日米の両球界で豊富な実績を誇るチェン投手が、千葉ロッテに電撃入団
9月21日、千葉ロッテはチェン・ウェイン投手の入団が決定したと発表した。チェン投手はNPBでは中日で、MLBではオリオールズでそれぞれ先発陣の柱として活躍し、リーグ優勝や地区優勝にも大きく貢献した経験を持つ。優勝争いを繰り広げる千葉ロッテにとっても大きな期待のかかる実績十分の新戦力だが、その存在感は、なにもグラウンド内のみにとどまらないものかもしれない。
マリーンズファンの中には、「チェン投手」といえばまず、球団在籍6年目を迎えるチェン・グァンユウ投手の顔が思い浮かぶ方も少なくないことだろう。同じく台湾出身である左腕に対してのみならず、チーム全体にとってもインパクトをもたらしうる今回の補強。この記事では、チェン投手のこれまでの経歴を詳細に振り返っていくとともに、今後期待される波及効果についても触れていきたい。
怪我を乗り越え、抜群の投球内容でタイトルも手にした中日時代
まずは、チェン投手がNPBで残してきた年度別の成績について見ていこう。
2004年に19歳で中日に入団したチェン投手は、入団2年目の2005年に早くも一軍デビューを果たす。このシーズンには10試合に登板してプロ初セーブも記録したが、2006年に故障の影響で手術を経験。2007年にはリハビリのため育成契約へと移行し、2シーズンにわたって一軍登板から遠ざかる苦難の日々を過ごした。
しかし、怪我の癒えた2008年に支配下復帰を果たすと、その後は一軍の舞台で持てる才能を発揮していく。このシーズンは先発と中継ぎを兼任しながら安定感のある投球を見せ、貴重な左腕としてフル稼働。故障を乗り越え、23歳の若さで一軍定着を果たすと、先発に固定された翌2009年にはまさに安定感抜群の投球を披露。リーグ2位の防御率2.00を記録した同僚の吉見一起投手に大差をつけ、自身初タイトルとなる最優秀防御率に輝いた。
2010年も左のエースとして自身初の2桁勝利を記録し、防御率もリーグ2位と前年に引き続いて安定した投球を見せた。統一球が導入された2011年には2桁勝利こそ逃したものの、3年連続で防御率2点台以上と、ボールが変わってもその安定感は健在だった。2010年から続いたチームのリーグ連覇にも主戦投手として貢献し、投手王国の一員として大きな存在感を放った。
投手にとって難しい環境を苦にせず、MLBでもエース格として大活躍
2012年にオリオールズへと移籍してメジャーリーグへと活躍の場を移したが、チェン投手は自らの投球で、世界最高峰の舞台でもその実力が通用することを証明していく。MLBでの8年間で記録した成績は、下記の通りだ。
オリオールズの本拠地であるオリオール・パーク・アット・カムデン・ヤーズは打者有利の球場として知られるうえ、オリオールズが属するアメリカン・リーグ東地区には、ヤンキースやレッドソックスといったMLBを代表する強豪が在籍。ヤンキー・スタジアム(ヤンキース)、フェンウェイ・パーク(レッドソックス)、ロジャース・センター(ブルージェイズ)といった打者有利の球場も多く、投手にとっては受難の地区と言える。
そんななかで、チェン投手はMLBでのデビューシーズンとなった2012年に早くもローテーションに定着し、いきなり12勝を挙げる活躍を見せる。翌2013年は故障の影響で7勝にとどまったものの、2014年にはリーグ最多勝まであと2つに迫る16勝を挙げ、防御率も初めて3点台に乗せる好成績を残した。続く2015年は勝ち星の数こそ減らしたものの、防御率はMLB時代で最も優れた数字を記録。2年続けて、ローテーションの軸として奮闘した。
オリオールズに在籍した4シーズン全てで130イニング以上を消化し、そのうち2013年を除く3年間は180イニング以上を投げ抜いた。また、この期間内に登板した117試合は全て先発としてのマウンドであり、4年間の通算成績は46勝32敗、防御率3.72。2014年の地区優勝にも主力として貢献するなど、投手にとって難しい環境をものともせず、オリオールズの投手陣にとって欠かすことのできない存在となっていた。
大きな期待とともに新天地へと活躍の場を移したが……
オリオールズでの大活躍によって、MLBでも有数の先発左腕として評価を高めたチェン投手は、2015年オフにFAとなってマーリンズに移籍。新たな本拠地となるマーリンズ・パークはオリオールズ時代とは異なり投手有利の球場であることもあり、エース級の活躍を見せた過去2年間からのさらなる成績向上も見込まれていた。
大きな期待とともに新天地でのプレーを始めたチェン投手だが、その後に待っていたのは苦難の道のりだった。2016年の各種成績はオリオールズ時代を大きく下回り、故障の影響で登板機会も減少。2017年には7回を投げて被安打0のまま、球数の問題で降板するという登板もあるなど、復活の可能性を感じさせる場面もあった。だが、2年続けて故障に悩まされ、前年以上に登板機会を減らす結果となってしまった。
故障から復帰した2018年にも6つの負け越しを作るなど苦戦は続き、2019年にはついに先発としての登板は一度もなく、リリーフに完全転向。登板数と投球回の差異を見てもわかる通り、イニングをまたいでの投球も少なくはなかった。しかし、防御率は自己ワーストの6点台と投球成績はさらに悪化。そして、シーズンオフにはマーリンズから放出されるかたちとなった。
2020年にはマリナーズとマイナー契約を結んでいたが、開幕前に自由契約となり、メジャー復帰は叶わず。その後は所属先が決まっていなかったが、先述の通り9月に入ってから千葉ロッテと契約。2011年以来、実に9年ぶりのNPB復帰となった。
各種の指標にも表れる、チェン投手の安定した投球内容
ここからは、チェン投手が日米で記録した投球内容について、奪三振率、与四球率、K/BB(四球1つに対して何個の三振を奪ったかを示す指標)といった各種の指標から迫っていきたい。まず、NPBにおける数字は下記の通りだ。
奪三振数がイニングを上回ったのは登板数の少なかった2005年だけだったが、2008年から2010年までの3年間における奪三振数は、一般的に優秀とされる7~8点台を記録し続けていた。そんな中で、統一球の影響でNPB全体の投手成績が軒並み向上していた2011年は奪三振を狙う必要が薄かったこともあってか、奪三振率は5.14まで落ち込んでいた。
一方、その2011年の与四球率はキャリアベストの1.69となっている点も興味深いところだ。その他の年の与四球率も1点台こそないものの、全ての年で2点台と安定した数字を記録。K/BBも全ての年で3点台と及第点以上の数字を残しており、大崩れすることなく安定した値を記録し続けていた。
諸々の環境の違いによってやや趣の異なる数字になっていた2011年を除けば、3つの指標はそれぞれ突き抜けてこそいないものの、安定して一定以上の数字を記録していたと言える。防御率も含めてどの指標にも破綻がなく、いうなれば、明確な欠点や弱点と言える部分も少ない。そういった要素が、総じて安定度の高いチェン投手の投球内容にも表れていたのではないだろうか。
昨季は大苦戦を強いられたチェン投手だが、“運が悪い”側面もあった?
同様に、MLBにおいてチェン投手が残した各種の指標についても見ていきたい。
リーグトップクラスの強打者が多く在籍するアメリカン・リーグ東地区に籍を置いたチェン投手だったが、その与四球率は日本時代よりもさらに向上。2014年から2016年まで3年連続で与四球率1点台という素晴らしい数字を記録しており、渡米後にその制球力に磨きがかかっていたことが、指標の面からも表れている。
また、奪三振率は日本時代に比べればやや落ちたものの、6~7点台とある程度の数字は維持。また、K/BBにおいても、8年間すべてで2.70以上を記録し、危険水準とされる1.50とは常に遠い位置に。また、この水準を超えれば優秀とされるK/BB3.50を上回ったシーズンも4度あり、日本時代と同様に破綻の少ない投球スタイルとなっていた。
また、チェン投手は先述の通り、マーリンズ時代の後半は苦戦を強いられたが、今回取り上げた指標に目を向けると、また違った見方ができる点も見逃せないところ。とりわけ、2019年は奪三振率ではMLB移籍後では自己ベストの数字を残しており、与四球率も2.37と及第点以上の値に。K/BBも3.50と優秀な成績となっており、防御率6.59という数字からくる印象に比べれば、ポジティブな点も少なからず見え隠れしている。
リリーフ登板が多く、先発とは異なり短いイニングに全力を注げることも影響した可能性はあるが、本塁打を除くフェアゾーンに飛んだ打球がヒットになる確率を示す指標で、一般的には運に左右されやすいとされる「BABIP」に目を向けてみたい。2019年のチェン投手のBABIPは.360と基準値の.300を大きく上回っており、かなり運に恵まれなかったと言える数字となっていた。
もちろん、BABIPは投手の実力の有無にも左右される面も少なからず存在しており、全てを運のせいと決めつけることも危険ではある。ただ、2018年のチェン投手のBABIPは.299とほぼ基準値に近い数字であったことからも、急激な成績の悪化の理由がBABIPの悪さと無関係とは考えにくいところはある。BABIPが悪かったシーズンの後には基準値以下に良化するケースも少なくないだけに、チェン投手にも今後運が向く可能性はあるだろう。
現在の千葉ロッテには、若きサウスポーが多く在籍
千葉ロッテがチェン投手を補強した理由の一つに挙げられるのが、チーム内の慢性的な先発投手、および左投手の不足にある。懸案だった左の先発として小島和哉投手が開幕から先発ローテーションに定着し、ここまで5勝を挙げる活躍を見せているのは明るい材料だ。だが、期待の大きかった種市篤暉投手の離脱もあり、先発投手陣全体がやや手薄な状況に。チェン投手が期待通りの働きを見せれば、シーズン終盤に向けても大きな追い風となる。
そして、チェン投手に期待される役割は単なる戦力としてのものだけにとどまらない。千葉ロッテに現在在籍している左投げの投手の内訳、年齢、通算成績は下の表の通りとなっている。
30代は豊富な実績を誇りながら今季はコンディション不良に悩まされている松永投手のみで、20代前半の投手が8名中5名と、かなり若手が多い状況となっている。今季は土肥投手を除く7名の投手が一軍での登板を果たしているが、永野投手、山本投手はそれぞれ速球の威力に魅力があるものの、制球面や変化球の精度に少なからず課題を残しており、小島投手、中村稔投手のように投手陣の主力に定着するような立ち位置には至っていない。
また、成田投手も二軍では2年続けて中継ぎとしてフル回転して結果も残しているが、一軍ではなかなか本来の投球を見せられていない状況だ。それだけに、日米の双方で素晴らしい実績を残しただけでなく、2019年も一定の制球力を発揮していたことが指標にも示されているチェン投手の加入は、試合に臨む準備や、自らの武器をどう活かすかといった要素を含め、後輩たちにとっての“生きた教材”となる可能性は大いにあるはずだ。
そして、なんといっても、もう一人の「チェン投手」である、チェン・グァンユウ投手との関係も語り落とせないところ。姓だけでなく台湾出身の左腕でもある両者は共通点も多く、過去には共に自主トレを行うなど、今回の入団決定前から親交は深かった。9月16日に一軍へ復帰したチェン・グァンユウ投手にとっても、かねてより畏敬の念を口にする偉大な先輩の加入は、プレーとメンタルの両面において、非常に大きな刺激となることだろう。
今季の優勝、そして未来に向けての「ラストピース」となるか
先ほどの項ではチーム内の左投手について取り上げたが、25歳の二木康太投手、24歳の東妻勇輔投手、23歳の岩下大輝投手と小野郁投手のように、右投手の中にも一軍戦力として奮闘している若手投手は少なからず存在している。チェン投手がチームに合流すれば、若手の多い現在の投手陣にとっても良い手本となると同時に、石川歩投手や美馬学投手のようなベテランに続く、精神的支柱としての貢献も期待できるかもしれない。
そして、一軍に帯同しながら吉井理人コーチによる英才教育が続いている佐々木朗希投手にとっても、MLBの舞台で強打者たちを相手に真っ向勝負を繰り広げてきたチェン投手の一挙手一投足は、今後の野球人生に役立つ教材となる可能性もあろう。若き逸材が多く在籍する千葉ロッテにやって来た、圧巻の実績を持つベテラン左腕。悲願のリーグ優勝、そして近未来の投手王国への礎を築く、文字通りの「ラストピース」となりうる存在だ。
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