前人未到の3年連続投手4冠を達成した山本由伸投手、21世紀初の完全試合を成し遂げた佐々木朗希投手など、投手の活躍が印象的な近年のパ・リーグ。球速や制球力などに加え、投手を語るうえで欠かせないのが「球種」だ。どのバッテリーもさまざまな球種を組み合わせ、打者との駆け引きを繰り返している。バッテリーがどの球種を選択するか、予想して楽しんでいるファンもいるのではないだろうか。
しかし球種の割合について、実際の数字を眺めたことのないファンは案外多いのではないだろうか。そこで今回は、パ・リーグにおける2023シーズン公式戦(交流戦含む)を対象に、球種割合を調査。どの球種がどの場面でどれほど投げられているのか一部ではあるが紹介したい。
ストレートは全球団40%台。球団ごとに特徴も
初めに、シーズン全体の球種割合を見てみよう。以下の表は、パ・リーグ6球団について、2023シーズン全143試合を対象に集計したものである。
どの球団も合計2万球前後の球を投じ、リーグ全体では12万球を超える投球が行われた。そのなかで最も大きな割合を占めた球種はストレートで、全球団40%台を記録。変化球で最も投じられたのはスライダーで、パ・リーグ全体で15.77%を記録した。次いでスプリットが12.29%となっている。
球団別に見てみると、ストレートの割合が最多の福岡ソフトバンクと最少の北海道日本ハムでは、約6ポイントの差が表れた。千葉ロッテはチェンジアップの割合が3.57%と最少である一方、スプリットの割合は15.38%で最多と、落ちるタイプの変化球で相対的にスプリットの割合が大きくなっている。カーブについてはどの球団も10%を下回った。
続いては、もう少し集計対象を絞ってまとめてみる。
得点圏ではストレートの割合が微減し、スプリットが増加
場面を限定した一例として、まずは得点圏での球種割合を紹介したい。以下は先ほどと同じく、2023年シーズン全143試合を対象に、得点圏(走者が2塁または3塁に1人でもいる場合)に限定して集計したものである。符号の付いた数字は、シーズン全体の割合(表1)との差を表している。
得点圏における一つ目の特徴として、全球団でストレートの割合が減少しているが、それでも北海道日本ハムを除く5球団で依然として、40%以上の割合を記録していることがわかる。一方、チェンジアップは全球団、スプリットは北海道日本ハムを除く5球団が割合を増加させており、落ちるタイプの変化球が多くなっている。北海道日本ハムについてもスライダーの割合が約3ポイント増加しており、得点圏では少しだけ変化球が増えるといえそうだ。
2ストライク時は、ストレートが減少し落ちる変化球が増加
今度はカウントという観点から見ていく。次の表3は、これまでと同じ対象を、2ストライク時に絞って集計したものである。
得点圏の時と同様、ストレートの割合が減少し、チェンジアップ・スプリットの割合が増加するという傾向が読み取れる。特にスプリットは、パ・リーグ全体で6.70ポイントも高くなっており、表1では変化球の中で最も多かったスライダーの割合を上回った。「追い込んだら落とす」というセオリーが読み取れる。
左投手はチェンジアップが増加し、スプリットが減少
最後に、投手の利き手についても見てみよう。表4は、これまでと同様の形式で左投手の場合について集計したものである。
左投手で顕著なのは、チェンジアップの増加とスプリットの減少である。特に埼玉西武においては、チェンジアップが8.25ポイントも増加している一方、スプリットの割合は4.65ポイント減少しており、左投手はチェンジアップ、右投手はスプリットという傾向が強い。北海道日本ハムだけが唯一、スプリットの割合がわずかに増加した。スライダーに関しては増加する球団と減少する球団が極端に表れ、福岡ソフトバンクが+13.31ポイントと大幅な増加を見せる一方、埼玉西武は11.07ポイントも減少する結果となった。
バッテリーと打者の心理戦も、野球の魅力
今回紹介した以外にも、対戦球団別、イニング別、アウトカウント別など、場面のわけ方はいく通りもあり、球種割合の傾向はいかようにも捉えることができる。さらには同じ球団でも、投手ごと、捕手ごとに異なる傾向が存在し、打者はそれらのデータを頭に入れつつ、次に来る球の予測を繰り返している。試合を観戦する時は、バッテリーと打者の心理戦に思いを馳せながら観てみると、新たな野球の魅力が見えてくるかもしれない。
文・武澤潤
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