石川投手と美馬投手の両右腕の活躍が、チーム順位を押し上げている
石川歩投手と美馬学投手の両右腕は、ともにパ・リーグの首位争いを繰り広げる千葉ロッテの先発投手陣をリードする存在だ。美馬投手はここまでリーグトップの10勝を挙げている涌井秀章投手(楽天)に次ぐ9勝を記録し、移籍1年目から最多勝争いにも名乗りを上げている。10月4日の埼玉西武戦では、1年3カ月ぶりに完投勝利を果たした。また、今季の開幕投手を務めた石川投手もチーム2位の7勝を挙げており、7月終盤以降はエースの名にふさわしい安定した投球を続けている。
石川投手は16試合で防御率4.17、美馬投手は15試合で防御率4.31と、防御率だけを見ればそこまで圧倒的な数字というわけではない。それでも、美馬投手は8月11日の試合から自身6連勝中、石川投手も7月31日のシーズン初勝利から自身6連勝を果たすと、9月は少し調子を落としたものの、チームに継続して勝ち星をもたらしている。そのような「勝てる投球」を見せられる理由は、どこにあるのだろうか。
その具体例としては、両投手の投球スタイルの共通点である「高い制球力」と「イニング消化能力の高さ」といった要素が挙げられる。また、それらの長所が今季のチーム方針と噛み合っていることで、チームの躍進にも少なからず寄与している点も興味深いところだ。今回はこの2つの要素を軸に、千葉ロッテをけん引する両右腕の投球内容にアプローチしていきたい。
プロ2年目以降は、常に優れた与四球率を維持してきた石川投手
最初に、「制球力」という観点から、両投手の投球に対する分析を行っていきたい。まずは、石川投手がこれまでのキャリアで記録してきた成績、および与四球率について見ていこう。
プロ初年度の2014年は与四球率2.80という数字だったが、2年目の2015年には与四球率を1点以上も改善。最優秀防御率を獲得した2016年には162イニングを投げて与四球率1.22という驚異的な数字を記録しており、制球力という面でも球界屈指の安定感を示していた。
2017年以降の3シーズンは防御率をはじめとした各種の成績を落としていたが、与四球率に関しては大崩れすることなく、十分に優秀といえる値を維持し続けていた。とはいえ、2015年からの2シーズンに見せた抜群の制球力に比べると、やや数字が悪化していたのも確か。今季はその与四球率も2015年の水準まで戻ってきており、制球力の面でも完全復活の兆しを見せていると言ってよさそうだ。
直近5年間の美馬投手の制球力は、近年のパ・リーグの中でも群を抜く
続けて、美馬投手がこれまでのキャリアで残してきた各種の成績、ならびに与四球率についても確認したい。
プロ初年度の2011年にはリリーフとしての登板が主だったが、この時点で与四球率1.37という見事な数字を記録していた。そこから3シーズンは与四球率の面では目立つ数字ではなかったが、2015年以降は目に見えて制球力が向上。2016年からの4シーズンで3度の与四球率1.00台を記録しており、新天地で迎えた今季も与四球率1.78と持ち前のコントロールを維持。四球を与える確率の低さは、リーグの中でも際立っている。
ただ、2016年からの4年間において、防御率4点台を記録したシーズンも3度存在。また、2桁勝利を記録した回数もキャリアで一度のみと、その制球力が各種の数字に反映されることはさほど多くなかった。今季も防御率4.31と失点数こそかさんでいるが、12試合で7勝と勝ち星は多くなっており、その傾向に変化が見られるところは興味深い。
イニング消化という面でも、石川投手は抜群の安定感を示している
また、両投手の貢献度を示すデータとして、登板試合におけるイニングの消化数がある。ここでは、石川投手の今季の投球内容を、各試合ごとに見ていこう。
今季は6連戦が続く過密気味の日程ということもあり、吉井理人投手コーチは投手陣の運用についてはとりわけ気を使っているようだ。そのため、リリーフとして登板する投手たちに関しては、基本的に長くても2連投までで止め、3連投は避ける方針を取っている。特定のリリーフ投手への負担を減らすための運用を円滑にするためにも、先発投手がどれだけ長くイニングを消化できるかは、チームにとって非常に重要な要素となってくる。
そんな中で、石川投手は今季登板した全ての試合で6イニング以上を投げ抜いており、自身の登板試合におけるリリーフ陣の負担を軽減し続けている。投球内容の面でもQSは11回と、ほぼ試合を作ってくれている。4失点以上を喫した試合でも責任投球回を着実に消化している点を含め、先発の軸としての責務を十二分に果たしていると言えるだろう。
個別の内容に目を向けて見ると、12安打を喫しながら7回を1失点で切り抜けた8月7日のオリックス戦の結果が今季の石川投手を象徴している。この試合では被安打こそ多かったが四球は0と、いわば自滅でのランナーは許さず。余分な走者を許さなかったことが、安打数のわりに失点が少ない好投につながっている。他の試合でも与四球は7月10日の3個が最多で、それ以外の11試合はいずれも2個以下と、一貫して与四球が少ない点も素晴らしい。
不調の試合でも、最低限以上のイニングはしっかり消化する美馬投手
前項と同じように、美馬投手が残した試合別の成績についても見ていきたい。
美馬投手も7月28日の楽天戦を除く全ての試合で5回以上を消化している。たとえ序盤から失点を重ねてしまった試合であってもそこから粘りを見せ、早い段階でマウンドを降りることが少ない点はチームの助けとなっている。とりわけ、直近4試合の平均消化イニングは7回と徐々に状態を上げており、内容の面でも着実に向上。自身5連勝という結果は、そういった奮闘ぶりの表れでもあるだろう。
先ほど紹介した制球力の面でも、無四球で7回以上を投げ切った試合が3度存在。4四球を出した7月5日の楽天戦を除く11試合はいずれも2四球以下と、石川投手同様、個々の試合での四球数も少なくなっている。新たに本拠地とするZOZOマリンスタジアムでは試合を通じて強風が吹くケースが多いことに加え、開幕直後に梅雨へと突入したこともあり、雨中の登板も少なくなかった。そんな中でも、従来通りの制球力を維持している点は特筆ものだ。
石川投手にとって、今季は2018年の苦い経験を払拭するきっかけとなるか
上記の通り、先発の柱として奮闘を見せている石川投手と美馬投手だが、今季はそれぞれ1度ずつ登録抹消を経験している。いずれも不振によるものではなく、ローテーションの再編とリフレッシュの意味を込めたものだ。今季は開幕2カード目から同一カード6連戦が続く変則的な日程ということもあって、「カード頭」という概念が従来とは異なる時期も長かった。
実際、石川投手と美馬投手は9月4日と5日に優勝争いの天王山となる福岡ソフトバンク戦に登板し、それぞれ7イニングを投げて勝ち投手となっている。ライバルとの直接対決での登板機会を増やす意味でも、ローテーションの再編は重要な意味を持ってきそうだ。
もちろん、リリーフ投手への負担軽減と同様に、極力5回以上を投げ抜く方針を取っている先発陣の疲労に関する配慮という側面もあるだろう。状況に応じた細やかなマネジメントを行っている吉井コーチの運用法が光るシーズンとなっているが、それを可能にしているのも、登板間隔が空いたとしてもしっかりとした調整を行い、大崩れすることなく好投を見せている石川投手、美馬投手の適応力あってのことだろう。
とりわけ石川投手は、2018年には6月末の時点で9勝を挙げて最優秀防御率争いにも顔を出しながら、オールスターを境に急激に調子を崩し、故障も重なって7月以降はまさかの未勝利に終わるという苦い経験があった。登録抹消を経ても状態の変わらない今季の投球からは、ベテランならではの適応力の向上と、選手としての確かな成長が感じられるところだ。
悲願のリーグ優勝に向けて、今後も先発2本柱の活躍は欠かせない
千葉ロッテは今から15年前の2005年にパ・リーグ優勝を経験しているが、これはプレーオフでの優勝チームをリーグ優勝チームとする当時の規定によるものであり、レギュラーシーズンの最終順位は2位だった。前身のオリオンズ時代も含め、千葉ロッテが勝率1位となったのは1974年が最後。実に46年間にわたって、順位表のトップでシーズンを終える機会から遠ざかっていることになる。
また、2005年と2010年の日本一の際にはいずれも敵地で優勝を決めており、千葉移転後は本拠地で胴上げを経験したことは一度もない。悲願のリーグ優勝、11年ぶりの日本一、そして地元・千葉での胴上げに向けても、今季は千載一遇のチャンスと言える状況だ。
その優勝争いを勝ち抜くためにも、豊富な経験を活かして先発陣の軸となっている両右腕の活躍は今後も欠かせないはず。4年ぶりの2桁勝利を目指すエースの石川投手と、2013年の日本シリーズでMVPに輝いた大舞台への強さを持つ美馬投手。コントロール、イニング消化の両面で抜群の安定感を誇っている頼れる2本柱が今後も多くの白星を稼ぎ出せば、それだけチームの非願成就も近づいてくるはずだ。
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