モイネロ投手はNPBでの4年間全てで、イニング数を上回る奪三振を記録している
リバン・モイネロ投手は2017年に来日して以来、左のセットアッパーとして福岡ソフトバンクのブルペンを支え続けている。とりわけ、今シーズンはキャリアハイの成績を収めた2019年をさらに上回る圧倒的な投球を披露。9月28日時点で防御率1.17という数字に加えて、38.1回で68個の三振を記録。奪三振率は16.06という、まさに驚異的な数字となっている。
そんなモイネロ投手がここまで残してきた各種の成績、および奪三振率の値は、下記の通りとなっている。
やや調子を崩していた2018年を除き、いずれも優秀な数字を残している。そんな中でも、年を経るごとに奪三振率が向上してきている点も見逃せない。来日初年度の2017年からすでにイニング数を上回る奪三振数を記録していたが、そこからさらに奪三振のペースを上げ続けている点が、モイネロ投手の末恐ろしいところだ。
今回は、そんなモイネロ投手が今シーズン9月19日までに記録した奪三振における結果球という観点から、その詳細な内容を分析。三振を奪う際の決め球となった球種、ならびにそのコースを見ていくとともに、モイネロ投手がなぜこれだけのハイペースで三振を積み重ねられているのか、その理由の一端に触れていきたい(球種分析で用いた成績は9月19日時点のもの)。
快速球を持ち味とするモイネロ投手だが、三振を奪う際の最大の武器は……
まずは、モイネロ投手が三振を奪った際の結果球となった球種と、各球種ごとに記録した空振り三振と見逃し三振の数、そして三振を奪った打者の左右について、それぞれ見ていきたい。
球種としてはカーブが最多であり、わずか1個の差でストレートが続く結果となった。スライダーとチェンジアップはその2球種に比べればやや少なくなっていたが、それぞれ2桁またはそれに準ずる奪三振数を記録していたのもポイントだ。三振を奪える球種を4つ持ち合わせているという点が、モイネロ投手の高い奪三振力を支える要因の一つと言える。
最も多くの三振を奪っているカーブは基本的には球速120km/h台であり、150km/h台後半に到達することも少なくない速球との球速差は、約30km/hとかなり大きい。そのうえ、130km/h台のスライダーやチェンジアップといった他の変化球よりもさらに遅いこともあり、打者にとっては、他の球種に狙い球を絞りながらカーブにも対応するのはかなり難しいと言える。
そういった傾向は、見逃し三振の数が12個と、各球種の中で最も多くなっている点にも表れている。150km/h台中盤以上の速球にタイミングを合わせて始動してから、抜いたカーブに合わせるのは至難の業。それもあって、快速球を持つモイネロ投手にとっては非常に有効な決め球となっている。そのうえ、このカーブをストライクゾーンぎりぎりに投じて見逃し三振を奪うパターンも多く存在しており、制球という面でも光るものがある球種だ。
速球と3つの変化球は、そのいずれも三振を奪えるだけの高い質を持つ
それに次ぐ20個の三振を記録したストレートに関しては、空振り三振の数が14個と最も多く、文字通り力でねじ伏せて空振りを奪うケースが多い。打者は先述したカーブに加え、スライダーとチェンジアップに対しても十分に警戒する必要がある。そして、それらの変化球に意識を割きすぎれば、速球に振り遅れることにもつながる。空振りを奪える球種を多く持ち合わせていることが、モイネロ投手の速球の威力をより高めていると言えそうだ。
スライダーとチェンジアップはともに空振り三振の数が大半を占めており、コースや意表をつき、見逃しでの三振を奪うカーブとはやや趣の異なる使われ方をされている。左投手が投じるスライダーといえば、左打者の外に逃げていく球になる。そのため、一般的には左対左で決め球として使われるケースが多い。そんな中で、モイネロ投手のスライダーは左打者よりも右打者から奪った三振が多く、やや異彩を放っていると言えそうだ。
チェンジアップに関してはその傾向がより顕著となっており、なんと左打者からチェンジアップで奪った三振はゼロ。左打者から奪った三振の数が最も多いのはストレートで、13個のうち8個が空振りだ。その一方で、左打者相手の三振数が速球に次いで多いカーブでは、8個のうち5個が見逃し。対左の投球ではスライダーとチェンジアップを決め球に使う割合が少ない代わりに、緩急を活かした的を絞らせないピッチングが光っている。
右打者に対しては“2つのゾーン”が大きな武器に
ここからは、打者の左右による、モイネロ投手のピッチングの変化について、より深く見ていこう。まず、右打者に対してモイネロ投手が空振り三振を奪った投球コースは、次のようになっている。
以上のように、外角高めのストライクゾーンに決まる球が最も多くなっており、ひざ元のボールゾーンに落ちる球と、真ん中低めのボールコースの球がそれに次ぐ多さとなっていた。右打者に対しては、打席から遠いコースに決まるボールと身体に比較的近い部分に落ちる球を使い分け、的を絞らせずに三振を奪っていると言えそうだ。
また、外角高めのボールコースと、ひざ元のストライクゾーンでもそれぞれ3つの三振を奪っている点も目を引く。これらはそれぞれ、先述したとりわけ多くの三振を奪っているコースに近いところでもある。右打者に対しては、この2つのゾーンをうまく使って投球を組み立てているようだ。
とりわけ奪三振の多かった2つのコースにおける球種に目を向けると、外角高めのストライクゾーンでは、カーブが3つ、速球とチェンジアップがそれぞれ2つずつ、スライダーが1つと、特定の球種に偏ることなく、全ての持ち球でまんべんなく三振を奪っている。
一方、ひざ元のボールゾーンでは、カーブが4度、スライダーが2度と、速球で奪った三振は1度もなかった。また、真ん中低めのボールになる球は、スライダーが3球、チェンジアップが2球、カーブが1球という結果に。どちらのコースにおいても、低めのボールコースでは、セオリー通りに落ちる球を用いて空振りを取っていることがわかる。
また、左右のボールゾーンは結果球の段階ではほぼ使っていないものの、高低に関してはストライクとボールの双方を幅広く用いて、多くのコースで空振りを奪っている点も特徴と言える。そんな中で、ど真ん中で三振を奪ったケースは一度もない点は興味深い。右打者に対する左投手の球は、身体に向かって入ってくるかたちとなる。モイネロ投手ほどの好投手であっても、追い込んだ相手に対して甘いコースは厳禁、ということがうかがえる結果だ。
右打者に対する投球パターンと、左打者への攻めにはどんな変化が?
続けて、左打者に対して三振を奪った球のコースについても、同様に見ていきたい。
右打者とは異なり、特定のコースで多くの三振を奪っているということはないようだ。また、右打者に対しては1個も三振を記録していなかったど真ん中の球で、左打者からは最多タイとなる3個の三振を奪っている点も面白い。打者にとっての角度の変化が、三振を取れるコースやバッテリーの配球にも、少なからず影響を及ぼしていることがわかる。
また、右打者に対しては得意なパターンだった、外角高めへ投じての三振はかなり減少している。そして、同じく右打者からは多くの三振を奪っていた内角低めのコースで記録した三振は、なんと1つも存在しなかった。その代わりに、内角高めや外角低めでの奪三振が多くなっており、先述した球種別の奪三振数からもわかるとおり、本来は左打者の外角への投球に適したスライダーに頼ることはそれほど多くはないようだ。
最多タイの3三振を奪った3つのコースの球種の内訳を見ていこう。内角高めは3球ともストレートで三振を奪っており、コース、球種ともに強気な攻めを見せていた。また、ど真ん中ではカーブが2球、ストレートが1球と、まさに大胆な投球で三振を奪っていたことがわかる。そして、外角真ん中はカーブが2球、スライダーが1球と、こちらは左打者から逃げていく変化球を用いるという、一種のセオリー通りの配球を見せていた。
パワーと器用さを併せ持った剛腕は、これからどんな成長曲線を描くのか
以上のように、150km/hの後半に達する剛速球を持ちながら、それに頼り切るわけではなく、その速球とブレーキの利いたカーブを主軸に据え、空振りを奪える3つの変化球を組み合わせた巧みな投球術で的を絞らせない器用さを持ち合わせているという点が、モイネロ投手が圧倒的な奪三振率を記録している大きな要因といえそうだ。
ある時には力押しで打者をねじ伏せ、またある時には意表を突いたカーブを大胆にストライクゾーンに投じて見逃し三振を奪う。左腕から繰り出される剛速球という大きな武器に加えて、それに依存することなく、変化球との相互作用によってその威力を何倍にも増幅させている点が、モイネロ投手が持つ最大の凄みといえる。
21歳でホークスに入団した際には育成選手という立場だったキューバ出身の細身の左腕は、今や押しも押されもせぬ球界屈指のセットアッパーとなった。豪快なストレートと頭脳的な投球術を併せ持ち、空振り三振と見逃し三振にそれぞれ適した球種を操りながら、鮮やかに三振を積み上げていくモイネロ投手。右肩上がりの成長曲線を描く24歳の大器が、これから誰も予想がつかないほどの大投手へと成長していく可能性も大いにあるはずだ。
文・望月遼太
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