台湾プロ野球では初の「ホークス」、チームカラーは緑、「T」の字ベースの球団ロゴも明らかに
6月8日、台北市内のホテルで、台湾プロ野球第6のチーム、「台鋼雄鷹」のリーグ加盟セレモニーが行われた。セレモニーには、台湾プロ野球を運営するCPBL(中華職業棒球大聯盟)の蔡其昌・コミッショナー、台湾鋼鉄グループ(TSG、台湾スチールグループ、以下台鋼)の謝裕民・会長、そして、3月末に球団GMに就任した劉東洋・GMらが出席した。
台鋼は3月2日、CPBLと「加盟意向書」を締結、この意向書は4月27日にリーグの常務理事会で既に承認されていたが、8日のセレモニーの席上で、CPBLの蔡・コミッショナーと台鋼の謝・会長が契約書にサイン、正式にリーグ加盟が決定し、台湾プロ野球は2008年以来、14年ぶりに6球団体制となった。
セレモニーでは、チームの英語名「TSG HAWKS」のほか、球団ロゴなども発表された。今年で33年目となる台湾プロ野球においては、過去にも中国語のチーム名に「鷹」がつく「時報鷹」というチームが存在したが、英語名は「China Times Eagles」であった事から、台湾球界では初めて「ホークス」が誕生したこととなる。
チームカラーはダークグリーンなど、グリーンがベースとなった。これは、既存5チームとの差別化に加え、本拠地、高雄市の市章にも緑色が用いられていること、そして、親会社TSGのエコ重視の精神に符合することから選ばれたという。
球団ロゴは、TSGの「T」の字と、鷹の鋭利なくちばし、羽を広げ飛翔するイメージを融合したシンボルマークが大きく描かれ、その下に、本拠地、澄清湖球場の所在地、高雄市の英語名「KAOHSIUNG」、さらに、球団名が中国語と英語でそれぞれ書かれている。
なお、マスコットについては、年末か来年の年初に発表されるといい、ユニフォームも、今年は暫定的なものを着用、正式なユニフォームは来年以降、明らかにされるという。
注目の監督についての発表はなく、過去、楽天モンキーズの一軍ヘッドコーチやアジアウインターリーグのCPBLチーム監督などを務めるなど、豊富な指導経験をもつ高雄出身の林振賢 氏の統括コーチ就任のみ発表された。
TSGホークスは、来季は二軍、2024年シーズンから一軍に参入する。完全にゼロからのチームづくりとなる中、7月のドラフト会議での指名・契約、元プロ選手の獲得などを経て、9月から40名前後のメンバーで始動する予定だ。こうした中、現時点では監督の人選は行わないといい、まずは林・統括コーチ、そして、今後発表されるコーチ陣が選手の選抜、育成を行っていくこととなる。
「日本通」のGM就任で、日本人指導者の招聘やNPB球団との交流、提携への期待大
3月30日、球団の初代GMに就任した劉東洋・氏は、台湾球界きっての日本通だ。関西大学大学院への留学経験をもち、阪神タイガースのファン。帰国後の2006年、CPBLに就職し、リーグ発行の月刊『職業棒球』雑誌の記者、編集長のほか、海外球界との連絡、折衝を行う国際グループのグループ長や、リーグのPRなどを行う宣伝推進部の主任などを歴任した。『職業棒球』雑誌でNPBに関するコラムを長期連載してきたほか、2021年シーズンまで『パ・リーグインサイト』にて繁体字でパ・リーグの近況を伝える週1連載を執筆。さらには中継の解説者を務めた経験もある。
日本語が非常に流暢で、国際大会やNPBとの交流の際は、主にCPBLの日本担当窓口として活躍、日本球界およびメディア関係者からの信頼はあつく、幅広い人脈をもつ。NPB各球団の経営やプロモーションについても明るいことから、第6の球団をリーグをあげて支えていくことをかねてから表明してきたCPBL蔡・コミッショナーの推薦もあり、初代GMに就任した。
劉・GMは、北海道日本ハムや東北楽天のフランチャイズ経営の成功モデルを、ハードルが高いと指摘される南部・高雄での球団経営の参考にしていきたいと話している。
また、選手育成においても、客員コーチとして日本人指導者を招聘するプランを明らかにしている。劉・GMは理想的な日本人指導者像として、かつて兄弟エレファンツ(中信兄弟の前身)で内野手の守備力強化に加え、高いプロ意識も伝え、すぐれた選手や指導者を多数生み出した榊原良行氏の名を挙げ、第二の「バラさん」となる指導者を招聘したいとしている。
台湾プロ野球では、前身のラミゴ時代から積極的にNPB球団との交流戦、交流イベントを行ってきた楽天モンキーズをはじめ、多くの球団が日本球界との交流を重視してきた。「日本通」の劉 氏のGM就任により、各領域における日本球界、日本企業との交流、コラボレーションが実現しそうだ。
独自トライアウトには元プロ25人含む466人が参加
第6の球団誕生を心待ちにしていたのはファンだけではない、プロを目指すアマチュア選手や、再起を期す元プロ選手も同様だ。
台湾は本格的な野球部をもつ高校が50校弱と少数精鋭で、プロを多数輩出した高校となるとさらに限られるが、世代のトップクラス以外がドラフト指名対象となるためのハードルは高い。この6月に高校を卒業した選手は、リーグ、あるいはいずれかの球団による推薦、もしくは出身高校の監督の推薦があれば指名対象となるが、大学生や社会人の場合、世代別大会を含む主要国際大会の代表経験をもたない場合、リーグや球団から推薦を受けるか、もしくは国内主要大会の投打各部門で成績上位3位に入らなければ資格を得られない。
そのため、これらの資格をもたない選手は、ドラフト会議前に行われるCPBL新人トライアウトに参加し、ここでアピールして、リーグないし球団の推薦を得なければならない。ただ、このCPBLトライアウトで合格し、資格を得ても、本指名される選手は少ない。
こうした中、TSGホークスは、ダイヤの原石を発掘しようと、CPBL新人トライアウトとは別に、独自の新人トライアウトを本拠地の澄清湖球場で開催した。大多数の選手にとっては貴重なアピールの機会、特にTSGは今年、大量指名が予想されることから、トライアウトにはなんと720人が申込み、書類審査通過者だけで473人と予想を超える反響となった。その為、予定よりも1日増やし、6月13日、15日、16日の3日間、終日にわたって行われた。
最終的に、元プロ選手25人を含む466人が参加した。TGSホークスは今回のトライアウト実施にあたり、林・統括コーチのほか、6人のコーチを招き審査を行った。審査はフィジカルテストが40%、実戦テストが60%で、実戦テストでは、投手は球速と回転数、打者は打球の初速と角度も計測された。
劉・GMはトライアウト終了後、受験者の中から少なくとも30名をドラフト指名対象として推薦することを明かした。また、直接獲得が可能な元プロ選手については、伸び代がある若手中心となる方針を示したが、経験豊富な選手も、リーダーシップなどを考慮した上で獲得する可能性はありそうだ。
注目のドラフト会議は7月11日に行われる。アメリカや日本でプレーしていた代表クラスの大物が多数帰国した昨年に比べ、今年の候補者は全体的に小粒だ。そして、いの一番の指名権をもつTSGの一軍参入は再来年ということもあり、将来性を重視しセンターラインの1位指名が予想されている。こうした中、高校球界を代表するショートの曾子祐(平鎮高中)は有力候補の一人だ。
TSGホークスは、既にフェイスブックのファンページ「台鋼雄鷹 TSG HAWKS」を開設している。日本では野球以上の関心を集めることもあるチアガールもまだおらず、現時点では地味であることは否めないが、ここまで読んでいただいたディープな野球ファンの皆さんには、今後、日本球界との交流も予想される台湾プロ野球第6の球団、TSGホークスの動向を、ぜひ先取りチェックしていただきたい。
文・駒田 英
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