開幕当初は無観客試合が続いたが、観客動員は段階的に緩和されてきた
新型コロナウイルスの影響で開幕が延期された今シーズンは、6月19日の開幕から7月9日までの間、感染対策のために無観客での開催を余儀なくされる事態に。それでも、7月10日から最大5000名までの観客動員が可能となり、9月19日からは各球場の収容人数の50%まで観客動員数が緩和。当初はプレーの音と選手の声だけが響いていた球場にも、観客が1プレーごとに反応し、拍手を送るというかつてのような光景が少しずつ戻ってきている。
さまざまな意味で昨年までとは異なるシーズンとなっている2020年のプロ野球だが、各選手にとっても、無観客で開催された序盤戦は少なからず勝手が違うものだったかもしれない。実際、試合が無観客で行われていた期間においてはなかなか調子が上がらなかったものの、観客が球場に戻ってきて以降は徐々に状態を上げていき、数字としても優れたものを残している選手たちは少なからず存在している。
今回は、7月10日の観客動員の解禁、ならびに9月19日の動員制限の緩和という2つのタイミングを基準として、それ以降の試合で優れた数字を残している選手たちを紹介。観客の存在を力に変えて躍動している選手の顔ぶれはどのようなものであるのかを、あらためて確認していきたい。
長年パ・リーグで戦ってきた2名のベテランと、優勝争いを支える4名の若手が躍動
まず、7月10日以降に数字を上向かせた投手たちの顔ぶれと、該当期間の成績について見ていきたい。
現在リーグトップの11勝を挙げている涌井投手は、観客動員が始まった後の14登板で8勝を記録。防御率も2.53と通年の防御率(2.95)よりも良くなっており、史上初となる3球団で最多勝獲得に向けた挑戦を、観客の力が後押ししている面もあるかもしれない。また、同じくベテランの和田投手も7月10日以降は安定感のある投球で6勝を記録し、培ってきた経験を活かしてローテーションを守り続けている。
ベテランの奮闘に負けじと、若手の二木投手と石川投手も躍動を見せている。それぞれ開幕直後はやや出遅れたが、観客が入って以降は揃って7勝を記録。両者ともに防御率も2点台前半と、チーム内でも随一の安定感を発揮している。ともに優勝争いを続ける所属チームを支える若き右腕2名は、残り少ないシーズンにおいても観客の拍手を受け、さらなる躍進を果たせるか。
また、プロ2年目の小島投手も該当期間は防御率2点台で6勝を挙げ、開幕からローテーションを守り続けて規定投球回にも到達。春のセンバツで優勝投手になった経験を持つ若き左腕にとって、観客の存在はやはり大きかったと言えそうだ。また、楽天から移籍1年目の小野投手は開幕直後こそやや安定感を欠いたものの、観客動員以降は防御率1点台と活躍。二軍で2年連続最多セーブに輝いた実力を、一軍の観衆の前で堂々と披露している。
北海道日本ハムの主力2名は、開幕当初は大スランプにあえいだが……
続けて、同じく7月10日以降に成績を向上させた野手についても見ていきたい。
西川選手は観客が入る前の7月9日の時点で打率.217と絶不調だったが、観客が入った7月10日からは一気に復調。無観客時と比べると打率は.100以上も向上しており、それに伴い盗塁数も大きく増加。2年ぶり4度目の盗塁王獲得に向け、福岡ソフトバンクの周東佑京選手と激しいデッドヒートを繰り広げている。
また、西川選手の同僚の大田選手は7月9日の時点で打率.192と西川選手以上の不振にあえぎ、スタメン落ちする試合も散見された。しかし、観客の拍手が聞こえ始めると徐々に本来の打撃を取り戻し、該当期間内の打率は.300を突破。チームの主力として、例年同様に攻守両面で躍動感のあるプレーを披露している。
そして、現在首位打者争いを繰り広げている吉田正尚選手と柳田悠岐選手も、観客が動員されて以降だけで100本を超えるほどのハイペースで安打を量産。この2名に関しては「調子を上げた」というよりも「これまで通り」と形容したほうが適切かもしれないが、観客が動員されて以降の試合だけで21本塁打を記録している柳田選手の爆発ぶりは特筆ものだ。
観客動員がさらに増加すると、エース級の投手たちが揃って持ち味を発揮
次に、観客動員数が収容人数の50%まで増加した9月19日以降に、優れた数字を残している投手たちについて見ていきたい。
山本投手は9月19日以降の4試合で防御率0.29という驚異的な数字を記録しており、観客がさらに増加したタイミングでさらなる凄みを発揮している。また、4試合で4連勝の東浜投手、5試合で3勝の有原投手も大事なシーズン終盤に調子を上げ、チームに貯金をもたらしている。故障から復帰した山岡投手も観客動員増加を境にさらに調子を上げており、エース格の投手が環境によってさらなるモチベーションを喚起されている面はありそうだ。
リリーフでは東條投手と小川投手がそれぞれ無失点と完璧な投球を見せており、金子投手、嘉弥真投手も防御率1点台と安定したピッチングを披露。シーズンも終盤に差し掛かり、中継ぎ投手にとっては疲労の蓄積してくる時期でありながら、これだけの投球を続けている各投手の奮闘は見事の一言に尽きる。ホームのマウンドに上がるたびに勇気を与えてくれる観客の後押しも、その好投を呼び込む一要因となっているかもしれない。
観客の増加は、各種タイトルの行方にも少なからず影響?
最後に、9月19日以降の試合で活躍を見せている野手についても見ていきたい。
9月の月間MVPにも輝いた浅村選手は、25試合で7本塁打、21打点とまさに荒稼ぎを見せている。観客動員が緩和されて間もない9月22日の千葉ロッテ戦では、4打数4安打3本塁打7打点という離れ業も披露。10月11日にはリーグ最速となるシーズン30本塁打到達も果たしており、観客動員の増加は自身3度目の打点王、そして初の本塁打王に向けたブーストとなっていると言えるか。
また、オリックスの安達選手とT-岡田選手も観客の増加以降は好調だ。それぞれ常時スタメン出場とはいかずとも、経験を活かして持ち味を発揮し、チームの9月勝ち越しにも貢献している。長年にわたってオリックスを支えてきた両ベテランは、残りのシーズンでも「らしい」活躍を見せ、スタジアムに足を運び続けてくれている観客に歓喜をもたらせるか。
福岡ソフトバンクの周東選手も打率.300を超える数字を残し、チャンスメーカーとして首位を走るチームをけん引。向上しているのは打撃成績だけではなく、持ち味の足にもますますエンジンがかかり、26試合で18個という驚異的なペースで盗塁を積み重ねている。西川選手との盗塁王争いでも一歩リードしている若き韋駄天が、支配下2年目で自身初の盗塁王に輝けるかにも注目だ。
観客の反応を力に変え、成績を向上させる選手たちは今後も現れるか
以上のように、観客動員が始まった、あるいはさらに増加したタイミングから、活躍の度合いがより増していった選手は少なからず存在している。今回取り上げた選手たちは、観客の拍手や歓声をモチベーションや勇気に変え、無観客時とはまた違ったプレーを見せているという面もありそうだ。
残り少ないシーズン、そしてまもなく迎えるポストシーズンにおいても、観客の後押しはグラウンド内で奮闘する選手たちを、少なからず勇気づけることだろう。今後も観客の存在を力として、ファンの歓喜を呼び込むような活躍を見せてくれる選手が、一人でも多く現れることに期待したいところだ。
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