎えられた台湾プロ野球最多勝、通算991勝の名将、洪一中監督が率いる。

 台湾人野手初のメジャーリーガーである陳氏が、2006年にlanewベアーズ(楽天モンキーズの前身)に入団した際の監督が洪氏であり、陳氏は現役引退までの11年間、ほぼ洪氏の下でプレーした。

洪一中監督は、チャンピオンシップのMVPに指名された孫易伸。先ごろ、北海道日本ハムファイターズに入団した孫易磊の兄だ(C)台鋼雄鷹球団
洪一中監督は、チャンピオンシップのMVPに指名された孫易伸。先ごろ、北海道日本ハムファイターズに入団した孫易磊の兄だ(C)台鋼雄鷹球団

NPB経験者や、話題のあの選手の兄も出場した二軍チャンピオンシップ

「師弟対決」となった今年の二軍チャンピオンシップ、17日の第1戦、富邦二軍は、かつて埼玉西武でプレー、今年一軍では不振だった先発の郭俊麟が意地をみせ、7回被安打3、1失点(自責0)と好投すると、台鋼も防御率、奪三振の二冠、アジアプロ野球チャンピオンシップ代表に選ばれた左腕の陳柏清が7回2失点と粘りの投球をみせる。

 富邦二軍がそのまま逃げ切るかと思われたが、8回表、台鋼は二死満塁から代打の紀慶然の2点タイムリーで3対2と逆転、8回裏、今季二軍でホールド1位タイの許育銘、9回裏は、かつて横浜DeNAでプレーした38歳のベテラン王溢正が登板、いずれも無失点に抑え、逆転勝利を収めた。

 18日の第2戦も、富邦二軍の游霆崴、台鋼のサブマリン陳宇宏の両先発の投げ合いに。台鋼は4回表二死1、3塁から紀慶然のタイムリー内野安打、そして、さきごろ北海道日本ハムファイターズ入りした孫易磊の兄、孫易伸の左越え2塁打で2対0とする。台鋼はこの日も8回途中から二番手、許育銘、そして9回に王溢正を投入し、2点リードを守り、連勝で王手をかけた。

 20日に行われた第3戦も、台鋼は1対1の3回裏、藍寅倫のライト線へのタイムリー二塁打で勝ち越すと、孫易伸が、弟・易磊ら家族が見守る中、レフト前へのタイムリーを放ち2点追加、4対1とリードを広げる。台鋼の先発、昨年のドラフト1巡目指名、19歳の伍祐城は序盤は制球に苦しんだものの5回を1失点にまとめると、二番手林詩翔を挟み、この日も8回から許育銘、王溢正のリレーとなった。

 3試合連続の登板となった王溢正は9回表、外野フライ二つで簡単に2アウトを取ると、3人目の打者、林岳谷もすぐに追い込む。林もファウルで粘ったが、6球目、125km/hの変化球をひっかけた打球はサードへのゴロ、一塁塁審のアウトの判定と共に、台鋼のチームカラー、緑色の紙テープが投げ込まれた。が、富邦ベンチから「リクエスト」の要求。しかし、判定は覆らず、台鋼ホークスの二軍王座が決まった。

 洪一中監督は、「できたばかりのチームで、最初は打者も投手も安定感がなかったが、若い選手たちは努力をして、ゆっくり這い上がってきてくれた。選手が頑張ってくれなければ、監督は何もできない。選手たちには感謝をしたい。苦しいシーズンだったが、球場に来るのが楽しみだった」と振り返り、「最初は、数試合戦って1点取るのがやっとだった打線が、リーグトップの打率をマークするようになった。これが成長だ」と目を細めた。

 また、劉東洋GMは、「球団史に残る一年目での優勝はもちろんうれしいが、それよりもシーズン中に設定していたチャンピオンシップ進出という目標を達成できたことが大きい。若い選手たちにはとにかく、ペナントレースとは全く違う緊張感やプレッシャーがある中でのプレーを体験してもらいたいと思っていた。チャンピオンシップを戦えた経験は大きい。来季の一軍シーズンに繋がると思う」と、手応えを強調した。

 表彰式で、CPBLから優勝賞金5万台湾元(日本円約23万円)が贈られた直後、台鋼グループの王炯棻・董事長が200万元(約930万円)の上乗せを宣言するとナインは大喜び、記念撮影ではチーム全員が「一軍、待ってろよ!」と声を合わせ、気勢を上げた。

一時は最下位に転落も、巻き返してチャンピオンシップへ。洪一中監督は若手の成長を讃えた(C)台鋼雄鷹球団
一時は最下位に転落も、巻き返してチャンピオンシップへ。洪一中監督は若手の成長を讃えた(C)台鋼雄鷹球団

台鋼の快進撃を呼び起こした「世紀のトレード」

 チャンピオンシップ制覇も見事だが、台鋼の二軍公式戦後半の快進撃にも触れたい。台鋼は春先、一軍チーム相手のオープン戦では1勝9敗と苦戦したものの、二軍開幕後は10試合で6勝2敗2分け、首位に立つ好調なスタートを切った。しかし、大多数がシーズンの長丁場を知らないプロ初年度の選手とあり、次第にパフォーマンスが低下、チーム成績も落ち込み、7月16日には16勝22敗4分け、勝率.421で最下位に沈んだ。

 しかし、台鋼ナインはここから奮起した。8月初旬から中旬にかけ7連勝をマークするなど、8月から10月半ばまでの2カ月半はリーグ最高勝率をマーク、V字回復で2位に入り、チャンピオンシップ進出を果たしたのである。

 チャンピオンシップ開幕前、洪一中監督はシーズン後半の好成績について若手選手の努力と共に、「世紀のトレード」による効果も理由にあげた。「世紀のトレード」とは8月10日に楽天モンキーズとの間で交わされた、「1対3プラス1」のトレードである。

 台鋼は、7月のドラフト会議で全体1位で指名した元メジャーリーガー、WBC代表の林子偉を放出する代わりに、楽天からベテラン左腕の王溢正、ハッスルプレーが持ち味の外野手、藍寅倫、怪我からの完全復活を目指す若手右腕の翁瑋均の3人を獲得、さらに楽天球団との間で、将来的に王柏融(北海道日本ハム)が帰国した際、CPBLにおける「契約所有権」を台鋼へ譲渡することについても合意した。

 洪監督は、ベテランの王溢正と藍寅倫が、若手選手達に然るべき姿勢を示してくれたと評価、「これが、我々が彼らを獲得した大きな理由だ」と述べた。また、トレード直後、批判もあったなか、「今のチーム、そして来季のチームに何が必要か何度もミーティングで話し合い、分析した上で判断した」と、その獲得理由を説明していた劉東洋GMは、「計画通りです。2人が投打でリーダーシップを発揮してくれていることで、チーム内にさらなる相乗効果をもたらすことになるでしょう」と満足げな笑みをうかべた。

 実際、洪監督がチャンピオンシップのMVPだと称賛した孫易伸も、「藍寅倫先輩が、自分自身のチームにおける役割、プレー態度や考え方について、たくさんアドバイスしてくれたおかげで、大きく成長できた」と感謝した。

 一度は最下位に沈んでからの快進撃。そして二軍チャンピオンシップ進出及び優勝は、選手たちにとって自信、経験になったことは間違いないだろう。ただし、洪監督自身も強調していた通り、台鋼にとって真の戦いの場は、来季の一軍公式戦である。

 台鋼はこの冬、4年ぶりに開催されるアジアウインターリーグ(11月25日開幕)に単独チームで出場する。劉GMは「ウインターリーグという絶好の実戦の舞台で、選手たちが着実に成長していくことを期待したい」と力をこめた。台鋼では現在、台湾人投手コーチのほか、横田久則、福永春吾の両氏も投手の育成にあたっているが、ウインターリーグの期間、大物日本人指導者が客員投手コーチとして来台、主に若手を対象に2週間ほどの期間、指導を行う予定だという。

 即戦力選手、外国人選手の補強にも注目だ。台鋼は11月29日、日本人選手も対象とした新入団選手トライアウトを行うほか、オフには5球団のプロテクト枠18人(入団1、2年目の選手は含まず)以外から1人ずつ指名できる、2回目のエクスパンションドラフトが行われる。

 若手選手の成長、新戦力加入で、さらにチーム力を高めた「第6の球団」台鋼ホークスが、来季、一軍の舞台で台風の目となることを期待したい。

(情報は10月30日時点のもの)

文・駒田英

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駒田英(パ・リーグ インサイト)

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