北海道日本ハム宮西「仲良しこよしじゃダメ」怒りの“グラブ投げ”に込めた思いとは

Full-Count 石川加奈子

2019.9.10(火) 11:45

北海道日本ハム・宮西尚生※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)
北海道日本ハム・宮西尚生※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)

北海道日本ハム宮西は8日オリックス戦で5年ぶり40ホールドを達成 プロ入りから12年連続50試合登板以上のパ新記録

 泥沼の8連敗を脱した北海道日本ハムが6日からのオリックス戦で3連勝と息を吹き返した。すでに入団から12年連続50試合以上登板のパ・リーグ記録を更新していた宮西尚生投手は、この3連戦で2ホールドを挙げて今季リーグ断トツの40ホールドに到達。左肘の手術明けにも関わらず、日本一に輝いた16年の41ホールドを上回るキャリアハイと3度目の最優秀中継ぎ投手のタイトル獲得がはっきり見えてきた。チームを支える鉄腕に、チームへの思いとこれから目指すものについて聞いた。

 8月24日オリックス戦(京セラドーム)以来2週間ぶりとなるホールドは格別な味だった。チームは8月に球団ワーストタイ記録となる20敗を喫する大失速。連敗続きの中で、これまでいかに自分が恵まれていたかを痛感したという。

「負けている時に投げて、初めて俺らは状況を与えられて、生きているんだと思った。負けている時には何も力になれない。リリーフは(味方が奪った得点を)守ることしかできない。チームを勝たせることはできないから。チームがあって、勝ちにつながる。周りに生かさせてもらって、投げ続けているんだと改めて思った」

 勝利に貢献できないもどかしさから4日の千葉ロッテ戦(ZOZOマリン)では怒りを爆発させた。1点リードの8回に登板し、横尾と渡邉のエラーで同点になると思わず天を仰ぎ、ベンチに戻るとグラブを叩きつけた。冷静に修羅場をくぐり抜け、一喜一憂しないことを信条とするベテランがこれまでに見せたことのない姿だった。

「やっとチームに貢献できると思ってマウンドに行って、同点になって……。正直、自分が何もできない、出ても貢献できないもどかしさがあったし、チームの消極的な雰囲気にも我慢できなかった。(グラブを叩きつけた)あの態度は反省している。あんなに怒りが収まらないのは初めてだった」

 ベンチが凍り付いたように見えたが、あの試合後3連勝。別チームに生まれ変わったかのように投打がかみ合い、引き締まった試合をしている。あの無言の“喝”が効いているのではないだろうか。

「今はピリッとして集中力がある。負けていた時の雰囲気とは違うよね。自分たちはいつもブルペンにいて、一歩引いてモニターで見ているから、マウンドに上がった瞬間に、球場の雰囲気とかグラウンドの空気感というものをすごく感じる。負けていた時はボワッとした感じだった。チームを鼓舞する意図があった? 美化すればそうなるかもしれないけど。見られていることは分かっていたからね。ただ、あれでどう変わるかは分からなかった。もしかしたら雰囲気が悪くなるかもしれないから、試合が終わった後、すぐに監督に謝りに行ったよ」

 負け続けて誰もがもがき続ける中で、宮西自身も現状を憂い、何とか突破口を開きたいと必死だった。

「負けているとどうしても全体的に気持ちがどんよりして、集中力が切れる。だからこそ、原点に戻らなきゃいけない。1軍でやれる幸せを感じながら。1軍で出たくても出れない人もいる。出ている人は出ている人でプレッシャーを感じたり、悩みがあったりするのは分かるけど、それを跳ね返さなきゃ。去年から、ここというところで投手も野手もミスがあって、優勝争いができなかった。ここを乗り越えないといけない。それは選手1人1人の意識。そういうことを言葉に表して鼓舞できればいいんだけど……」

怒りの“グラブ投げ”は「仲良しこよしの慰め合いじゃダメ。相手が背負っているものを感じながら」

 あの怒り爆発によって若い選手が萎縮する可能性もあっただろうか。その問いかけにすぐさま首を振った宮西の胸中には、もっと先を見据えた大きな思いがあった。

「普段から、萎縮するような関係性は作っていないから。よく話もしているしね。ナベ(渡邉)は今年よく頑張っていて、これからのチームを引っ張っていく立場になる。あいつのミスがチームとして大きなことだという自覚をもってほしいという思いがあった。こないだ(7日オリックス戦)は俺が打たれて、ナベのホームランに助けられた。若いチームとか言われるけど、1軍で出ていて、若いも何もない。1人1人が意識レベルをもう1個上げていかないと」

 求めているのは、投手も野手もお互いを理解し、助け合って勝利を追求する姿勢だ。

「野手は守っている時もバッティングのことを考えたりするんだろうけど、そうじゃない。俺はみんなの頑張りを背負って、(勝ちパターンの)1イニングいっている。だからフワーとしたまま投げることはない。そういう風に思ってほしいというのがあった。ナベと横尾にはリリーフが背負っているものを理解してほしいと思ったし、俺らもチャンスで打てなかった時の野手の気持ちも分かってあげないといけない。持ちつ、持たれつ。仲良しこよしの慰め合いじゃダメ。相手が背負っているものを感じながら。俺らも野手が取ってくれた点を必死で守る」

 新人から12年連続50試合以上登板のパ・リーグ記録を更新する52試合に登板して、16年の41ホールドに迫る40ホールドとキャリアハイを更新して防御率は1.81。3度目となる最優秀中継ぎ投手のタイトルも見えてきた。

「さっきの話じゃないけど、それも野手のおかげなんだよね。そういう意味では運任せのところがあるけど、野手がつくってくれた(勝ちパターンの)状況で責任を果たして、その結果タイトルを獲れたらいい」

 気になるのは手術明けでフル回転している左肘の状態だ。 すでに肘にたまった水を抜く処置を10回ほど行ったという。

「50試合登板という目標があるから心折れずに投げ続けられる。50試合がなくなれば、俺の気持ちも切れて終わる。それまであと何年かな。今年は手術でトレーニングができず、その分、肘に負担がかかった。でも、オフに休んで肘周りを強化すれば、来年は水を抜くこともないと思う。あとはどこまで肘が持つかだね」

 マウンド上だけではなく、精神的支柱としても唯一無二の欠かせない存在感を放つ34歳左腕に、残り14試合への臨み方を聞くと明確な答えが返ってきた。

「CSは諦めたらあかんし、CSを目指してやる中で、同時に来年のためでもある。どういう終わり方ができるかは大事」

 まずは10日から東京ドームで3位千葉ロッテと1試合、4位楽天と2試合が控える。頼れる鉄腕は最後までチームのために全力で腕を振り続ける。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

記事提供:Full-Count

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