最多勝争いをリードする4投手のうち、2桁勝利経験者は1名のみ
今季のパ・リーグにおける最多勝争いは、かなりの混戦模様となっている。8月22日の試合終了時点で、宮城大弥投手が11勝、山本由伸投手が10勝、高橋光成投手が9勝、岩下大輝投手が8勝、7勝を挙げている投手が6名と、先の展開が読めない状態が続いている。
宮城投手、山本投手、高橋投手、岩下投手の4名に関しては、2019年に10勝を挙げた高橋投手を除いて、いずれも2桁勝利を挙げた経験すらない。そういった意味でも、例年とはやや顔ぶれの異なる最多勝争いとなっている点も特徴的だ。
今回は、先述した4投手の特徴や、各投手の好調さを支えている要素について紹介。それに加えて、各種の指標を用いて投球内容をより詳しく見ていくことによって、今季の最多勝争いをリードする投手たちの活躍を、あらためて確認していきたい。(以下、成績は8月24日の試合終了時点)
宮城大弥投手(オリックス)
宮城投手は高卒1年目の2020年に、早くも一軍デビューを飾って1勝を記録。2年目を迎えた今季はさらに長足の進歩を遂げ、オリックス躍進の立役者の一人となっている。今季は開幕から先発ローテーションの一角に加わり、5月末の段階で早くも5勝目を記録するなど、序盤から順調なペースで白星を積み重ねていった。
その後も状態を落とすことなく投げ続け、8月13日の千葉ロッテで10勝目をマーク。両リーグを通じて最も早く、2桁勝利に到達した投手となった。6月9日の巨人戦から現在に至るまで自身5連勝中で、今季喫した黒星はまだ交流戦・阪神相手の1つのみ。高卒2年目の若さながら、最多勝と最高勝率の2冠も狙える位置につけている。
140km/h台の速球に加え、横滑りするスライダー、鋭く縦に落ちるチェンジアップ、大きな変化を描く緩いカーブと、緩急をつけられるうえに質も非常に高い変化球を3つも備えている点が、宮城投手の大きな長所といえる。容易に的を絞らせない引き出しの多さは、若さに似合わぬ完成度の高さで、左のエースの座を確固たるものとしそうな勢いだ。
山本由伸投手(オリックス)
山本投手は2019年に防御率リーグ1位、2020年は同2位と、先発転向後は抜群の安定感を発揮してきた。だが、勝ち星は2年続けて8勝止まりと、打線とかみ合わずに2桁勝利には手が届かず。昨季は故障もありながら最多奪三振のタイトルを活躍するなど、投球内容はより良化していただけに、足りないのは白星だけ、という状態が続いていた。
しかし、今季は開幕から例年通りの安定した投球を見せているだけでなく、しっかりと白星もついてくる好循環に入っている。前半戦終了時点で自己最多を上回る9勝をマークし、8月20日の埼玉西武戦で自身初の2桁勝利を達成。五輪でも先発陣の一角として金メダル獲得に貢献する活躍を見せており、キャリアハイのシーズンとなりそうな気配も漂わせている。
最速で150km/h後半に到達する快速球に加えて、フォーク、スライダー、カットボールといった各種の変化球も140km/hを上回る速度を誇る。速い球だけではなく、ブレーキの利いたカーブを交えて緩急をつけられる点も特徴だ。1つ1つの球種のレベルが非常に高く、いずれの球も空振りを奪えるだけの精度を備えているため、当然ながら打者にとっては的を絞りづらい。現在のNPBでも屈指の先発投手だろう。
高橋光成投手(埼玉西武)
高橋投手は高卒1年目の2015年に5勝を挙げ、8月には史上最年少で月間MVPに輝く快挙も達成。続く2016年には先発ローテーションとして22試合に登板したが、4勝11敗と大きく負け越す結果に。そこから2年間の低迷を経て、プロ5年目の2019年に再び台頭し、自身初の10勝を記録する活躍を見せたが、防御率4.51と安定感に課題を残してもいた。
続く2020年はシーズンが120試合に短縮されたこともあって8勝止まりだったが、防御率3.74と安定性が増し、自身初の規定投球回にも到達。さらなる活躍が期待された今季は8月24日時点で9勝を挙げ、防御率3.06とさらに投球内容を向上させた。エースとしての期待に応える投球によって、先発陣を引っ張る活躍を見せている。
最速で150km/hを超える快速球と、好調時には140km/h台中盤に達する高速フォークが大きな武器。それに加え、フォークに近い球速帯から微妙に変化するカットボール、鋭く縦に曲がるスライダー、110km/h台のブレーキの利いたカーブといった多彩な球種を備え、打たせて取ることができる点も長所だ。年を経るごとにその投球の完成度は高まりつつあり、今年はさらなるステップアップの気配も感じさせている。
岩下大輝投手(千葉ロッテ)
岩下投手はプロ1年目の2015年オフに右ひじを痛めてトミー・ジョン手術を受けたが、長期のリハビリを乗り越え、2018年に一軍デビューを果たす。当初は中継ぎが主戦場だったが、2019年以降は先発に配置転換されて登板を重ねた。2019年は故障、2020年は新型コロナウイルス感染と、2年連続で不運に見舞われて離脱する期間もあったが、先発不足のチームにあって、貴重な本格派として奮闘していた。
2021年も開幕ローテーション入りを果たすと、先発陣に離脱者が相次ぐ中で堅実な投球を続けた。7回以上を投げたのは1度のみと消化イニングは多くないが、6月末の時点で4失点以上は1度のみと試合を壊すケースも稀で、前半戦だけで自己最多の8勝をマークした。7月13日と8月17日にいずれも5失点以上を喫し、防御率は1点近く悪化してしまったが、自身初となる2桁勝利、さらにその先に向けて、ここから状態を戻していけるかに注目だ。
最速150km/hの速球と、130km/h台後半から140km/h台に達する切れ味鋭いフォークが投球の軸に。今季はそれに加えて、縦気味の変化ながらフォークとは球速も変化も異なるスライダーと、大きく曲がる緩いカーブも効果的に使えるようになり、投球の幅がより広がっている。先発投手に必要な引き出しも増えつつあるだけに、今季の活躍を通じて、先発陣の中心としての立ち位置を確立したいところだ。
三振を奪う、打たせて取るというタイプの違いがはっきりと表れている
最後に、今回取り上げた4名の投手について、セイバーメトリクスの分野で用いられる指標をもとに分析していきたい。
山本投手と宮城投手は奪三振率と与四球率だけでなく、3.50を超えれば優秀とされるK/BBにおいても優れた数字を残している。制球力と奪三振率の双方が優れているという両投手の特徴が、これらの数字にも表れていると言えよう。とりわけ、山本投手はイニング数を上回る奪三振を記録しており、与四球率も2.00を下回るという、素晴らしい水準の投球を見せている。
それに対して、高橋投手と岩下投手は奪三振率とK/BBはそこまで高くはなく、打たせて取る投球を主体としていることがわかる。与四球率がやや高くなっている点は少し気がかりではあるが、速球とフォークを武器とする本格派の2投手が、いずれも三振を狙いに行くのではなく、敢えて打たせて取って結果を残しているという点は興味深いところだ。
優勝争いと同様に、最多勝争いの行方も最後の最後まで要注目
昨季は短縮シーズンということもあり、2桁勝利を挙げたのはリーグ全体で4名のみ、11勝の3投手で最多勝を分け合うという、過去に類を見ないシーズンとなっていた。翻って今季は宮城投手が既に10勝を挙げているように、数字の面でも昨季とは趣の異なるハーラーダービーとなることは間違いなさそうだ。
はたして、シーズンが終わった時に最多勝のタイトルに輝いているのは、どの投手になるのだろうか。順位の面でも混戦が続くパ・リーグにあって、同様に最後の最後まで激しい争いが予想されるタイトル争いと、それをリードするであろう各投手の投球に、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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