リーグ3連覇を飾ったオリックス・バファローズ。59年ぶりの関西ダービーとなったSMBC日本シリーズでは阪神と第7戦までもつれる熱戦を演じたが、惜しくも日本一には届かなかった。それでもレギュラーシーズンは2位を15.5ゲーム差で突き離し、ぶっちぎりの優勝。かつてはBクラスが続くことも多かったが、2021年の中嶋聡監督就任を機にチームは変貌を遂げた。パ・リーグの3連覇は1990年から5連覇を果たした西武以来で、今のオリックスは黄金期を迎えたチームといって差し支えないだろう。今回は、「ナカジマジック」とも称される中嶋監督の手腕を、データを通して見ていきたい。
日替わりラインアップで3連覇も
中嶋監督の采配面で特徴的なポイントのひとつが、毎試合のようにオーダーを変えてくるところだろう。この3年間はすべてのシーズンで130通り以上のスタメンを組んでいた。日本球界全体の傾向として、近年は投高打低のシーズンが続いている。
そのこともあってか、パ・リーグではスタメンをやり繰りするチームが増加傾向にあるが、3年間すべてで130通り以上のスタメンを組んで戦ってきたのはオリックスのみ。また、今季のポストシーズンでも11試合すべてに異なるスタメンで臨んでおり、その方針は大一番でも一貫していた。
変幻自在なオーダーを可能とさせた選手たち
そんなオリックスの日替わりオーダーを可能にしたのが、ユーティリティープレーヤーたちの存在だ。今季スタメン出場した野手29人のうち、複数ポジションで先発起用されたのは21選手。これはリーグで2番目に多い人数だった。
選手個人で見ると、中川圭太選手は外野の全3ポジションと一塁の計4つで出場し、2年目の野口智哉選手も外野全ポジションとショートで先発出場するユーティリティー性を発揮。さらに、今季から加入したマーウィン・ゴンザレス選手は内野の全ポジション、シーズン途中にトレードで獲得した廣岡大志選手は内外野の5ポジションで出場するなど、日替わり起用を可能とさせる戦力の補強も行っていた。この複数ポジションで起用する対象はFAで加入した森友哉選手も例外ではなく、今季は公式戦で自身7年ぶりとなる外野手(ライト)でスタメン出場。森選手の外野起用はポストシーズンでも得点力の維持には欠かせないオプションとなった。
先発投手に対して強さを発揮
日替わりオーダーで臨んだとしてもそれが攻撃力につながらなければ意味はないが、今季のオリックスは先発投手に対するOPSでリーグトップの数値を記録。先発投手との対戦は、打席数で見るとシーズン全体の約65%を占める(23年はパ・リーグ全体で32031打席のうち20689打席は先発投手)。その比率でいえば先発投手の攻略はシーズン順位を左右しかねない要素といえる。
この結果を見ても、選手の状態や相性を考慮して変幻自在の打線で臨む中嶋監督の采配は間違いではなかったといえるだろう。また選手側の立場で見ても、相性の良い相手に対して起用されるのは試合前の準備面などでもプラスに働くと考えられる。相性による成績の向上だけでなく、モチベーションなど精神面においても選手たちに好影響を与えたのではないだろうか。
もはや代名詞ともいえる、コンディション管理の徹底
次は投手起用に目を向けたい。まず、リリーフの起用状況を確認すると、レギュラーシーズンでの3連投は一度もなし。今季日米通算250セーブをクリアして名球会入りを果たした平野佳寿投手が、記録達成後の記者会見で「無理をさせないといいますか、今日はやめておこうかといった決断をスパッとしていただける」と語るなど、投手陣の起用に関してはしっかりと管理されていたようだ。他球団を大幅に上回るシーズン86勝を記録しただけに、勝ちパターンを起用したくなるような展開は多かったはず。それでも主力投手がコンディション維持によりベンチを外れた試合では、しびれるような場面でも先発投手の続投や若手リリーフ投手の起用を選択。このことが投手陣全体の底上げという成果にもつながったようだ。
救援失敗が少ないリリーフ陣も鍵に
コンディション管理を徹底されたオリックス救援陣は、セーブシチュエーションで登板した投手が同点または逆転を許したケースが年間で11度しかなかった。セーブ機会とは9回に限らず3点リードの7回などクローザー以外が登板するケースも該当するため、この数字は救援陣全体の安定感を示したものといえるだろう。
複数年にわたり上位争いが続くと、その間に登板数が増加した勝ちパターンの投手が故障などで成績を低下させるケースもあるが、オリックスはこの3年間で救援チーム防御率を年々良化させてきた。主力投手の休養を兼ねて起用されたピッチャーが経験を積み自信を深め、チームが長期間にわたり勝ち続けられる分厚い投手層となったといえるだろう。
目をひく先制試合の多さと高勝率
ここまで日替わり打線による攻撃面とリリーフの起用法に注目してきたが、オリックスのストロングポイントのひとつは3年連続沢村賞に輝いたエース・山本由伸投手を擁する先発陣だ。先発陣が試合をつくり、攻撃陣は相手先発を攻略し、そしてリリーフ陣は救援失敗が少ない。そんな理想的なチームがつくり上げられたことで、先制した試合ではリーグ断トツとなる64勝を記録。先制した試合数自体も80試合とパ・リーグで頭ひとつ抜けており、その中で勝率.821という圧倒的な数字を残したことが、リーグ制覇の大きな要因となった。
2021年以降、シーズン終盤になると、「全員で勝つ」というスローガンを掲げるオリックス・バファローズ。中嶋監督はその言葉を体現するように、チームの戦力を最大限に活用し、選手個人のパフォーマンスを引き出す采配を振ってきた。昨オフには打線の中心だった吉田正尚選手がメジャーへ移籍し、今オフには山本投手も海を渡ることが濃厚だ。2年続けて大黒柱を失うことになったとしても、チームはナカジマジックで台頭した選手たちを中心に常勝球団の歩みを止めることはないだろう。
※文章、表中の数字はすべて2023年シーズン終了時点
文・データスタジアム編集部
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