かつては、NPBのコーチが、キューバをはじめとした海外の強豪国へコーチ留学へ行くケースが多く見られた。しかし、2023年のWBCでは優勝、昨年のプレミア12では無傷の8連勝で決勝まで登りつめ、準優勝に輝くなど、日本が着実に強豪国へと成長を遂げたことで、現在は逆の流れができつつあるのだ。
その例として、今年の福岡ソフトバンクの春季キャンプに、キューバ代表投手コーチのペドロ・ルイス・ラソさんと、技術顧問を務めるウンベルト・ゲバラさんがコーチングインターンに参加している。今回は、お二人に、インターンの目的や、参加してみて感じた日本のキャンプの特徴、野球を通じた国際交流の重要性などを聞いた。
コーチングインターン参加の目的とは?
福岡ソフトバンクのスタッフは国際色豊かであり、12球団で唯一中南米に専門のスカウトを駐在させているということから、キューバ野球・ソフトボール連盟の要望によって実現したという今回のコーチングインターンの取り組み。「一番の目的は、まだキューバ野球には取り入れられていない練習方法を学び、今後に生かすため」と話すラソさんは、常勝軍団である福岡ソフトバンクでこうした機会を得られたことは、キューバ野球のスキルアップにはとても重要なことだと話す。
「学び続けることはとても大切なことだと思っています。私たちは日本の野球をリスペクトしているので、日本のキャンプで、コーチやスタッフ、選手たちの動きを見学できることは、キューバにとって絶好の機会です」
約3年前から、国内の優秀な選手の発掘を目的とした大規模なトライアウトを実施しているキューバ。アスリートとしての潜在能力が高い人を対象としたトライアウトは、走塁、打撃、投手力など、さまざまな分野のテストが行われ、優れた成績を残した選手が各大会の代表に選抜されるという仕組みだ。このように、昨今、キューバは国内選手の育成と、それぞれの才能を発揮する場の提供に特に注力している。
また、代表チームは、昨年のプレミア12を終えてから、外野守備とバッティング、そして投球動作の課題に重点的に取り組んでいるといい、取材を行った日も、あらゆる練習の様子を取りこぼすことなく映像に収めながら、福岡ソフトバンクのスタッフらと積極的にコミュニケーションを取る二人の姿が印象的だった。

では、実際にキャンプを近くで見学してみて、ゲバラさんは何を感じたのだろうか。
「まず、ホークスのキャンプにおける環境は、キューバよりもはるかに恵まれた環境だと思います。練習において、医療・トレーニングスタッフなど、リソースの充足が非常に重要だということを改めて感じました。整った環境が、効率的で効果的なトレーニングにつながり、その結果、良いパフォーマンスを発揮できているのだと思います」
具体的な練習内容に関しては、大きな違いはないというが、「時間の使い方が全く違います」とゲバラさん。「日本では、選手がいくつかのグループに分かれて、それぞれ違うトレーニングを行いながらも、その練習がきちんとリンクしている。時間を有効に使った練習方法だと思います」と話し、整った環境だからこそできる日本の時間の使い方に、驚きの表情を見せた。
野球を通じた国際交流の重要性

冒頭でも触れたように、現在は海外チームのコーチが、NPBにコーチングを学びに来る流れができ始めている。このように、さかんになりつつある野球を通じた国際相互交流について、「このような機会は必要だと常に思っていました」とゲバラさんはうなずく。
「こうした国際交流がなければ、知識がそれぞれの国独自で積み上げられ、それぞれの国だけのものになってしまうため、今回こうして日本とキューバがつながり、お互いの経験や知識を共有する機会を持てたことは、野球界全体にとって非常に重要なことだと思います」
また、近年、日本野球界ではデータの活用が重要視されているが、キューバでも同じような動きが見られるのか。ラソさんにたずねると、データの活用は重要だと認めながらも、「データを用いた指導方法を学びたいと思っているが、キューバには十分な測定機器が備わっていないのが現状。行き詰まっていることの一つです」と話し、まさに今、キューバチームはデータの活用に頭を悩ませていることを明かした。
それでも、「データを使った指導も大事なことですが、十分な測定機器がなくても、スキルを磨くことはできると思っています」と前を向き、笑顔を見せた。
2026年WBCに向けて

2026年に行われるWBCでは、日本と対戦することも考えられるキューバ。最後に、日本のファンに向けて一言お願いした。
「これだけたくさんのファンの方が来ていることに驚きました。練習の段階から、ファンのみなさんがこれだけの熱量で応援していることはとても素晴らしいことだと思います。来年のWBCに向けて、我々も良い準備をして日本と戦えるよう頑張りたいと思います」(ラソさん)
「老若男女たくさんのファンがキャンプを見に来ている光景を見て、野球は日本のレガシーであるということをあらためて実感しました。そして、子どもたちがプロの野球に触れる機会がたくさんあることで、野球を続けるモチベーションにもなっていることを肌で感じることができました」(ゲバラさん)
そして、二人は口をそろえて「少しでも、キューバ野球に興味を持ってくれると嬉しいです」と呼びかけ、来年のWBCで日本と対戦することを誓った。
取材・竹林慎太朗
文・後藤万結子