【台湾プロ野球だより】2023年シーズン開幕 WBC「効果」で観客動員も好調

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2023.4.24(月) 22:00

史上最年少で開幕戦出場。スタメンマスクで勝利に貢献した宋嘉翔(楽天)。(C)CPBL
史上最年少で開幕戦出場。スタメンマスクで勝利に貢献した宋嘉翔(楽天)。(C)CPBL

開幕戦は楽天が逆転で中信兄弟を下す U18代表、高卒大物捕手がスタメンマスクで活躍

 4月1日、台湾中部、台中市の台中インターコンチネンタル球場で、台湾プロ野球34年目となるシーズンの一軍開幕戦、楽天モンキーズ対中信兄弟が行われた。台湾プロ野球は恒例により、開幕日は前年の台湾シリーズの対戦カード一試合のみが行われるが、開幕戦としては史上4番目、新型コロナウイルス流行後では最多となる18,395人のファンを集めて行われた。

 開幕投手は中信が2020年、2021年シーズンのMVP、ホセ・デポーラ、楽天が新外国人のブランドン・ワデルを立てた。開幕戦で外国人左腕が投げ合うのは、意外にもこれが初めてであった。
 
 試合は3回裏、中信がWBC代表の江坤宇のタイムリーで1点先制するも、その後は両先発がランナーを出しながらも要所を締め、1対0のまま終盤へ突入した。

 7回表、楽天は一死から四球とヒットで1、2塁の好機を迎える。中信ベンチはここで間をとったが、楽天の代打、廖健富が2ボールから143キロの直球を叩いた打球は、ライトスタンドへ飛び込む逆転の3ランHRとなり、デポーラをKO。楽天は8回表にもWBC代表林立のソロHRで1点追加すると、8回裏は陳冠宇、9回裏はヘーゲンズと、NPB経験をもつ投手の継投で失点を許さず、開幕戦を4対1でものにした。

 MVPには、代打逆転3ランの廖健富が選ばれたが、試合後、楽天の曽豪駒監督は廖と共に、この日のスタメンマスク、史上最年少(18歳と253日)で開幕戦出場を果たし、試合終了まで4人の投手をリード、7回表、チャンスを広げるプロ初ヒットもマークした昨年のドラフト1位、高卒新人の宋嘉翔を絶賛した。

「不安がないといえば嘘になるが、何より強肩。18歳の割にはキャッチングもいいので、技術面ではそれほど心配はない。これから色んな経験をして台湾代表を目指してほしい」と送り出した古久保健二ヘッドコーチも、試合後、「課題もあったけどね」としつつ、最後までホームベースを守り通したルーキーに「99点」の高得点をつけた。

 宋嘉翔は、台湾代表が準優勝した昨年のU18ワールドカップの正捕手。日本戦の初回、黒田義信(九州国際大付高-東日本国際大)の二盗を強肩で刺したシーンを覚えている方もいらっしゃるかもしれない。チーム開幕5試合で4試合スタメンマスクを被り、チームはここまで負けなし(4勝1分)。これから壁にぶつかることもあるだろうが、18歳の大物捕手の開幕からの活躍は、楽天だけでなく、台湾球界全体にとっても喜ばしいことだといえよう。

リーグ新記録が早速誕生 WBC効果&連休で観客動員も好調な滑り出し

 翌4月2日は、台中インターコンチネンタル球場で味全ドラゴンズ対中信兄弟、楽天桃園球場で富邦ガーディアンズ対楽天の試合が行われた。台中の試合前には、「兄弟」一筋、球団のレジェンドで、国際大会でも活躍した彭政閔・副GM兼ファームディレクターの永久欠番セレモニーが行われ、徹夜組を含め、開幕戦を上回る19,523人のファンを集めた。ただ試合は、味全の次世代の大砲と期待される22歳の劉基鴻がHRを含む4安打3打点の大活躍をみせ、7対5で勝利。前年王者の中信が本拠地で連敗スタート、という波乱の幕開けとなった。

 開幕早々、リーグ新記録も生まれた。5日の味全対統一セブンイレブンライオンズ戦では、統一の守護神、陳韻文が3対1の9回表に登板。三者凡退に抑え、今季2セーブ目、リーグ新記録となる通算130セーブをマークした。また、同じ5日には、楽天の陳禹勳が富邦戦で今季2ホールド目をマーク、通算118ホールドとしてリーグ1位に並んだ。

 日本ではWBC優勝の熱狂の余韻もあり、観客動員数が前年比で大きく伸びているというが、台湾も開幕以来、観客動員は好調だ。地元台中(プールA)で1次ラウンドを戦った台湾代表は、結果こそ、失点率が響き、5チームが2勝2敗で並んだなか、最下位となったものの、メジャーリーガーを複数擁するオランダ、イタリアに勝利、世界の強豪に食らいついた戦いぶりはファンを感動させた。これに連休が重なったことも追い風となっている。

 台湾の大手紙『自由時報』のまとめによると、4月5日まで開幕9試合の平均入場者数は10,518人と、昨年同期比でなんと4,000人以上増加、開幕前のWBCでベスト8進出、富邦の前身、義大ライノスがマニー・ラミレスを獲得し、空前の野球ブームとなった2013年(11,201人)に次いで、史上2番目となっている。

 一軍5球団のうち、最後にホーム開幕戦を迎えた味全も、7日は平日だったにも関わらず、収容人数約10000人の天母球場に9868人のファンが詰めかけた。来季は、台鋼ホークスが一軍参入、16年ぶりに一軍が6球団体制となるだけに、この盛り上がりを維持していきたいところだ。

4月5日、統一の守護神、陳韻文が、リーグ新記録となる通算130セーブを達成した。(C)CPBL
4月5日、統一の守護神、陳韻文が、リーグ新記録となる通算130セーブを達成した。(C)CPBL

WBCで見えた台湾野球の課題 CPBLもナショナルチーム強化へ向けて取り組み

 上述したように、WBCで台湾代表は1次ラウンドで敗退した。3月12日、4戦目のキューバ戦は、勝てばプールAを1位で準々決勝進出という試合だったが、序盤から投手陣が打ち込まれ1対7で敗戦。この瞬間、敗退も決まった。台湾代表を率いた統一の林岳平監督は、選手たちの健闘を讃えつつ、「プロ、アマ問わず、台湾球界全体で、投手力をいかにして引き上げることができるか」と課題をあげた。

 チーム内で競争意識をあおり、ファーム育成重視で一昨年、昨年と台湾プロ野球で連覇を果たした中信兄弟の林威助監督に、今回のWBC台湾代表の課題を質問したところ、林岳平監督同様、短期決戦における投手の安定感を挙げた。

 林威助監督はそして、「ご存知のように投手の育成は難しい。例えば、日本は野球部がある高校が4000校弱あるのに対して、台湾は200校弱(本格的な野球部となると約50校)、台湾の選手層は決して厚いとはいえない。ただ、それを言っても仕方ないので、我々は普段から選手たちには一定のレベルを求めていく。そして、台湾で満足してしまうのではなく、国際大会で活躍できるような投手を育てていきたい」と語り、そのうえで「勝つことと、多くの選手をナショナルチームに送り込むことが同時にできればベストだ」と期待を示した。

 ただし、現状は、各チームの外国人(一軍3枠)の大部分が先発型投手で、野手は昨年の優勝に貢献した中信の捕手、フランシス・ペーニャひとり。開幕から5試合目までの先発10人中、台湾人投手はWBC代表の黄子鵬のみだった。黄は7回無失点と好投も、開幕11試合を終え、まだ台湾人先発投手は勝ち投手になっていない。先発の外国人投手依存は顕著といえ、WBCのオランダ戦でロングリリーフとして好投した呉哲源(中信)のような台湾人の先発型投手がさらに増え、こうした傾向に変化が生まれることを期待したい。

 台湾プロ野球を運営するCPBLも、WBCの結果を受けて動き出している。蔡其昌・コミッショナーは、「海外リーグでプレーする台湾選手のコンディション把握、他国偵察の強化」、「侍ジャパンをモデルとしたナショナルチームの常設化」、「オフ期間の日韓等強豪国との壮行試合の実施」など、初歩的なナショナルチーム強化計画をまとめた。

 蔡・コミッショナーはまた、最も早ければ一シーズン制を来季から実施する可能性も示唆した。現行の前後期制は消化試合が減り、各チームにとってチケット収入面においてメリットがあるが、出場選手が主力に偏り、若手を試す機会が減るデメリットもあり、ナショナルチーム強化という目的のために、長期的な視野をもち、思い切った改革を行うこととなった。

台湾プロ野球の華、チアリーダー。往来がしやすくなった今こそ、球場で台湾式応援を体感しよう。(C)CPBL
台湾プロ野球の華、チアリーダー。往来がしやすくなった今こそ、球場で台湾式応援を体感しよう。(C)CPBL

一番敷居の低い「海外野球」  チアリーダー率いる台湾式応援をぜひ球場で

 今回のWBCを通じて、海外の野球に興味をもたれたファンもいらっしゃるだろう。残念ながら、台湾と日本との対戦は実現しなかったが、隣国で時差1時間、漢字(中国語)表記、そして、かつてNPBでプレーした選手、指導者のほか、日本人コーチも多い台湾プロ野球は、最も敷居の低い海外野球といえよう。

 今季は全6球団でフルタイムの日本人指導者が誕生した。3連覇を目指す中信兄弟は、平野恵一一軍打撃兼野手統括コーチが今季も林威助監督を支える。そして、昨季シリーズで涙を飲んだ楽天は、古久保健二一軍ヘッドコーチ、川岸強二軍首席投手コーチに加え、今季から真喜志康永氏が一軍総合守備走塁コーチに就任した。さらに、味全では、今年で4年目となる高須洋介氏が二軍打撃コーチを務めている。

 内野守備が弱点の統一には、今季から、「ノックの名手」玉木朋孝氏が一軍守備コーチに就任したほか、富邦も今季から垣内哲也氏が一軍打撃コーチに、昨年の秋季キャンプで客員コーチをつとめた酒井光次郎氏が二軍投手コーチに就任した。そして、昨年、第6の球団としてリーグに参入、今季は二軍公式戦を戦う台鋼ホークスの投手コーチには横田久則氏が就任した。

 一軍公式戦は、CPBLの有料OTT「CPBLTV」で全試合視聴可能なほか、味全の主催試合はスポーツ専門局「緯來體育台」の公式YouTubeで無料で視聴可能だ。また、CPBLの公式YouTubeでは毎試合、長めのダイジェスト映像をアップロードしている。

 今年11月16日から19日にかけては、24歳以下あるいは入団3年以内の選手による国際大会「アジアプロ野球チャンピオンシップ」が、6年ぶりに東京ドームで行われる。今大会は日本、韓国、台湾のほか、オーストラリアも出場する。出場資格をもつ若手選手たちに話を聞くと、活躍して代表入りを果たすことが今季のモチベーションとなっているようだ。シーズン中から若手の有望選手に注目しておくと、大会をより楽しむことができるだろう。

 そして、何よりもおすすめしたいのが、球場での生観戦だ。台湾でも、各種のコロナ対策が緩和され始めており、海外からの観光客を歓迎している。WBC期間、世界各国に発信され、今やすっかりおなじみとなった球場の花、チアリーダーが盛り上げる台湾スタイルの応援を、実際に球場で体感してみてはいかがだろうか。

文・駒田 英(情報は4月7日現在のもの)

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駒田英(パ・リーグ インサイト)

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