林威助監督率いる中信兄弟が4連勝で11年ぶりに台湾王者に

2021.12.14(火) 07:00 駒田英
中信兄弟 林威助監督(C)CPBL
中信兄弟 林威助監督(C)CPBL

「林桑(リンさん)」、日本野球のエッセンスも加え栄冠つかむ

 12月1日、台湾南部、台南球場で行われた台湾シリーズの第4戦、ここまで3連勝で台湾一に王手をかけていた中信兄弟は、統一セブンイレブン・ライオンズを5対0でリードして迎えた9回裏、チームの勝ち頭、シーズン16勝のホセ・デポーラをマウンドに送った。デポーラは1死1、3塁のピンチを迎えたものの、郭阜林を147キロの直球で空振り三振に仕留め2アウト、続く陳重廷には粘られたものの、9球目、変化球にバットが空を切り、この瞬間、中信兄弟の8度目の台湾王者が決まった。セレモニー後、4回宙に舞った林威助監督は会心の笑顔をみせた。

 中信兄弟のシリーズ制覇は、前身、兄弟エレファンツ時代の2010年以来、実に11年ぶり、2014年に中信兄弟となって以降、昨年までの7年間のうち台湾シリーズに6度出場もいずれも敗退、昨年を含めそのうち2回は、3勝1敗と王手をかけてから逆転されており、悲願ともいうべき台湾一達成であった。
 
 林威助監督は「とてもうれしい。疲れたけれど興奮している。今、一番感動している」と喜びをかみしめ、球団、スタッフのサポート、そしてファンに感謝を示した。そして、「自分はずっと、チームをより良く、より強くしたいと願ってきた。選手たちにはいろいろ厳しく言っていたが、ここまでついてきてくれた。その結果、最高の成果を得られた」と選手を称えた。
 
 中信兄弟は、これまでの5人の監督時代、いずれも台湾シリーズへ進出も、台湾王者には手が届かなかった。林威助監督は今回、一軍監督就任初年度、3年契約の1年目にして、チームを台湾王者へと導いたことになる。

 林威助監督は、阪神を2013年に退団後、同年のドラフトで中信兄弟から3位指名を受け入団、4年間プレー後、2018年から昨年2020年まで二軍監督を務めた。林監督の厳しくも愛情ある指導もあり、中信二軍は1位1回、2位2回と安定した成績を残し、二軍チャンピオンシップでも2回優勝した。昨オフ、台湾シリーズ優勝を逃した中信は、林監督の手腕を評価し、一軍監督に引き上げた。

 林監督が二軍監督時代、常々強調していたのが、「基本的なプレーの大切さ」、「態度」、「チームプレーの重視」といった事柄であったが、一軍監督就任後もこうしたスタンスに変わりはなかった。

 戦術面においても、台湾プロ野球の公式球の反発係数が見直され、以前のような「打高投低」ではなくなった中、守りをより重視、攻撃においても、バント、ヒットエンドラン、1、3塁からのダブルスチールなどを多用、1点を取りに行く野球をめざした。

 投手陣は、デポーラが16勝、鄭凱文が12勝と先発の軸となり、リーグ唯一の防御率2点台(2.86)を誇るブルペン陣がリードを守った。シーズンの守備率は台湾プロ野球史上最高の.984、エラー数はリーグ唯一の二桁、最少の73だった。また、犠打数はリーグ最多の106回、台湾シリーズ第4戦でも一試合最多記録タイとなる4つの犠打を決めた。結果的に、台湾シリーズでは長打数の差が決め手となったものの、年間を通じ、林監督の野球観が表れた戦いぶりであった。 

 選手起用においても、二軍監督時代に実力を把握していた若手を積極的に抜擢、選手も期待に応え、けがで離脱した主力の穴を埋め、チーム内に競争意識をもたらした。  
 
 前期シーズン優勝、後期も統一に0.5ゲーム差の2位と結果を出した中信兄弟であったが、常に順調であったわけではない。11月初旬、打撃が深刻な不振に陥り4連敗、1位統一とのゲーム差が4.5ゲームまで開いた際には、一部のファンから、バントを多用する戦術を揶揄され、「これでは今年も台湾シリーズで勝てない」と、監督辞任を求める声まであがった。しかし、それでも戦い方を変えることはなかった。

 年間を通じて、試合中は厳しい表情が多かった林監督、「大したことない」と語ったものの、台湾シリーズ終了後には、シリーズ開幕前日の未明、胃腸炎で救急外来を受診していたことが明らかになった。中信兄弟は熱狂的なファンが多く、期待の大きさの分、そのプレッシャーは相当なものであったと思われるが、シリーズ3連勝後も「最後の一試合を勝つことが最も困難だ」と強調、気を緩めず、第4戦も着実にものにした。

 選手たちから「林桑(リンさん)」と呼ばれる林監督は、日本プロ野球経験者として初めて、シリーズを制した台湾人監督となった。高校から日本へ留学した林監督の指導スタイルは、台湾では日本スタイルと呼ばれる。これまで台湾プロ野球には、多数の日本人指導者がいたが、必ずしも成功例ばかりではなく、文化の違いからすれ違い、軋轢が生まれることもしばしばあった。

ただ、台湾人であり、実際に台湾プロ野球で選手としてプレー経験もある林監督は、精神面、技術面など、選手に対する要望を、選手に近い目線に立ち、噛み砕いて、かつ直接伝えることができる。

林監督はシーズン中にも、バント成功率の低さを課題として指摘しており、目指している野球の実現はまだ道半ば、というところだろうが、豪快さが持ち味の台湾野球に、日本野球の緻密さが加わり、他チームにも影響を及ぼすことになれば、台湾球界全体のレベルアップにもつながるはずだ。

 試合終了後のインタビューで来シーズンの目標を問われた林監督は、ファンの声援に促されるように、「もちろん2連覇だ」と答え、笑顔で2本指を立てた。前身の兄弟エレファンツ時代には3連覇を2度達成している中信兄弟、再び黄金時代を迎えることができるか、来季の戦いぶりに注目だ。

中信が投打共に統一を圧倒、昨年の雪辱晴らす

トロフィーを掲げる林威助監督(C)CPBL
トロフィーを掲げる林威助監督(C)CPBL

 では、シリーズを振り返っていこう。昨年と同じカードとなった今年の台湾シリーズ、後期シーズンは統一が制したものの、終盤失速したことから、地元紙『アップルデイリー』によるシリーズ予想では、中信有利と予想する解説者の数が上回った。ただ、各氏いずれも6戦目以降に決着すると見ていた。しかし、結果は2対0、8対3、7対4、5対0で、中信兄弟の4連勝に終わった。中信は4試合通じ、一度もリードを許すことはなかった。

 一方的な結果となった今年の台湾シリーズ、投、打、守のいずれも中信が統一を上回った。中信は4試合で8人の投手が登板、エースのデポーラ、日本プロ野球経験者の呂彦青と鄭凱文、そしてバルデスの先発4投手がいずれも試合をつくり、元埼玉西武の李振昌が2セーブをあげるなど、チーム防御率は1.25。一方、統一は第1戦先発のダイクソン、第4戦先発の胡智為はQSの好投をみせたが、第2戦、第3戦の先発外国人投手は序盤で降板、12人の投手が登板し、防御率は5.29であった。

 さらに顕著だったのは打撃であった。中信のチーム打率は.254、32安打中9本が長打、うち何と7本がホームランで、22打点を挙げた。リードオフマン、王威晨も.353で文字通りチームを牽引した。統一のチーム打率.221、安打数の29こそ中信と遜色なかったが、このうち長打は、林安可が第3戦で放った二塁打1本のみ。7打点に留まり、25三振を喫した。

エラーは中信が2、統一が4。中信の守備にも乱れがなかったわけではないが、統一は勝負の流れを手放す痛いエラーが目立った。

 統一は昨年の台湾シリーズ、年間勝率は5割を切る.487ながら、安定した投手陣を誇り、下馬評では有利と見られていた年間勝率.568の中信を、1勝3敗からの3連勝で下し、ファンを歓喜させた。今季はレギュラーシーズン終盤まで、中信と年間勝率1位を争っていたが、11月初旬に4連敗を喫した中信と入れ替わるように失速、後期優勝こそ果たしたものの、最後の8試合を1勝7敗で終え、年間1位の座を明け渡し、短期決戦のシリーズも、チーム状態を立て直せないまま、4連敗で終えた。
 
 統一の林岳平監督は「今回は投、打、守の全てにおいて負けた。チームをつくり直し、また中信兄弟に挑戦したい」と再起を誓った。 

 シリーズMVPには、打率.417、2本塁打をマークした中信の詹子賢が輝いた。詹は昨年のシリーズでは不振にあえぎ、一部ファンから厳しい批判を浴びたが、今年は試合後、喜びの涙を流した。優秀選手には、中信から2試合9回7奪三振、無失点のデポーラ、統一からは、7安打2打点、打率.438と孤軍奮闘した林安可が選ばれた。

中信兄弟の本拠地・台中洲際棒球場 (C)CPBL
中信兄弟の本拠地・台中洲際棒球場 (C)CPBL

 今シーズンは、新型コロナウイルスの市中感染拡大により、一軍公式戦が2カ月中断、台湾シリーズ第4戦は史上初めて12月に開催された。7月中旬、シーズン再開直後の無観客から、段階的に入場制限を緩和し、11月初旬には制限なしの100%入場としたが、シーズンを無事に終えることができた。改めて、運営を支えたCPBLや各球団、そしてグラウンドで熱戦を繰り広げた指導者、各選手にお疲れ様といいたい。

文・駒田 英

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