数字にも印象にも残る柳田悠岐の打撃。映像と指標からその驚異的なバッティングに迫る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

《THE FEATURE PLAYER》打撃技術の宝石箱…… 柳田悠岐は『単打も普通じゃない!?』(C)パーソル パ・リーグTV
《THE FEATURE PLAYER》打撃技術の宝石箱…… 柳田悠岐は『単打も普通じゃない!?』(C)パーソル パ・リーグTV

強打と俊足を兼ね備えた球界屈指の外野手として名高い柳田悠岐

 近年の福岡ソフトバンクについて語る上では、柳田悠岐選手の名前を避けて通ることはできないだろう。首位打者2度、最高出塁率4度、リーグMVPが1度というタイトル獲得歴に加え、走攻守の全てにおいてインパクト抜群の華のあるプレーで、見る者の度肝を抜く。そんな彼のことを現在のパ・リーグを代表する野手の一人と表現しても、決して過言にはならないだろう。

 昨季は故障の影響で38試合の出場にとどまったが、その離脱期間の長さは、リーグ優勝を逃したチームの戦いぶりにも小さくない影を落としたといえる。2018年に首位打者と最高出塁率の2冠に輝いた彼の存在価値は、それほどまでに大きなものだ。

 今回は、その柳田選手がどのような部分において優れた能力を示しているのかを、各種の指標や映像を基に分析。超人的な飛距離と高い確実性を併せ持った、極めて完成度の高い打撃の詳細について、具体的な数字やサンプルを用いて紹介していきたい。

2015年に『トリプルスリー』を達成

 柳田選手といえば、リーグMVPにも輝いた2015年の活躍ぶりがとりわけ印象に残っている人も多いことだろう。前年の2014年に初の規定打席到達と打率.300超えを達成し、外野手部門のベストナインにも輝き、翌年には「打率3割、30本塁打、30盗塁」を全て満たす「トリプルスリー」の快挙を達成。それぞれ自身初となる、首位打者と最高出塁率の2冠にも輝いた。

 先述の通り、この活躍が認められて同年のパ・リーグMVPも獲得。一躍大ブレイクを果たすとともに、トータルバランスに優れた球界屈指の好選手としての地位を確立した1年となった。また、トリプルスリーを達成したシーズンに首位打者も同時に獲得した選手は、長い球史の中でも柳田選手ただ一人となっている。

規定打席に到達したシーズンでは、全て打率.300以上を記録

 豪快なフルスイングが大きな魅力の一つである柳田選手だが、2015年と2018年の2度にわたって首位打者に輝いた実績が示す通り、打率の高さに関しても特筆すべきものがある。その能力を示すエピソードの一つに、「規定打席に到達したシーズンでは、すべて打率.300に到達している」というものがある。過去に規定打席に到達したシーズンと、その成績は以下の通りだ。

(C)PLM
(C)PLM

 このように、2014年から2018年まで、5年連続で打率.300超えを達成する抜群の安定感を見せていた。2019年は故障による長期離脱を強いられ、6年連続の規定到達と打率.300は達成できなかったが、2020年には2年ぶりの規定打席到達と打率.300超えを達成できるだろうか。

4年連続でタイトルを受賞する出塁率の高さ

 柳田選手は優れた選球眼を持ち合わせていることに加え、相手のバッテリーにも強く警戒されることもあって、四球で歩かされることがかなり多い選手の一人だ。その結果、2015年から2018年まで、4年連続でパ・リーグの最高出塁率を受賞している。それだけでなく、2014年から2019年まで6年連続で.400を超える出塁率を記録しており、出塁率という分野では他の追随を許さないほどの安定感を見せている。

 また、純粋な四球の数という面でも、2015年から3年連続でリーグ最多の数字を記録。2016年にはシーズン100四球の大台に到達しており、四球を選ぶという点においてはリーグトップクラスの数字を残し続けてきた。毎年安定して多くの出塁機会を得ているということは、それだけチームの得点力向上に貢献してきたということにもなろう。

 そして、厳しい攻めを受けている代償として、死球を受ける数も多くなっていることもその数字から読み取れる。とりわけ、2014年には16個、2015年が14個と、2年連続でリーグ2位の数字を記録した時期があったことは象徴的だ。安打や四球の多さに加えて、こういった点も出塁率の向上につながっていると言えそうだ。

セイバーメトリクスの観点からも高く評価される、打撃の完成度の高さ

 これまで述べてきたように、柳田選手は長打力と確実性、そして選球眼を非常に高いレベルで兼ね備えている。その実力の高さは、セイバーメトリクスの分析に用いられる各種の指標においても、おしなべて高い評価を受けてきた。ここでは、彼が記録してきた、「OPS(出塁率+長打率)」を表で紹介していきたい。

(C)PLM
(C)PLM

 OPSは打者の得点能力を測るうえで効果的な指標のうちの一つとされており、一般的にはOPSが.800を超えていれば、優れた打者として評価されることが多い。そんな中で、彼は直近5年間のうち3度にわたって1.000を超える数値を記録し、2015年にはOPS1.101という驚異的な数字を残している。チームの得点力向上に非常に大きく寄与していることが、この結果からもわかるといえよう。

 また、同じくセイバーメトリクスにおいて用いられる指標である、その選手が9人いた場合に1試合平均で何点取れるかを示す「RC27」は10.56、そのRC27の改良版とされる「XR27」では10.176と(どちらも2018年の数値)、それぞれ柳田選手だけのチームがあれば、1試合で10点以上をたたき出せるという数値が示された。打撃と走塁の双方で優れた能力を有する野手としての能力の高さは、セイバーメトリクスの観点からも絶賛できるものだ。

逆方向へも強い打球を飛ばせる驚異的な打撃技術

 188cm・96kgという恵まれた体格から生み出される豪快なフルスイングも、柳田選手が持ち合わせる大きな魅力の一つだ。先述のように5年連続で打率.300を超えるほどの確実性を維持しながら、力感に溢れるスイングで迫力のある打球を飛ばすバッティングの完成度の高さは、まさに破格のものと言える。

 ここでは、そんな彼の具体的な打撃の内容について、映像をもとに見ていこう。まずは、規格外の豪快なスイングから生み出される、彼特有ともいえるバッティングについて紹介したい。

 この動画のタイトルで「逆方向に引っ張る」と形容されている通り、引っ張るようなスイングと上半身の軌道から、逆方向に強い打球を飛ばすことができるのが驚異的だ。打った瞬間は外野フライかと思われるような高く上がった打球がそのままスタンドインすることもままあり、たびたび見る者に驚きをもたらしている。

 続けて、2つの意味で素晴らしい技術を垣間見せた一発を見ていきたい。2018年7月24日のオリックス戦で記録された、低めの球をすくい上げて逆方向のスタンドに運ぶという離れ業を演じた一発だ。

 千葉ロッテ・西野勇士投手が投じた低めのスライダーをうまく拾うと、舞い上がった打球は左中間スタンドに飛び込む本塁打に。低めの球を本塁打にする技術と、逆方向への打球が力強く伸びる特性が合わさって生まれた、珠玉の本塁打だ。

 また、センター方向の打球においても彼はたびたび並外れたパワーを発揮している。2020年8月22日の千葉ロッテ戦で生まれた、特大のバックスクリーン弾を紹介したい。

 二木康太投手の球をフルスイングで捉えた当たりは、高々と舞い上がってそのままセンターバックスクリーンに直撃する特大の一発に。打った瞬間それとわかる当たり、豪快なフォロースルー、すさまじい飛距離という、まさに彼の魅力が詰まったホームランと言えよう。

 ここまでは逆方向やバックスクリーンへの打球を取り上げたが、最後に右方向への打球を紹介。延長11回までもつれ込んだ試合にピリオドを打つサヨナラ本塁打となった、2015年5月5日の千葉ロッテ戦での一発を見ていこう。

 打った瞬間に走り出すことなく打球の行方を見守るほどの、まさに完璧といえる一発。逆方向への打球が伸びるなら、当然ながら引っ張ればそれ以上の飛距離が出るということでもある。劇的かつ特大というまさに印象に残るこの一打は、彼のホームランバッターとしての高い能力を余すところなく示したものでもあるだろう。

その得点能力の高さはV奪還を目指すチームに欠かせない

 以上のように、映像からも確認できるその規格外の打撃のインパクトに加え、各種の指標といった数字面から見ても、素晴らしい結果を残していた柳田選手。一見しただけでもその凄さがわかりやすく、なおかつチームに対する貢献度も非常に高いという彼の存在は、3年連続で日本一に輝いている強豪・福岡ソフトバンクにとって、決して欠かすことができない。

 彼が完全に復調して年間を通して一軍の舞台でプレーを続けられれば、3年ぶりのV奪還が期待されるチームにとってもこれ以上ない“補強”となりうる。稀代のバットマンは故障で出場機会を大幅に減らしてしまった昨季の悔しさを晴らし、チームに多くの得点と、優勝をもたらせるだろうか。


文・望月遼太

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