「勝つことと育てることは正反対」千葉ロッテ井口監督の“育成方針”と成長認める若手は?

Full-Count 佐藤直子

2021.1.5(火) 17:00

千葉ロッテ・井口監督※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)
千葉ロッテ・井口監督※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)

主砲離脱とコロナ禍で際立った若手の奮起…井口資仁監督独占インタ第2回

 2020年、井口資仁監督率いる千葉ロッテは13年ぶりにパ・リーグ2位となり、4年ぶりのクライマックスシリーズ(CS)進出を果たした。CSでは2試合連続で先制点を挙げながら逆転負けを喫して敗退。日本シリーズV4を達成した福岡ソフトバンクを越えることはできなかったが、指揮官は「今年、来年と繋がるチームになってきた」と手応えを語った。

 コロナ禍で揺れたシーズンに、井口監督はどんな手応えを感じたのか――。

 2021年の幕開けとともに、就任4年目を迎える井口監督の本音に迫る全3回の独占インタビュー。第2回は「育てる」をキーワードにお届けする。

 ◇ ◇ ◇

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、開幕が約3か月遅れた2020年。開幕当初から優勝争いを繰り広げた千葉ロッテだったが、決して万全な戦力で臨んだシーズンとは言い切れなかった。前年にチーム最多となる32本塁打を記録したレアードは腰の故障で状態が上がらず、8月に離脱。優勝争いが過熱する10月には1軍選手7人がコロナ陽性と判定され、2軍から11選手が緊急昇格。度重なるピンチでチームを救ったのは、しっかり育ててきた若手選手たちだった。

「我々もピンチをチャンスに変える選手が出ることを望んでいるところだった。結局、離脱した選手の話をしても仕方がない。逆を考えれば、若手にとってこんなチャンスはなかなかない。そこでしっかり掴んでくれた選手がいたのは、すごく大きかったと思いますね」

 レアード不在のピンチをチャンスに変えたのは、井口監督が就任直後の2017年ドラフトで交渉権を引き当てた安田尚憲だった。期待の和製大砲は、プロ1年目の2018年に1軍デビューこそ果たしたが、2年目の2019年は一度も1軍に上がることなく、2軍でシーズンを終えた。1軍に呼んでもらえない悔しさを昇華させ、ファームで最多本塁打、最多打点のタイトルと2冠を獲得。そのオフにプエルトリコのウインターリーグも経験した安田は、昨季開幕1軍入りを果たした。

 開幕当初は打率1割台と低迷したが、井口監督は「彼はもう下(2軍)でやることは何もない。下にいても当たり前のように打てる。あと伸びしろを広げるのは1軍での経験でしかない」と1軍で起用。さらに、7月21日の埼玉西武戦で4番に抜擢すると、86試合連続で使い続けた。

「今年は開幕からずっと1軍に置いて、どのタイミングで試合に出そうか悩んでいたんですけど、『出すからには4番』という想いはありました。実際にレアード以外に4番を打つ選手もいなかった。安田は選球眼がいいから出塁率が上がるので、とりあえず繋ぐ4番で起用しようと。後半ちょっと調子が落ちて来た時、周りからいろいろな意見はありましたけど、我慢しないと育たない。打順を下げたり、スタメンから外すのは簡単。育てるって本当に難しいんですよ。今年も含めて、来年、再来年……、先を言えば5年後、10年後のマリーンズを背負って立つのは彼。そういう想いを伝えたい意図もありました」

 突然降ってきた大役。思うような結果が出ない安田は頭を悩ませ、気に病む時もあったが、ベテラン鳥谷敬の「準備をしっかりするように」という教えを胸に、戦い抜いた。成果となって現れたのが、CSだ。安田は第1戦で2回に先制2ランを放つと、第2戦も初回にタイムリー二塁打で同じく2点を先制。福岡ソフトバンクが誇る鉄壁の投手陣に襲い掛かった。

「シーズン中はずっと4番を任せていたけど、最後の1か月くらいですかね。毎日特打をやるようになって、自分の中で何かが掴めたんでしょう。その結果がCSで出て、いい形でシーズンを終えられた。課題だった守備が急成長したこともあって、自分の中の不安が解消されて、打つ方に集中できたのかもしれません。今年は3割、20本塁打以上は期待できるんじゃないかという想いはあります」

「経験値が上がれば、メジャーに行った秋山翔吾選手以上になる」

 コロナに揺れたピンチを救ったのは、2018年ドラフト1位の藤原恭大だ。井口監督が黄金の右手で交渉権を引き当てた、走攻守3拍子揃った外野手は、10月7日のオリックス戦から1軍でスタメン出場。勝負強い打撃でヒットを重ねると、プロ第1号と第2号を先頭打者ホームランで飾る離れ業も演じながら、26試合で打率.260、3本塁打、10打点と奮闘し、首脳陣の信頼を勝ち取った。CS第2戦では史上最年少となる20歳6か月で猛打賞を記録している。

「恭大は、いろいろな意味で思いきりのいいスイングをする。後半26試合に出る中で、ほぼ全員が初対戦のピッチャーで、何が何だか分からずに打ちにいきながら結果を残してくれました。あとは経験値と1年間戦う体力をどれだけつけるか。まず、1軍に来て、2軍以上の成績が出せる選手はなかなかいない。それは彼が持っている力だと思います。チームは当時、沈んだ雰囲気でしたけど、恭大が1軍に来て『野球が楽しい』って言いながら、新鮮な想いでやってくれた。そういう選手がいたので頑張りが利いたんだと思います。経験値が上がれば、メジャーに行った秋山翔吾選手以上になるんじゃないかな」

 かつて、期待の高卒ルーキーは、1年目からどんどん1軍で起用された。だが、井口監督は期待する若手だからこそ、あえて2軍で育成。今岡真訪2軍監督と密にコミュニケーションを取りながら、チームとしての育成方針を一貫させている。

「勝つことと育てることは正反対。優勝争いをしながら若い選手を育てるのは、まず無理です。どうやってバランスを取るかが大事。そこは球団と我々とでビジョンを共有して取り組むことができている。今年勝つだけじゃなくて、3年後、5年後、10年後、常に優勝争いをするチームを作るのが球団としてのビジョンです。そこに向けてどうやって戦力を整えていくか、経験させるか。勝ちたいと思うなら経験値が高い選手を出せばいいけど、若手に経験させることも大事なんですよね」

 福岡ソフトバンクとのCS第2戦、2点を追う9回2死満塁の場面で、指揮官は代打としてルーキーの佐藤都志也を送った。起用の理由を「今後の経験として、1回でもいいから打席に立たせてあげたいという想いはありました」と明かす。結果はセンターフライで試合終了を迎えた。

「ベンチに帰ってきた時、本当に悔しそうで泣きそうな顔をしていましたよ。でも、そういう想いを持って、打席に立ってほしかったんですよね」

 少し先の未来を見ながら、どうやって育てるか。就任4年目の今年、井口監督が着手した「育てる」成果がそろそろ現れてくるはずだ。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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