歴代屈指の盗塁成功率

2024年の千葉ロッテが残したとある好成績をご存じだろうか。昨季マークしたチーム盗塁成功率.821はリーグトップの数字というだけでなく、直近20年のパ・リーグにおいて最も高い成功率だったのだ。成功数自体は64と少なめなものの、失敗数はわずか14。今回はそんなNPB史に残る「盗塁を失敗しないチーム」について深掘りしていきたい。なお、投手のクイックタイムや捕手の送球に要した時間といったデータは用いないこととする。
盗塁を仕掛ける選手を絞り込む

まず見ていきたいのは、選手別の盗塁企図割合だ。今回、チーム全体の盗塁企図数のうち、選手個人が占める企図数の割合を「盗塁占有率」とした。その占有率の上位5選手を見てみると、22年は髙部瑛斗選手、23年は和田康士朗選手と岡大海選手に割合が偏っていたのに対し、昨季は5選手全員が14%以上を記録。また、5選手の合計が80.8%まで上昇するなど、チーム内においてトップ5選手が占める割合が例年以上に増えていた。その要因として、友杉篤輝選手や小川龍成選手といったスピードを武器とする選手が出場機会を増やしたことも挙げられるが、盗塁失敗を減らす第一歩として、盗塁を試みる選手を限定している可能性は十分に考えられるだろう。
成功率の下がる速球時よりも変化球時に盗塁企図を増やす

続いて、盗塁を仕掛けるタイミングに注目したい。ピッチャーが投じた球種タイプ別の盗塁企図割合を見てみると、24年の千葉ロッテはストレートやツーシームといった直球系投球時の企図割合がリーグで2番目に低い30.5%となっていた。球速の速い投球の方が捕手への到達時間が短くなるといった要因から、傾向としてスピードボール投球時は盗塁成功率が低くなる。同条件での24年パ・リーグ平均を見ても、スライダーやフォークといった変化球投球時は盗塁成功率が.753なのに対し、直球系は同.679まで下がっていた。千葉ロッテはそんな直球系投球時の盗塁を狙って避けているのかもしれない。また、被直球系投球時の企図割合がリーグ最少だった東北楽天は、24年トータルのチーム盗塁成功率でリーグ2位の.776を記録。結果的に直球系投球時の盗塁敢行を減らした両チームは、そろって優秀な成功率を誇っていたのだ。
球速の遅い投球時に仕掛けることで成功率アップ

直球系の投球を避けるアプローチは、球速帯別で見ても顕著なデータが出ていた。24年の千葉ロッテは、130km/h以上の球速帯ではいずれも盗塁企図割合がリーグ平均を下回っていたのに対し、129km/h以下の投球時にはリーグ平均を約9%上回る企図割合を記録。直球系の投球時を避けるだけでなく、より球速の遅い投球時の盗塁企図が多くなっていたのだ。
球速帯別盗塁成功率の24年パ・リーグ平均を見ると、140km/h台は.645、130km/h台は.768、129km/h以下は.782と球速が遅くなるにつれて成功率は上がる傾向にある。24年の千葉ロッテは129km/h以下の投球時に球速帯別最多の盗塁を決めており、失敗はわずか1度のみ。的確な配球の読みが、歴代屈指のチーム盗塁成功率に結びついていたといえるだろう。
盗塁の成否にはさまざまな要素が絡む。今回紹介したデータだけで千葉ロッテがチームとしてこれらのことを狙って再現している、と断言することは難しいかもしれない。しかし、2025年の開幕戦で二塁への盗塁を成功させたのは小川選手で、有原航平投手(福岡ソフトバンク)が昨季の平均球速133.3km/hのフォークを投じたタイミングでのスタートだった。今季も幕張の“怪盗”集団からは目が離せなさそうだ。
※文章、表中の数字はすべて2025年4月21日終了時点
文・データスタジアム