今季はバッターを圧倒する投球が目立つ

ルーキーイヤーから4年連続で規定投球回到達を果たすなど、北海道日本ハムの先発ローテーションを支え続けている伊藤大海投手。昨季はリーグ最多タイとなる14勝をマークし、チームの6年ぶりとなるAクラス入りに大きく貢献した。そんな伊藤投手だが、プロ5年目の今季はさらなる進化を遂げている。対戦打席数に占める奪三振、与四球の割合を見てみると、ともにリーグ上位の好数字をマーク。例年以上に四球を出さず、高い割合で打者を三振に仕留められているのだ。今コラムでは、ここまで圧倒的なピッチングを続けている要因を探っていく。
割合の増えたストレートと新球種・縦スライダー

伊藤投手の特徴として挙げられるのが持ち球の多彩さだ。大きく曲がる宝刀・スライダーや計測不能のスローボールなど、2023年以降の3シーズンで計10種類もの球種を投じている。その中で今季はストレートの割合が前年から大きく上昇。また、新たに縦のスライダーをレパートリーに加えており、投球割合はスプリットに次いで3番目に高い14.5%となっている。こういった割合の変化や新球種は、ピッチングにどのような影響を及ぼしているのだろうか。
軌道の異なる2種類のスライダー

まずは新球種・縦スライダーのデータから見ていこう。平均球速は134.0キロと従来のスライダーとあまり変わらない。しかし打球の傾向を見ると、今季のスライダーはここまですべてがフライ打球なのに対し、縦スライダーはゴロ割合が47.6%という対照的な違いが出ていた。全体の傾向として、角度のついたフライ打球に比べてゴロ打球はヒットになりにくい。ゴロ割合の高い伊藤投手の縦スライダーは、ここまで被打率.100と成績面でも優秀な数字をマークしている。
右打者から空振りを量産している縦スライダー

左右打者別のデータを見てみると、縦スライダーは特に右打者に対して威力を発揮しているようだ。投球割合には左右で大きな差はないものの、縦スライダーの奪空振り率は左打者が12.7%なのに対し、右打者からは驚異の26.2%をマーク。2024年パ・リーグ投手のスライダー奪空振り率の平均が13.3%なことを踏まえると、伊藤投手の縦スライダーがいかに機能しているかが分かるだろう。今季はここまで右打者を被打率.196に封じているが、高い奪空振り率を誇る縦スライダーが武器となっているのは間違いない。
握りを改良し、威力が増したストレート

続いて、投球割合を増やしているストレートを掘り下げていきたい。伊藤投手は昨年のオールスター期間中にストレートの握りを変更したことを明言。その改良が功を奏し、昨季の後半戦からストレートの平均球速、奪空振り率の数値が大きく向上している。今季もここまで前年を上回る平均球速150.1キロをマークし、パ・リーグの規定投球回到達者でトップとなる奪空振り率12.6%を記録するなど、申し分ない成績を収めているのだ。
豊富な変化球を備えながら、決め球はゾーン内のストレート

そんな力強さが増したストレートを、今季は追い込んだ後もストライクゾーンに積極的に投げ込んでいる。通常、追い込んでからは球種を問わずボールゾーンへの投球が増える。伊藤投手のストレートも昨季までは同様の傾向が見られたが、今季は2ストライク時にストライクゾーン内へ投げ込む割合が56.3%まで上昇。空振りを奪えるようになったストレートを決め球として選択するだけでなく、今季は果敢にゾーン内へ投じるようになっているのだ。伊藤投手はここまで62個の三振を奪っているが、そのうち38個がストレートで記録したもの。変幻自在の多彩な変化球を誇りながら、今季はストレートで相手打者を圧倒する投球を展開している。
オフには指を立てるチェンジアップ、「キックチェンジ」の習得に挑戦するなど、好成績を残しながらも常に進化を目指す伊藤投手。これまでも見せていた完投能力の高さを考えれば、今季は目標に掲げる沢村賞をはじめ、複数タイトルの獲得も射程圏内にある。その先には、地元・北海道にとって9年ぶりとなる歓喜が待っているはずだ。
※文章、表中の数字はすべて2025年5月20日終了時点
文・データスタジアム