前回の記事で紹介したように、台湾プロ野球の前期シーズンは統一ライオンズが制した。主力外野手3人、いぶし銀の活躍をみせた大ベテラン3人、ローテーションを支えた外国人先発4人、いわゆる「3-3-4」が、統一の前期優勝の鍵と言われたが、統一の優勝の立役者には元NPBの指導者、選手も含まれていた。
そのうちの一人が、春季キャンプから厳しい指導で内野手を鍛え、昨季、リーグ最下位だった守備率を、前期はリーグ2位へと引き上げた玉木朋孝内野守備コーチだ。
玉木コーチは、1994年から広島、オリックスで12年プレー、現役時代は守備の名手として知られた。引退後は広島のスコアラーを経て、2011年から昨年まで、12年間に及び広島で一、二軍の内野守備コーチを務め、球界一と言われるノック技術で、田中広輔、菊池涼介の「タナキク」コンビを支え、若手を鍛えた。
統一入りは、同じ昭和50年生まれで千葉ロッテ、横浜DeNAなどで活躍した清水直行氏から「統一で内野守備コーチを探している」という話があったことがきっかけ。世界各国の野球関係者とのパイプをもつBCリーグ・茨城アストロプラネッツの色川冬馬GMの紹介で、決まったという。
春季キャンプでは、当て補り用の「フラットグラブ」を手に、お手本をみせながら内野守備の基本的な動作から指導を始めた玉木コーチ、当初は二軍で若手選手の育成にあたるという話だったが、春季キャンプの時点で林岳平監督から一軍選手を見てほしいと要請され、開幕後、数週間二軍に同行した以外は、一軍メインで指導を行っている。
――前期シーズン優勝おめでとうございます。
ありがとうございます。(感想は)ビールかけまでさせてもらって、素直に嬉しいんですけど、「前期優勝」というのは経験がないので。まだ戦いがあるので、素直には喜べないというか、まだまだだという思いがあります。
――台湾の各メディアも、前期優勝の要因の一つとして、内野守備力の向上を指摘していますが、玉木コーチご自身、手応えは感じられていますか。
最初に来た時に一番思ったのが、基本ができていないという点でした。基本があってこそ試合での応用になってくるから、まずはそこを徹底させたという感じです。もっとも、キャンプ中にできなかったこともあるんですけど、そこを改善していったことが、シーズンに入っていった時、皆が意識してくれてやってくれたから結果に出ているのではないかなと。正直、まだまだではあるんですが。あとは捕る形とか基本だけじゃなくて、メンタル面とかも、個々に言ってきたもので、各選手に自覚が生まれてきたんじゃないかな、と思います。
――前期は、23歳の林靖凱をショートで固定して使いました。2020年、2021年、セカンドでゴールデングラブ賞を受賞し、昨季はセカンド、ショート併用でしたが、今シーズン、ショートに固定した決め手はなんだったのでしょうか。
言葉は悪いんですが、ぱっと見て、ショートを守らせるなら彼しかいなかったというところです。今後に生かすために、今年はショート一本でやったほうがいいんじゃないかなと思って、監督にも提案しました。彼をショートに固定すれば、セカンドが空くので他の選手にもチャンスが出てきますしね。もちろん、複数ポジション守れることも大事ですが、その場、その場でやってしまうと、野球を覚えられないし。まだまだ彼は若いですし、ショートって野球を覚えるポジションなんで、そういった面で、腹くくってやらせたほうがいいんじゃないかなと。
――NPBでは選手として両リーグでプレーされ、長期間指導者も務められた玉木コーチから見た台湾プロ野球の魅力を挙げていただけますか。
魅力は、全体的にみると身体能力の高い選手が多いことだと思います。あとは、いい意味でも悪い意味でも仲がいいというか、みんなでワイワイやるっていうのは、それも魅力なんじゃないですかね。あとは、ファンが盛り上がるんでこれも魅力だと思います。日本と違って、攻撃の時も、守備の時もにぎやかなので、お客さんは喜びますよね。それに、カープにはチアはいないので、チアも新鮮に思いました。
――統一ライオンズの選手たちに対して感じる課題、改善してほしい点もあるかと思いますが、どのような言葉をかけられていますか。
僕は「練習をおろそかにするな」ってよく言うんです。練習を適当にやっているやつは、試合でそうした点が必ず出るので。それは日本でも言ってきたんですけどね。練習一つ一つ、何をやるにも意識しながら、走塁でも守備でもバッティングでも、考えながら意図がみえる練習をしてほしいし、そうしないと成長しないので。特に、若い選手は一球をおろそかにしてはいけない身分であるのでね。課題というか、そこはしっかりやってほしいですね。
――後期シーズン、プレーオフ以降に向けた抱負、意気込みをお願いします。
1月26日にキャンプでみんなが集まった時、「最後、笑顔で終われるようにね」って言ったんですよ。その通りになってほしいです。前半は笑顔で終われましたけど、また、もう一回、皆で笑って、となるとやはり優勝。最後、頂点に立って終われるのがね。その中で、私は守備担当なんで、さらに強化して、意識をさせてってことですね。エラーを減らすってこと自体は目標ではないんです。野球人として、当たり前のことを当たり前にやってもらいたい。当たり前のゴロを当たり前にさばいてほしい。27個の内野ゴロがきたらしっかりアウトにするって意識をしてほしいし、それは練習からやってもらいたいですね。
◇◇◇
台湾では、その指導力と共に、厳格さがクローズアップされがちな玉木コーチだが、実際にお話を伺うと、江戸っ子気質でさっぱりとした真っ直ぐな人柄、そして野球に対しとにかく真摯な姿勢で向き合う指導者という印象を受けた。妥協を許さない厳しさは、あくまでも選手の成長を強く願うゆえの厳しさであり、実際、台湾プロ野球の課題について伺った時も、まず口にされたのは、設備、グラウンド状態、ジャッジなど、プレー環境改善を願う言葉であった。
林靖凱はじめ統一の若い内野手にとっては、日本球界でも有数の指導者の指導を受けられる貴重な機会だ。時には、厳しい言葉に反発したくなる時もあるかもしれないが、より優れた選手となる為に、食らいついていってもらいたい。
日本のファンへのメッセージを伺うと、玉木コーチは「私のファンというか、気にされている方もいると思うんで、気が向いたら見に来てくれたら」と少し照れながら話された。この夏休み、台湾にいらっしゃる予定のある方は、統一の試合をご覧になってみてはいかがだろうか。台湾の球場は開場直後は比較的、選手やコーチに声をかけやすい雰囲気がある。ファンの「ドレスコード」もゆるい台湾では、広島やオリックスのユニフォームで観戦したり、グッズを持ち込んでも全く問題ない。日本のファンをみかけたら、異国で奮闘する玉木コーチもきっと喜んでくれるだろう。
文・駒田英
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