母国からの注目も急上昇。台湾出身、埼玉西武・呉念庭選手

パ・リーグ インサイト

2016.6.14(火) 00:00

メットライフドーム(C)PLM
メットライフドーム(C)PLM

「近くて遠い国」ならぬ、「近くて近い国」と言えば、親日国としても知られる台湾。日本から飛行機で約3~4時間ほどのところにあり、双方を行き来する観光客も増加傾向にある。

パ・リーグとしてもこの台湾からの観光客誘致に積極的で、今年1月にはパ・リーグ6球団とパシフィックリーグマーケティング(PLM)がFOXスポーツ台湾と2016年シーズンからの3年間に渡る放映権契約を締結。従来の年間約160試合から、年間260試合以上までに増え、1週間あたり10試合以上がライブ放送されている。

ここまで密接な関係となったのは、台湾出身の北海道日本ハム・陽岱鋼選手の活躍などが一つの要因として挙げられる。その陽岱鋼選手をはじめ、現在台湾出身の選手はパ・リーグ6球団のうち5球団に、計7選手(育成選手含む)が在籍。台湾の野球ファン、そして台湾メディアによる日本プロ野球への注目度はこれまで以上に高まってきている状況だ。

中でも、埼玉西武には合計3選手が在籍中。2015年に台湾から直接日本プロ野球へ入団した郭俊麟投手、MLBでの実績もあるC.C.リー投手、そして昨年のドラフトで7位指名を受けて第一工業大から入団した呉念庭選手だ。

呉選手は、同じ野手としても「先輩」にあたる陽岱鋼選手、福岡ソフトバンク・李杜軒選手(現在は育成契約)と同じように、高校入学と同時に台湾から日本へ野球留学の形で来日。「先輩」たちは高校卒業後にそのままプロ入りを果たしたが、呉選手は第一工業大へ進学し、大卒野手としてのプロ入りとなった。

プロ入り後の実戦となった二軍の公式戦では、開幕当初こそなかなか快音が聞かれず苦しんだが、3月29日の巨人戦で初ヒットを記録。翌日に2安打したのち、またしばらくヒットに恵まれなかったが、4月10日の東京ヤクルト戦で再び2安打を放つと、そこから安打を重ねて4月下旬からはスタメンに定着。5月1日からは3試合連続複数安打をマークし、さらには5月21日の試合ではプロ初ホームランを逆転満塁弾で飾った。

その後も好調を維持した呉念庭選手は、6月11日まで15試合連続安打を記録(6月12日の試合で記録はストップ)。3・4月は月間打率.197(71打数14安打)だったが、5月は.367(49打数18安打)、6月はさらに上げて12日終了現在で.423(26打数11安打)、シーズン通算でも.295まで上昇し、イースタン・リーグ第4位にランクインした。

父親が台湾プロ野球(CPBL)の中信兄弟エレファンツ・呉復連監督ということもあり、元々呉選手の台湾メディアの注目も高い。5月21日に記録した「逆転満塁プロ初アーチ」は、FOXスポーツ台湾の番組内にてニュースとして紹介されるなど、ファームの選手としては異例の取り上げられ方をしていた。また、初の一軍昇格となった今月2日には、台湾大手メディアがこぞってこのニュースを取り上げた。やはり、一軍でまだ実績のない選手に対してということを考えると異例の盛り上がりだ。

今後は実際に一軍の戦力として割って入っていけるかがポイントとなる。埼玉西武の二遊間は、セカンドを守る浅村栄斗選手はほぼ不動。その一方で、ショートは木村昇吾選手、渡辺直人選手、鬼崎裕司選手、金子侑司選手、外崎修汰選手の計5選手がスタメンとして起用されていて、中島宏之選手(現オリックス)の移籍以降の課題である「ショートの固定」はチームとして解消できていない。しかし、チームとしては課題ではあるものの、呉選手も含め、各選手にとっては結果さえ残せば定位置確保を狙えるチャンスが残されているということを示している。

また、2011年の千葉ロッテ・伊志嶺翔大選手や、今年の楽天・茂木栄五郎選手のような例外はあるものの、大卒野手が1年目から活躍を見せることは稀で、ほとんどが「プロの壁」にぶち当たる。二軍とはいえ、呉選手が徐々にプロの水に順応しつつあることは適応力の高さを証明していると言えるだろう。チームのみならず、リーグを代表する強打者・好打者を育てることに定評がある埼玉西武に所属しているだけに、ここからの伸びしろにも期待が高まる。

偉大な先輩たちに続き、台湾へ届く活躍を見せ、日本と台湾に新たな橋をかけられるか。若きファイターの挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。

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