今季の山川選手の活躍は、2011年に“初代”が見せた打撃を思い起こさせる
埼玉西武の山川穂高選手が、本塁打ランキングのトップを独走している。今季は球界全体が投高打低の傾向にあるなかで、その影響をほぼ感じさせない打撃を披露。自身3度目のタイトル獲得に向けて、現時点では視界良好と言えそうだ。
こうした山川選手の大活躍は、同じく投高打低だった2011年に、チームメイトの中村剛也選手が見せた打撃を思い起こすものでもある。山川選手がかつて「おかわり2世」の異名を取っていたこともあり、この二人がそれぞれ打者不利の環境もどこ吹く風で、他を圧倒する成績を残したシーズンが存在する点は、興味深い共通項となっている。
今回は、2011年の中村選手と2022年の山川選手の活躍ぶりを紹介。それに加えて、この2シーズンにおける両選手の活躍を各種の指標をもとに比較し、まさしく他を圧倒する活躍ぶりだった両名の打撃を振り返っていきたい。(記録は8月9日の試合終了時点)
リーグ全体の1割以上にあたる本塁打数を、たった一人で記録してみせた
中村選手は歴代14位となる通算449本塁打を記録している稀代の長距離砲だが、その輝かしいキャリアの中でも、2011年に見せた活躍は出色のものだった。
このシーズンは自己最多タイとなる48本塁打を記録し、本塁打王と打点王の2冠を獲得。本塁打ランキング2位だった松田宣浩選手の本塁打数は25本であり、実に23本もの大差が開いていた。また、同年のリーグ全体で記録された本塁打数は454本。中村選手はたった一人で、リーグ全体の1割を上回る数の本塁打を記録するという離れ業をやってのけた。
中村選手はそのキャリアを通じて、大小さまざまなケガに苦しめられてきた。そんな中にあって、2011年は現時点でキャリア唯一となる全試合出場を達成。打率やOPSといった観点では2009年がキャリアハイと言えそうだが、2011年もそれに匹敵する好成績を残していたことは間違いないだろう。
何より、統一球導入の影響でリーグ全体の打撃成績が低下する中で、その影響をほぼ感じさせない規格外の打撃を見せていた点は特筆ものだ。周囲からの突出度という観点でいえば、2011年の中村選手は、まさに歴史的な活躍を見せていたと考えられる。
序盤に故障離脱も、自身初の2冠王に向けてハイペースで数字を伸ばす
山川選手は2018年と2019年にそれぞれ40本を超える本塁打を放ち、2年連続で本塁打王に輝いている。また、打点に関しても2018年から2シーズン連続で120以上という素晴らしい数字を記録したが、2018年は浅村栄斗選手、そして2019年は中村選手と、いずれも同一球団所属の選手に阻まれ、打点王は一度も獲得できていなかった。
今季の山川選手は故障離脱がありながら、89試合の出場で33本塁打とハイペースで本塁打を量産。現時点で2位の浅村選手とは15本差をつけており、本塁打王の獲得は濃厚となっている。また、打点も2018年と同じく浅村選手との競り合いとなっているが、こちらも9打点差でリードしており、自身初の打点王を手にする可能性も十二分にありそうだ。
それに加えて、長打率.643、OPS1.031という圧倒的な数字が示す通り、打撃内容自体も抜群。今季は多くの打者にとって難しいシーズンとなっているが、山川選手はその影響を全く感じさせていない。パ・リーグを代表する和製大砲が、故障の影響もあって苦しんだ過去2シーズンの不振から完全に脱却し、いよいよ完全復活を果たしつつある。
2011年の中村選手の成績と、今季の山川選手の成績を比較すると……
次に、2011年の中村選手の成績と、2022年の山川選手の成績を143試合に換算した場合の数字を、それぞれ比較していきたい。
2011年の中村選手は打撃2冠を獲得したことに加え、先述の通り、リーグ全体の本塁打数の1割以上を一人で叩き出していた。この年に千葉ロッテが記録したチーム本塁打(46本)をたった一人で上回ったことも含め、一人だけ次元の違う打撃を見せていたと言えよう。
そして、山川選手の現在の数字を143試合に換算すると、シーズン46本塁打に到達する計算となる。2011年の中村選手にはわずかに及ばないものの、非常に優れたペースと言えよう。また、出塁率、長打率、そしてOPSはいずれも2011年の中村選手を上回る数字となっており、指標の面では当時の中村選手をも凌駕する値を記録している。
投高打低の状況にあって、両者のバッティングはまさに群を抜いていた
ここからは、より詳細に打者の能力を測る打者が1打席あたりどの程度チームの得点増に貢献していたかを示す指標である「wOBA」と、リーグ内における平均的な打者と比較した際に、どれだけ多くの得点をチームにもたらしたかを示す「wRAA」という指標をもとに確認していきたい。(※wOBAは失策出塁を加味しない簡易的な計算式を使用)
wOBAはおよそ.330が平均値とされているが、2011年と2022年のリーグwCBAは、いずれも本来の平均値を大きく下回っていた。この2シーズンがいわゆる投高打低の状態にあったことが、数字の面でも証明されているといえよう。
その一方で、2011年の中村選手と2022年の山川選手はその影響を受けることなく、平均を大きく上回る数字を記録。この2名のリーグ内において傑出したバッティングを見せていたことが、あらためてうかがい知れる。
wRAAに目を向けても、両者は非常に優秀な数字を残している。wRAAは平均的な打者の数値がちょうど0になる指標であるため、中村選手と山川選手はそれぞれ、平均的な選手よりも50点以上多くの得点をチームにもたらしている計算になる。
wOBAは1打席ごとの期待値を示す指標であり、打席数の大小は評価の対象とはなりにくい。その一方で、wRAAはシーズン全体の貢献度を求めるため、打席数が多い打者ほど数値が高くなりやすい。そのため、全試合出場を達成した2011年の中村選手のほうが、故障離脱があった今季の山川選手よりも、さらに高い数値を記録している。
今季の山川選手がフルシーズン出場していたら、さらに驚異的な数字に……
では、仮に今季の山川選手が143試合にフル出場していたとしたら、どのような数値となっていたのだろうか。その試算結果は、下記の通りとなっている。
このように、山川選手は2011年の中村選手を上回る数字を記録していた計算となる。ホームラン数もフル出場であれば年間54本に到達するペースだったため、返す返すも序盤戦での離脱が惜しまれるところだ。しかし、今季の山川選手が出場した試合においていかに圧倒的な打撃を見せてきたかが、これらの数字によって証明されたともいえよう。
他を圧倒する成績を残す4番の存在は、チームにとっても大きなアドバンテージに
リーグ全体の1割を上回る数の本塁打を放った2011年の中村選手の活躍は、まさに驚異的なものだった。そして、今季の山川選手がそれに匹敵するレベルで突出したバッティングを見せていることも、今回取り上げた数値や指標によって明確となっている。
これらの数字からも、山川選手が現在見せている豪打そのものが、歴史に残るレベルの強烈な突き抜け方をしていると言えそうだ。そして、激しい首位争いを演じる埼玉西武にとっても、他を圧倒する四番打者の存在は、非常に大きなアドバンテージとなっている。チームのV奪回に向けて打棒を振るう和製大砲のバッティングに、いま一度注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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