グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。パ・リーグで働く全ての人を応援する、パシフィック・リーグオフィシャルスポンサーのパーソルグループと、パ・リーグインサイトがお届けする「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」で、パ・リーグに関わるお仕事をされている方、そしてその仕事の魅力を紹介していきます。
選手プロデュースメニューの裏側
球場はエンタテインメント空間だ。試合が生み出す熱狂や感動とともに、子どもたちの夢、家族の幸せ、非日常の開放感などさまざまな喜びを体験させてくれる。飲食も、その大切なパート。単なる外食ではない。球場で飲む仲間とのビール、球場で食べる家族との食事、それは特別なものになる。一方で球団とすれば大切な収益のひとつであり、顧客満足度を向上させる大切なアイテムでもある。千葉ロッテマリーンズの本拠地「ZOZOマリンスタジアム」の飲食部門を担当する黒沢翔太さんは元千葉ロッテの投手。引退後にこの職に就いて2年目だ。まずは普段の業務からお話をうかがっていこう。
「球場内や球場外周の売店の売上や運営、あと販売スタッフの管理です。全部で40ほどの事業者がいらっしゃいますが、日々の売上げを見つつ、定期的にヒアリングを行います。またメニューの提案、開発なども一緒に行います。社員、業務委託、パートさん合わせて8名で取り組んでいます。今は “スタグル”、スタジアムグルメは、かなり注目を浴びていますのでやりがいがありますね」
業務は、数字的な管理業務からメニュー開発まで幅広い。黒沢さんが今、おもしろいと感じている業務が、選手プロデュースメニューの開発だ。マリーンズでもさまざまな人気商品が生まれているが、どういう行程で商品化されていくのだろうか。
「基本的には選手にアンケートをお願いして、選手それぞれの好きなものから考えます。あとは出身地。大体この2つからの発想なんですが、名前にかけたダジャレ的なものもありますね。ボルシンガーの『ボルジンジャー・ハイボール』とか(笑)」
例えば平沢大河選手の『タイガのずんだパフェ』は彼の出身地(宮城県多賀城市)からの発想だろうか。
「それに加えて肉やお酒ばかりに偏るのもいけないので、スイーツもあった方が良いというのもありました。こちらからこういうものをお願いしますと業者さんにお願いすることもありますし、平沢選手の場合は業者さんから、ずんだでスイーツができますよという提案をいただきました」
もうひとつ事例を聞いてみよう。レアード選手は、ホームランを打った後の寿司パフォーマンスで人気。これにちなんで生まれたのが『レアード選手の幕張寿司』。レアード選手本人、黒沢さんたち、業者さん、三者の思惑が一致していそうだ。
「まさにそうですね。それからこの商品は広報室からの依頼でもあったんですよ。直近で言うと、マーティン選手にちなんだ、“いただきマーティン丼”も依頼されたものです」
こちらの商品、大活躍をした試合のヒーローインタビューで飛び出したマーティン選手のひと言、「アシタモガンバリマーティン!」を受けて、なんとわずか中2日で発売されたというからすごい。
「翌日の試合中にサンプルを作って、試合後に本人に食べてもらって、そのまま写真撮影。もちろん選手プロデュースメニューは選手に必ず食べてもらってから、最終的にGOを出します。そして売店のポップをすぐに作って発売。通常はここまで即座にはできないのですが、球団にも協力してもらいました。おかげさまで結構、売れてますよ」
選手プロデュース商品はファンと選手をつなげるアイテムでもあり、今後とも力を入れていきたいという。
「もっとできるんじゃないかなとは思ってるんです。いろいろな意見もいただいていまして、試合日に売店を回っていると、お客様からも“おいしい”とか “こういうのも出してよ”と声をかけていただくこともあるんですよ」
実はインタビュー後、黒沢さんと試合中に売店を回らせていただいたところ、ファンから黒沢さんが声をかけられていた。なぜ声をかけられるか。熱心なファンは黒沢さんが元選手だと知っているからなのだ。
元選手だからこそできる「架け橋」
元選手だからファンの声を聞ける機会が多い。ファンと球団の業務との距離が近くなるというのはどちらにとっても大きなメリットだろう。現在、マリーンズでは3名の元選手が職員として働いている。黒沢さんはどのような経緯で現職に就いたのだろうか。
「戦力外だと伝えられるときに球団事務所に呼ばれるのですが、そのタイミングで“チームスタッフとして考えてます”と言われました。今までの流れだと、基本的に裏方さん、バッティングピッチャーへということが多かったんですね。そういう想像をしていたので事業部での採用にびっくりしました。社長からは“こっちで頑張ってみたらどう?”と言われまして“じゃあ頑張ります”という感じで、その場で決めました」
それまでは、千葉ロッテで選手を辞めて球団の事業関係の部署に転じるという例はほとんどなかった。前例がほぼない中での手探り。しかし、元選手だからこそのやりがいを黒沢さんは感じている。
「この仕事をするという時に、“選手と球団の間の架け橋に”みたいな感じでできたらいいなという希望はありました。僕が選手だった時、事業側と接点がなかったんです。井口監督になってから選手もファンサービスにも力を入れています。飲食に限らず、知ってる選手がいっぱいいますから、その間に入ってなにかの力になれればいいかなと考えています」
ファンサービスに対してどれだけ球団が努力しているか、またどんな動きをしているのか知る術がなかった。もし知っていればできることもあったかもしれない。もっとファンに喜んでもらいたいと考えている選手との懸け橋。なるほど元選手だったからこその発想だ。
「僕の場合は、球団に対して恩返しじゃないですけど、選手時代にマリーンズにお世話になったので、今度はスタッフとして力になれればいいなという気持ちです」
その思いが黒沢さんを動かしている。飲食経験はもちろんなく、名刺を持ったことも初めてで、ビジネスマナーも一から学び、そこからようやく飲食についての勉強と実践。大変なことも多かったけれど、この仕事のおもしろみを存分に感じ始めている。
「おいしいものも食べられるんで。いやちょっと去年は、食べ過ぎたんで太りすぎました(笑)。それはともかく、これからはもっと飲食イベントも仕掛けたいですね。肉やから揚げなどはやっているんですが、次はスイーツやお弁当かな。球場の外周を使ったイベントもやりたいです。この球場は立地的に正直難しい部分はあるんです。なにかの帰りについでにっていう場所ではない。飲食でも、ここに来る目的をつくっていきたいです」
マリーンズでは飲食部門はホスピタリティグループに属する。飲食はファンに対しての“おもてなし”という考え方だ。黒沢さんが選手とともに開発したプロデュースメニュー。これもファンに対しての大切なおもてなしの気持ち。選手のファンへの感謝の気持ちをおいしさと楽しさに変えて。飲食で球場とチームを盛り上げるべく、元選手は奮闘している。
◇過去のお仕事名鑑はパーソルの特設サイトからご覧いただけます。
https://www.persol-group.co.jp/special/pacificleague/index.html
文・岩瀬大二
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