【台湾プロ野球だより】「台湾最強打者」、「得点圏の鬼」がCPBL入り、プレミア12にむけた動きも

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2024.8.13(火) 17:35

新球団台鋼ホークスから1位で指名された元埼玉西武の呉念庭。王柏融、モヤと元NPBクリーンアップを組んでいる 【写真提供:CPBL】
新球団台鋼ホークスから1位で指名された元埼玉西武の呉念庭。王柏融、モヤと元NPBクリーンアップを組んでいる 【写真提供:CPBL】

 16年ぶりとなる一軍6球団制の復活、さらにはファン待望の室内球場「台北ドーム」フィーバーもあり、今季、過去最高の観客動員を記録している台湾プロ野球(CPBL)、前半では、前期シーズンの結果や、日本人指導者、選手の奮闘、そして新球団、台鋼ホークスの戦いぶりなどについてご紹介した。後半では、元海外組の台湾代表クラスが上位で指名され大きな話題となったドラフト会議や、プレミア12にむけた話題について、ご紹介しよう。

富邦が1巡目1位で元メジャー張育成を指名 元埼玉西武の呉念庭は台鋼1位、張奕は富邦2位

 完全ウェーバー制で、海外のプロ経験のある選手も原則的に参加が義務づけられているCPBLのドラフト会議、昨年12月、くじ引きにより、ドラフト前年の順位がない新球団、台鋼ホークスの指名順が2番目と決定、年間最下位の富邦ガーディアンズが、台湾では、科挙にならい「状元」と呼ばれる1巡目1位の指名権を獲得した。

 こうしたなか、昨年12月、埼玉西武を電撃退団した呉念庭は台湾へ帰国後、1月に社会人チームの全越運動に合流、3月には入団発表を行い、アマの春季リーグへ出場し調整を行ってきた。台湾プロ野球入りについては、本人からなかなか明確な意志表記はなされなかったが、5月27日、CPBLドラフト会議への参加を正式に表明、この時点では、富邦の呉念庭1位指名は、ほぼ確実かとみられていた。

 しかし、6月18日、ビッグニュースが飛び込んできた、今季はタンパベイ・レイズの3Aでプレーをしていた張育成のドラフト参加表明である。張は2019年にクリーブランド・インディアンス(現・ガーディアンズ)でメジャーデビュー、パワーがあり、遊撃もこなすユーティリティー性のある内野手で、メジャーではレギュラー定着こそならなかったが、5シーズンで235試合出場、121安打、20HRなどの通算記録は台湾選手として最高だ。

 昨年のWBC、台湾代表は、地元台湾の台中で開催された1次ラウンドプールAで、2勝2敗ながら失点率で最下位に終わったが、張は4番打者として2HRを含む16打数7安打、打率.438、8打点と大活躍。プールAのMVPを受賞すると共に、一塁手で大会ベストナインに輝き、「台湾最強打者」であることを証明した。

 張のドラフト参加表明を受け、5月末に水面下で合意に達していたという富邦も「長期間に渡り交渉を行ってきたが、前向きな返答が聞けて嬉しい。最高の誠意をつくしたい」とリリースを発表した。

 ドラフト前に「状元」が確定、2番目の指名権をもつ台鋼の動きに注目されたなか、台鋼はドラフト5日前の6月23日、台北ドームで開催された中信兄弟との試合の始球式に、呉念庭と、兄弟のOBでもある父・呉復連氏を招く、事実上の「指名宣言」。劉東洋GMは「天からの贈り物だ」と笑顔をみせた。そして迎えた6月28日のドラフト会議、順当に、富邦は張育成を、台鋼は呉念庭をそれぞれ1位で指名した。

 1巡目の残り、中信兄弟は昨年のU18ワールドカップ代表、身体能力の高い外野手、許庭綸(平鎮高校卒)を、統一は今季、アリゾナ・ダイヤモンドバックス傘下2Aでプレーした二、遊をこなせる内野手、陳聖平を指名。続く楽天、味全がいずれも平鎮高校の卒業生を指名したのち、富邦は2巡目で元オリックス、埼玉西武の張奕を指名した。

 昨年、埼玉西武から戦力外となった張奕は、NPB12球団合同トライアウトの際、視察した台鋼の洪一中監督から「戻るなら今だ。数年後戻ろうと思っても、その時にはもうチャンスはない」との説得を受け、台鋼に練習生として合流、アジアウインターリーグでは胴上げ投手となり、今季も引き続き二軍でプレーしてきた。

 台鋼は2位での指名を狙っていたというが、富邦が一手早く、「元NPBダブル獲り」はならず。台鋼の洪監督はこの日、元海外組では唯一会場入りしていた張奕に声をかけ、「うちとの対戦の時は、あまり凄い球を投げてくるなよ」と冗談を交えて激励した。

富邦とCPBL史上最高額の契約を締結した「台湾最強打者」張育成、9試合で3HRと上々のスタートを切った 【写真提供:CPBL】
富邦とCPBL史上最高額の契約を締結した「台湾最強打者」張育成、9試合で3HRと上々のスタートを切った 【写真提供:CPBL】

富邦は張育成と史上最高額3.5年4億3470万円の大型契約、呉念庭、張奕もNPB時代を上回る待遇に

 CPBLとNPBの大きな違いの一つが、CPBLのドラフト会議はシーズン中の6月末か7月初旬に開催され、指名された選手が契約後、すぐプレーすることだろう。今回指名された元海外組BIG4のうち、台鋼はなんとドラフト会議の翌日、6月29日に呉念庭とスピード契約を行った。

 台鋼が、呉念庭との契約の場に選んだのは、1990年の年末、それまで日本の社会人野球、トヨタ自動車でプレーしていた父・復連氏が兄弟エレファンツと契約した兄弟ホテルであった。台鋼と呉念庭の契約期間は3.5年、出来高込み総額台湾元3600万元(日本円約1億7000万円)、背番号は父がプロ野球で初めて監督をつとめた際の「67」となった。

 さらに7月2日には、統一が1位指名の陳聖平と2.5年総額1166万元(同5480万円)で契約した。

 そして、ファンの度肝をぬいたのは、富邦と張育成の大型契約であった。7月11日、富邦は、CPBL蔡其昌コミッショナー立ち会いのもと記者会見を行い、3.5年総額9250万元(同4億3470万円)という契約内容を発表。平均月給は220万元(同1030万円)、従来の球界トップ、江少慶(富邦)の113万元の2倍近くという、CPBL史上最高額となった。

 張は当初、背番号に、WBCでつけた「18」を希望していたが、若きエース候補、20歳の黄保羅がつけている事を考慮し「99」を選んだ。人格者として知られるニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジの背番号であることも理由の一つだという。

さらに富邦は7月13日、本拠地、新北市の新荘球場で、2位指名の張奕と、2.5年総額1314万元(約6140万円)で契約、背番号は大会ベストナインに輝いた2019年プレミア12でつけた「19」となった。若手内野手の林岳谷から譲ってもらった張奕は、「大谷翔平のように、ポルシェとはいかないけど」と笑った上で、必ずお礼をすると約束した。

富邦から2位指名を受けた張奕。活躍した2019年プレミア12の背番号「19」をつけ、再起を図る 【写真提供:CPBL】
富邦から2位指名を受けた張奕。活躍した2019年プレミア12の背番号「19」をつけ、再起を図る 【写真提供:CPBL】

元海外組、BIG4の成績は?

 台鋼は、契約翌日の6月30日に呉念庭を支配下登録、同日、本拠地、南部・高雄市の澄清湖球場で入団セレモニーを行うと、前期シーズン最終戦となった7月1日、富邦戦の7回裏無死、代打で起用した。

 4月上旬から5月上旬にかけ出場したアマの春季リーグから約2カ月ぶりの実戦となったが、呉念庭は、フルカウントから王尉永の145キロ高めの直球をライト前にライナーで運び、CPBL初打席をヒットで飾った。

 7月5日の後期シーズン開幕以降、打順は主に5番、サードないしセカンドでスタメン起用され、王柏融、スティーブン・モヤと「元NPBクリーンアップ」を組むことも多い。7月31日まで16試合に出場し、打率.281をマーク、ただ長打は二塁打1本のみに留まっている。守備では、随所で「さすが」というプレーを見せているものの、セカンドで出場した8試合で3つのエラーを喫するなど、まだ適応期間という印象だ。ここからの本領発揮を期待しよう。

 統一1位の陳聖平は、7月5日の後期シーズン初戦から遊撃手としてスタメン出場、7月13日の富邦戦では、張育成の目の前で、今年のドラフト指名野手で一番乗りとなるライトへの一発、出場14試合で打率.333、ここまでノーヒットは1試合のみと、安定した成績を残し、正ショートの林靖凱が怪我で抜けた穴を埋めている。

 そして、注目の張育成は7月12日、後期本拠開幕戦となった統一戦で、4番DHでスタメン出場を果たした。「台湾最強打者」のデビューを見ようと、金曜日ながら内野席の前売りは完売、新荘球場には今季最多となる10522人の観衆がつめかけた。三打席目までは統一先発、ブロック・ダイクゾーンに抑え込まれていたが、1対13と大量得点差で迎えた9回裏の第4打席、統一は今季限りの引退を表明している通算最多勝投手、潘威倫をマウンドへ。すると、2ボールからの3球目を振り抜いた打球はレフト線へ、CPBL初ヒットはレジェンド投手からの二塁打となった。

 張は7月16日の中信兄弟戦でCPBL第1号本塁打を放つと、23日の味全戦では、かつてオリックスでもプレーしたタイラー・エップラーから逆風をもろともせずライトフェンスを超える2号、さらに28日の台鋼戦では、打った瞬間にそれとわかる3号をレフトスタンドに叩き込んだ。

 期待の大きさは十分感じており、気持ちが空回りすることもあると言いつつ、ここまで主に4番に座り、9試合で打率.290、3HR、OPS1.055。ショートの守備でも、7試合37回の守備機会でエラーなしと、上々のスタートを切った。加入以来、チームは6勝3敗で首位に浮上、自身の貢献について問われると「そうでないと、何で自分が戻ってきたのって事になるでしょ」と胸を張った。

 一方、張奕は7月14日の統一戦、1対0とリードした7回表、CPBL初登板。3安打を浴び同点においつかれたが、味方がその裏に逆転し幸運な形で勝利投手となった。続く17日の中信兄弟戦、そして27日の台鋼戦も、球速、変化球のキレはまずまずながら、甘い球を打たれ失点を喫し三試合連続失点となったが、ようやく28日の台鋼戦では150km/h前後の力強い直球を軸に三者凡退に抑えた。本人は先発を希望しているという報道もあり、今後の起用法に注目だ。

35歳のオールドルーキー高塩将樹が、外国人選手初のドラフト指名

統一から6位指名を受けた高塩将樹。外国人選手として史上初めてドラフト指名を受けた 【写真提供:CPBL】
統一から6位指名を受けた高塩将樹。外国人選手として史上初めてドラフト指名を受けた 【写真提供:CPBL】

 今年のドラフト会議では、歴史的な指名もあった。統一ライオンズによる、35歳の日本人右腕、高塩将樹の6位指名だ。

 CPBLは2021年12月、ドラフト制度の改革を行った。これは台湾の中学、高校、大学に一定期間就学した外国人留学生及び、台湾居住5年以上で、かつ社会人チームで3年以上プレーした外国人選手について、外国人枠とせず、ドラフト指名の対象とするというルール改正である。台湾では、台湾大学球界で目覚ましい活躍をみせ、このルール改正のきっかけとなった国立台湾体育運動大学卒、現、東北楽天の育成選手、永田颯太郎の苗字を取り、「永田条項」と呼ばれている。

 1981年、神奈川県生まれの高塩は、横浜金港クラブや独立リーグの富山、福島などを経て、2016年の年末、CPBLの合同トライアウトを受験、合格はならなかったが、2017年から台湾の社会人チーム、崇越隼鷹(現・全越運動)に加入するとチームのエースとして活躍、台湾アマ球界を代表する投手となった。

 帰化してのアジア選手権代表入りにも意欲をみせていたが、2021年年末にCPBLで「永田条項」を設けるルール改正が行われたことから、2022年からCPBLドラフト参加。しかし、一昨年、昨年は指名漏れに終わった。昨年のドラフト後の8月、楽天が育成契約を締結も、リーグは外国人選手との育成契約は認められないとの判断を下し、プロ入りは幻となった。しかし、腐ることなく、この一年間、安定した結果を残した高塩は、「年齢よりパフォーマンス。不安定な現状の中継ぎ陣よりも実力は上」(統一・林岳平監督)という評価を受け、今年3度めのドラフトで、指名を受けた。なお、今年は複数の球団が高塩に関心をもっていたという。

 CPBLで外国人選手として初めてドラフト指名を受けた高塩は2.5年の複数年契約、契約金110万元(日本円約520万円)プラス出来高40万元、最低月給8.5万元、一軍月給10万元(同47万円)で契約した。なお2026年の月給は来季のパフォーマンスによって再度見直すという。

 7月28日、味全戦の9回、8対1の場面で記念すべきCPBL初登板。いきなり2年連続本塁打王、吉力吉撈.鞏冠にフォークを拾われ、レフト線への二塁打を浴びたが、後続の打者を落ち着いて打ち取り無失点に抑えた。31日の中信兄弟戦では、3対4の8回裏に登板、通算172HRの張志豪に143km/hの直球をライトスタンド中段まで運ばれたが、この1失点に抑えると、味方が9回表に逆転、2試合目で幸運にもCPBL初勝利を手にした。「マー君世代」のオールドルーキーの活躍を期待したい。

 なお、今回のドラフト会議には高塩のほか、当初、一般の留学で来台も、野球への情熱を取り戻し、強豪開南大学に編入した元甲子園左腕、藤木琉悠(興南)、文化大学の外野手、豊島顯(創成館)、金本航河(武田)の3人の大学生が、新人トライアウトを突破し、ドラフト会議への参加資格を得たが、残念ながら本指名はならなかった。台湾で4年間奮闘した彼らの、次のステージでの健闘にエールを送りたい。

プレミア12に向けラージリスト80名選出、11月2日、3日にチェコと強化試合

 今年の野球界最高峰の国際大会、11月のプレミア12にむけた準備も進んでいる。5月末、WBSCは日程を発表、日本、台湾、キューバ、ドミニカ共和国、韓国、オーストラリアが入った予選ラウンドグループBは、11月13日から18日までバンテリンドームナゴヤで行われる日本対オーストラリア戦を除き、台湾・台北市の2球場(台北ドーム、天母球場)で開催される。

 6月3日、CPBLは会議を招集、海外組12名を含むプレミア12台湾代表候補、ラージリスト80名を選抜した。海外組のコンディションについてはCPBLのスコアラーらが視察を行い、人選を進めていくという。7月20日、21日に開催されたCPBLのオールスターゲームは、暫定的な「プレミア12台湾代表」と、CPBL所属の外国人選手も含めた「CPBLオールスター」が対戦、「プレミア12台湾代表」が連勝した。

 台湾代表は、台湾シリーズ終了後の10月末に合宿をスタート、ミニキャンプを行い、11月2日、3日には台北ドームでチェコと強化試合を行う。

 過去最高の観客動員数となっている今シーズン、プレミア12で台湾代表は全試合台北ドームでの開催が決まっており、相当な盛り上がりとなりそうだ。厳しい戦いが予想されるが、多くの台湾のファンの願いは、日本と共に準決勝に進出するという展開だろう。

文・駒田 英(情報は7月31日現在のもの)

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駒田英(パ・リーグ インサイト)

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