【台湾プロ野球だより】「『台湾スタイル』確立し、来季一軍で勝つための戦力育てたい」 新球団台鋼ホークスの若手育成担う、横田久則・投手コーチインタビュー

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2023.4.25(火) 23:00

台湾プロ野球第6の球団、台鋼ホークスの投手コーチに就任した横田久則氏 (C)CPBL
台湾プロ野球第6の球団、台鋼ホークスの投手コーチに就任した横田久則氏 (C)CPBL

 台湾プロ野球は4月1日の一軍開幕に続き、4月4日には二軍が開幕した。このうち何と言っても注目といえるのが今季から二軍に参入した第6の球団、台鋼ホークス(台鋼雄鷹)だ。エクスパンション・ドラフトでの獲得選手や他球団の戦力外選手は数名加わっているものの、昨年7月のドラフトで指名した選手約30人、つまりプロ経験のない若手が主体で、平均年齢は20代前半だ。
 
 そして、台湾プロ野球を運営するCPBL出身で、球界随一の「日本野球通」と知られる劉東洋GMが、若い投手陣の育成役として白羽の矢を立てたのが、近年は埼玉西武でファームディレクターを務めていた横田久則氏だ。

 現役時代、怪我に苦しみながらも幾度も復活し、西武、千葉ロッテ、阪神の3球団で実働11年間、26勝をあげた横田氏は、2002年、阪神から戦力外通告を受けると、兄弟エレファンツ(現・中信兄弟)に入団。制球力とフォークで三振の山を築き、初年度の2003年、キャリア最多となる164回2/3を投げ、16勝(3敗)で最多勝、翌2004年も140回1/3投げ、9勝をあげたが同年限りで引退、翌年からは同チームで2年間投手コーチを務めた。
 
 帰国後は、独立リーグの富山で投手コーチ、監督をつとめ、2012年からは古巣の埼玉西武で一、二軍の投手コーチ、ファームディレクターなどを歴任し、主に若手の育成に関わってきた。

 劉GMは「台湾ではプレー経験のみならず、指導者経験もあり、台湾の野球、選手、指導法を熟知している上、ファームディレクターの経験もあり、若いチームの指導者として適任」と語る。今年1月に監督に就任した台湾球界一の名将、洪一中監督も、埼玉西武での経験を、ホークスで発揮してほしい、と期待している。

 練習試合ではプールAを戦ったWBCオランダ代表に勝つなど健闘も、1軍チームとの対戦となったリーグ主催のオープン戦(10試合)は、2点差以内のゲームが6試合ながら初戦から9連敗、なんとか最終戦を5-4で制し、1勝9敗で終えた。

 ただ、二軍公式戦ではここまで健闘している。4月4日の開幕戦では、2020年、現役プロも参加した合宿で陳冠宇(現・楽天モンキーズ)から「佐々木千隼(千葉ロッテ)のようなフォーム」と評価された21歳の黄紹睿が6回2失点の好投をみせ、味全二軍を4対2で下すとそこから4連勝、12日まで4勝1敗と健闘している。特に先発投手がいずれも最低5回投げ、試合をつくっている。それでは、開幕前におこなった横田コーチのインタビューをご紹介しよう。

――まず、投手コーチ就任のいきさつ、決断の決め手について、教えていただけますか。

「今後もライオンズさんでお世話になりながら指導を続けるのもいいかなとは思っていたんですが、今年、56になるなか、台湾の新しいチームのオファーをいただき、いろいろ挑戦してみたいなと。ライオンズでも若い選手を見る、どちらかというと育成がメインの仕事だったので、劉GMから選手の平均年齢が23歳と聞き、今まで自分がやってきたことで、何かお役に立てるんじゃないかなっていう思いで来ました。台湾に恩返しって思いもありますし、自分が学んできたことをここで発揮できればな、と」

――ご自身がプレーされていた当時と、現在の台湾プロ野球の選手を比較して、投手のレベルの変化は感じられますか。

「レベルは当然ながら上がってるなって思ってます。当時は私達含め外国人に頼るところが大きかったんですけど、台湾人選手がかなり伸びてきてるっていう印象はもっています」

(※筆者注:2003年の兄弟の公式戦登板投手は11人のみ。うち外国人は5人で、横田久則、中込伸、ジョナサン・ハーストの主要外国人3人の投球回数は、チーム全体の54%に達した。2022年の中信兄弟は一軍登板投手は計29人、外国人全7投手の投球回数は全体の4割弱だった)

――ただ、WBC台湾代表は1次ラウンドのプールAで2勝2敗と健闘するも失点率で最下位となり、準々決勝進出を逃しました。台湾代表の監督、統一の林岳平監督は「いかにして台湾球界全体で投手力を引き上げることができるかが課題」と指摘しました。横田コーチはこの点について、どう思われますか。

「その点はまさにその通りだと思います。台湾の選手が伸びていくことが、非常に大きなウエートを占めるんだろうと思います。日本などと比較してもあれですが、やっぱり九州と同じぐらいの国土なわけで、かつ野球人口自体が少ないなか、数ある能力の高い選手をいかにして伸ばしていくかっていうことは、CPBL含め、台湾球界全体の課題になってくると思います。僕もそこで貢献できれば、と思っています」

――オープン戦を振り返って、現状の戦力、特に投手力についてどのように分析をされていますか。

「正直言うと、やっと全体像が見えてきたかなっていうところです。実は一軍とのオープン戦の前、『これ全部負けるよ。それぐらいレベルが違うよ』っていうことを話してます。ただ、その中からどうやって成長していくかっていうのがこれからの課題なので、そこを含めてこれからやっていきたいなと思ってます。正直言っちゃうと、二軍公式戦でもなかなか厳しい戦いが続くのかな、と思ってます。ただ、当然ながら最終的な目的は来季一軍に参入したなかで勝つこと。そのために、どうやって選手を育てるか、これが目的ですので。その辺はしっかり個人の能力を伸ばしながら、頑張っていきたいですね」

――台湾にいらしてからの3カ月、選手たちにはどういうことを伝えてこられましたか。

「僕がいつも言うのは、何を目的とするかっていうこと。野球をただ漠然と一日、毎日するわけではなくて、とにかく僕たちは来年一軍で勝つことを大きな目標にしていますから、そのための戦力になりなさい、そのためには、どうすればいいか、何が必要なのかっていうことをしっかりと選手たちに分け与えているところです。勝つためには、戦力になるためにはどうしたらいいか、それを選手と擦り合わせながらやっています。

 台湾はここ10年ぐらいアメリカの指導者が多くて“アメリカスタイル”だと言われたり、今年からは日本のコーチが増えて「日本スタイル」だとか言われていますが、そういうのは僕はあんまりピンとこなくて。自分が経験したことは必要であれば取り入れますけれども、僕が作りたいのはあくまで「台鋼雄鷹(ホークス)スタイル」、もっと言うなら“台湾スタイル”を育てていったらいい。底辺が小さい、野球人口が小さい、限られたなかで人材をいかにして効率よく成長させていけるかっていうのが台湾野球全体に必要なことかなと。そのための、ある意味でのロールモデルになればいいな、っていう思いで考えています」

――試合をみていますと、先発候補は既にある程度絞り込んでいる印象です。投手の役割分担は決定した形でしょうか。

「イメージとしては大体決まってますけど、固定するつもりは全くまだないです。来年のところでいい状態を作りたいので、今そのバランスを見ているところです。もっと言うなら、7月にドラフトがあります。どういうバランスがベストなのかを今探ってるところです。

 まだまだプロとしてやったことがない子たちなので、これからいろんな勉強が必要になってくる。本当に基礎的な体力をつけなきゃいけないところと、プロとしての体力が必要なところと、うまく棲み分けしながら育てていきたい。何より、怪我に繋がらないようにしっかりとやっていきたいですね」

――二軍公式戦に加え、秋にはアジアウインターリーグへ単独チームで参加すると聞いています。来年の一軍参入へ向け、投手陣をどのように育成、整備していきたいと考えてらっしゃいますか。

「これはもう、誰が一軍レベルで使えるのかを見極めなければいけません。残念ながらやっぱり力及ばずっていうところが出ると思いますので、その辺に関しては二軍で鍛えて、もう一度やり直すというところで。今まず考えてるのは一軍で通用するレベルの選手をどれぐらい作れるか、ということです」

――二軍の試合も、日本から視聴が可能です。日本のファンへのメッセージをお願いします。

「今回のWBC、大谷翔平選手の活躍が光り、かなりの盛り上がりを見せました。ただ、それでもワールドスポーツではないかな、っていうところもあるなかで、我々がアジアでしっかりと、何かうまくできればいいなっていう、そういう思いでいます。日本の皆さんも韓国や台湾、その他のアジアのチームにも注目していただいて、アジアでもっと野球が盛り上がるようになったらいいな、と思っています。ぜひ台湾のプロ野球に注目してください」

「台鋼スタイル」で台湾における投手育成のロールモデルを目指したい、と決意を語った横田コーチ  (C)CPBL
「台鋼スタイル」で台湾における投手育成のロールモデルを目指したい、と決意を語った横田コーチ (C)CPBL

 ご紹介したのは一部だが、横田コーチのひとつひとつの言葉からは、台湾野球に対する深い思いと共に、来季一軍で活躍できる投手を一人でも多く育てたい、という強い意欲が伝わってきた。

 横田コーチの、アジアの野球を盛り上げていこうというメッセージは、奇しくもWBC優勝後、大谷選手がTVのインタビューで話した内容と同じだ。ちなみに、今季は一軍公式戦には出場しない台鋼の選手も、11月に開催される24歳以下の国際大会「アジアプロ野球チャンピオンシップ」の代表メンバーの選抜対象となる。この秋、横田コーチが育てた投手が東京ドームのマウンドに立ち、日本はじめ各国の同世代のトップクラスの打者と対戦する姿を期待してほしい。

 台湾プロ野球の二軍戦は、毎週の木曜日と金曜日、現地時間午後2時(日本時間同3時)から、有料のCPBLTVのほか、無料のCPBL公式YouTubeでも生中継が行われる。もちろん現地観戦も可能だ。二軍戦は無料で入場できる。

 各チームの二軍には、台鋼の横田コーチのほか、楽天モンキーズに川岸強投手ヘッドコーチ、味全ドラゴンズに高須洋介打撃兼内野守備コーチ、富邦ガーディアンズに酒井光次郎投手コーチがおり、統一ライオンズの玉木朋孝守備コーチは一、二軍を巡回している。台湾で奮闘する日本人指導者の皆さんも、球場で日本のファンの声を耳にしたら、きっと嬉しいだろう。
 
 今回は、横田投手コーチのインタビューを中心にお届けしたが、同球団では来季の一軍参入に向け、ファン獲得のためのさまざまな取り組みも行っていく。劉GMによると、今や台湾プロ野球に欠かすことのできない存在となったチアリーダーについては、秋以降の結成を予定しているほか、実力と話題性を兼ね備えた目玉となる外国人選手の獲得も計画しているという。また、NPB球団との交流や日本人選手の入団も期待される。当コーナーでは今後も新球団、台鋼ホークスの話題を定期的にお伝えしていく、お楽しみに。

文:駒田英(情報は4月13日時点のもの)

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