大下誠一郎は初打席初ホームラン 2020年インパクトを残した「育成出身選手」

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(C)パーソル パ・リーグTV
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 近年活躍が目立つ「育成出身選手」。記事前編では育成から支配下へ昇格することがどれほど厳しいのかを考察した。今回の後編では競争を勝ち抜いた育成出身選手の中から、2019シーズン以降に支配下に昇格した若手のなかでも、2020年インパクトを残した6球団の「育成出身選手」を紹介しよう。

前編はこちらから!

怒涛の活躍でリーグ制覇に貢献 福岡ソフトバンク・周東佑京

2017年育成ドラフト2位で入団した周東佑京選手は1年目から二軍で90試合に出場し、27盗塁でウエスタン・リーグの盗塁王に輝いた。2019年、開幕3日前に支配下登録が言い渡されると主に代走として起用され、チームトップの25盗塁をマーク。侍ジャパンでも代走の切り札として実力を発揮し、プレミア12優勝に貢献した。

 2020年はシーズン中盤からリードオフマンへ急成長。負けられない試合が続いた10月は、1試合3安打以上を5度記録するなど打率.306、出塁率.353をマーク。一方、自慢の足では13試合連続盗塁のプロ野球新記録、育成出身選手初の50盗塁、そして念願の盗塁王と記録ずくし。2021年もこの男から目が離せない。

圧巻のスピードを持つ期待の新星 千葉ロッテ・和田康士朗

 2017年育成ドラフト1位で千葉ロッテに入団した和田康士朗選手。プロ2年目の2019年はファームで103試合に出場し打率.264、イースタン2位タイの23盗塁と1年目を上回る活躍を見せた。3年目の昨年6月に支配下登録され、そのまま開幕一軍の切符もつかむ。デビュー戦となった6月19日の福岡ソフトバンク戦では、1点を追う9回表に代走で出場し「甲斐キャノン」をすり抜けプロ初盗塁を成功。さらに印象的だったのは8月16日の北海道日本ハム戦。この日は「1番・センター」でプロ入り初のスタメン出場し、打って走って3安打3得点3盗塁。このときリーグトップタイとなる12盗塁に並び、一躍その名をとどろかせた。

 10月に新型コロナウイルス濃厚接触者と判定されたため一時離脱したものの、終わってみれば規定打席未到達ながらリーグ3位となる23盗塁。新たなスピードスターは2021年も盗塁王争いに名を連ねるだろう。また「ワギータ」と呼ばれるほどのフルスイングは、和田選手のもう一つのアピールポイント。レギュラー獲得へ打撃も磨きをかける。

激烈な外野手争いへ名乗りを上げる 埼玉西武・高木渉

 埼玉西武・高木渉選手は2017年の育成ドラフト1位。1年目はファームで75試合に出場し6本塁打、24打点、打率.278と高卒1年目ながら好成績を残した。2019年シーズンから支配下登録されたが、この年の一軍出場は1試合のみ。

 2020年は8月13日に「1番・センター」でスタメン出場を果たすと、プロ初安打を含む2安打1打点と起用に応える活躍ぶり。翌14日は3安打2打点で初めてお立ち台に上がった。直後に怪我で二軍調整となったが、再昇格した9月には地元・福岡でプロ初本塁打をバックスクリーンへ放り込むと、その3日後にも2号ソロを放っている。

 秋山翔吾選手のメジャー移籍から一年。外野そして1番打者のポジションが空いたままといえるだけに、A班入りした春季キャンプから粘り強いバッティングでアピールだ。

苦労を乗り越え支配下へ返り咲き 楽天イーグルス・下妻貴寛

「下から上へ」のイメージが強い育成だが、怪我や長期リハビリなどの影響で支配下から育成契約に変わるケースも。楽天の下妻貴寛選手がその1人だ。

 下妻選手は2012年ドラフト4位で入団するが、当時の正捕手・嶋基宏選手の壁は高く、なかなか出場機会を得られず。2016年にはU-23侍ジャパンに選出されるも、怪我にも悩まされ、2018年オフに育成選手として再契約を結んだ。

 独立リーグ・BC武蔵に派遣されるなど苦労を乗り越えた男は、2020年2月に支配下へと返り咲くと、自身最多の43試合に出場し、9月24日の千葉ロッテ戦ではプロ8年目で待望の初本塁打が出た。再スタートの第一歩を踏み出した下妻選手は2021年もさらにギアをあげる。

チーム初の育成上がり 北海道日本ハム・樋口龍之介

 2018年より育成ドラフトで選手を指名するようになった北海道日本ハムにおいて、育成選手契約で入団後に支配下契約を結んだ初のケースとなったのが樋口龍之介選手だ。

 樋口選手は名門・横浜高校を経て立正大、独立リーグ・新潟アルビレックスから、2019年育成ドラフト2位で北海道日本ハムへ。1年目からファームで45試合で52安打、12本塁打、32打点、打率.342といずれもリーグ上位の好成績をおさめ、9月22日についに支配下登録。

 打線の起爆剤として期待が高まる中、一軍デビュー戦となった9月23日の埼玉西武戦で「7番・サード」でスタメン出場。第3打席に埼玉西武・宮川哲投手のカットボールを逆方向に打ち返し、これがプロ初安打となった。10月25日の楽天戦では待望の初本塁打が生まれた。しかし25試合で打率.140の成績でシーズンが終了し、26歳のオールドルーキーには物足りない結果となった。2021年はシーズン通して安定したバッティングを披露し、レギュラーをつかみ取りたいところ。

球団史に名を刻む鮮烈デビュー オリックス・大下誠一郎

 2019年の育成ドラフト6位でオリックスに入団した大下誠一郎選手。プロ1年目はファームで力強いスイングでアピールを続け、58試合に出場し、2本塁打、21打点、打率.219。9月に支配下登録を勝ち取ると、劇的な瞬間を迎えることになる。

 支配下登録翌日の9月15日、楽天戦で「8番・サード」でスタメン出場。同点で迎えた2回裏、1死1,3塁の好機でプロ初打席が回ってきた。辛島航投手の直球を振りぬくと、弾丸ライナーでレフトスタンドへ飛び込む勝ち越し3ラン。育成出身選手が初打席初本塁打は球団史上初の快挙だ。

 大下選手はこの試合から4試合連続安打するなどレギュラー奪取へ猛アピール。最終成績は32試合に出場し、2本塁打、9打点、打率.216だった。中継でも聞こえてくるほど明るく覇気のある声でチームの元気印にもなった大下選手。春季キャンプ前に肋骨の疲労骨折を負ってしまったが、丑年生まれの歳男がバットで、声で、チームを勢いづかせる日を楽しみに待ちたい。

2021シーズンも育成魂で球界を沸かせる選手たちをお見逃しなく

 育成から一軍の舞台へーープロの洗礼を浴び、闘志を燃やし這い上がってきた各選手。またパ・リーグでは2020年、26人が育成ドラフトで入団し、各球団の春季キャンプでは現・育成選手の千葉ロッテ・本前郁也投手、楽天・渡邊佑樹投手、北海道日本ハム・長谷川凌汰投手が一軍メンバー入り、埼玉西武・中熊大智選手とオリックス・田城飛翔選手もA班スタートを決めるなど、3桁の背番号を背負う未来のスターにも期待できる。

 2カ月後に迫った2021シーズン。知れば知るほど応援したくなる、パ・リーグの育成出身選手・育成選手に注目してみてはいかがだろうか。

文・北嶋楓香

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