「そこがすべてかなと思います」――。
「2018 パーソル クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージ第1戦の福岡ソフトバンク戦で負け投手になった埼玉西武の先発・菊池雄星は試合後、沈痛な表情で勝敗の分かれ目を振り返った。
2対1で迎えた4回表、2死満塁から1番・川島慶三に2点タイムリー2塁打で逆転されると、続く上林誠知、グラシアルにも打たれて一挙5失点。大量失点の引き金となったのが、3連続タイムリーの直前、9番・甲斐拓也にフルカウントから与えた四球だった。
この日の菊池は初回に1点こそ奪われたものの、力強いストレート、緩急をつけるカーブ、チェンジアップと上々の出来で、捕手の炭谷銀仁朗も「1、2、3回は問題なかった」と試合後に話した。
一方、味方打線は3回に3本のヒットで2点を奪って2対1と逆転し、4回表を迎える。ここで一つのアクシデントが勝負の行方を左右し、菊池の第2の球種「スライダー」を巡る駆け引きが試合の流れを大きく変えた。
4回表、先頭打者の5番・デスパイネに対し菊池は真ん中低めの150キロのストレートをセンター前に痛打されたが、中村晃、松田宣浩を抑えて2死とする。だが、8番・西田哲朗に投じた151キロのストレートが真ん中に行くと、ライト前に運ばれた。
「真っすぐがちょっと抜け気味でした」
そう振り返った左腕の指先には、血マメができていた。そして2死1、2塁で9番・甲斐を迎える。
「何とか(1番の川島)慶三さんにつなげればと思いました」
打席に向かう甲斐の脳裏に刻まれていたのが、2回の第1打席で仕留められたスライダーだ。1ボール、2ストライクから真ん中低め、ワンバウンドの球を振らされて三振に倒れている。
「ゾーンを上げて、前の打席のような低めのボール球を振らないように入りました」
甲斐は2球で2ストライクに追い込まれたが、外角に3球続いたストレート、チェンジアップを見極める。
一方、捕手の炭谷は追い込んでからの配球について、「マメの影響もあって、曲がり球(のスライダー)よりチェンジアップ(のサイン)を出そうと思いました」。だが外に落ちる球では決着がつかず、6球目、炭谷はスライダーを要求する。菊池は内角低めに厳しいボールを投じたが、「ファウルでいいと思った」という甲斐が食らいついてファウルにする。そして7球目、外角低めのスライダーがボールになり、四球で2死満塁となった。
菊池にとって、これが最大の誤算だった。
「8、9番にヒットとフォアボール。どっちかで切れていれば(その後の結果も)変わっていたんでしょうけど、そこで切れないまま上位に回して、苦しくなってしまったかなと思います」
2死満塁で迎えた1番・川島に対し、外角へのスライダー、ストレートがいずれも外れて2ボール。ここでバッテリーが選択したのは内角へのスライダーだ。菊池は「2ボールだったので、カウントを取りにいった球でした」と振り返った。
一方、捕手の炭谷は配球の意図をこう語る。
「(川島が)左ピッチャーに対してホームランが出ているのは、今シーズン、去年のシーズンも真っすぐばかりなので」
3球目、そうしてバッテリーがスライダーを選択した結果、真ん中寄りに少し甘く入ったボールを川島は見逃さず、レフト線に逆転タイムリー2塁打を放った。続く2番・上林誠知は外角低めのスライダーを左中間に2点タイムリー3塁打。3番・グラシアルも内角へのスライダーをレフト前タイムリーとし、ソフトバンクは6対2とリードを広げた。
結局、この回の攻防が勝負を分け、初戦は福岡ソフトバンクが10対4で埼玉西武に大勝。ファーストステージから勝ち上がった勢いを持ち込んだ格好だ。
「しっかり初戦で止めるのが僕の役割だったと思うんですけど。悔しいですね」
菊池はそう肩を落とした。決して言い訳をしなかったが、エースの指先にできた血マメが勝負の綾となり、「3回くらいからスライダーの曲がりがバラつき始めた」(炭谷)。対して甲斐は前の打席の反省を活かして四球でつなぎ、1番に抜擢された川島が見事な一打を放った。
シーズン中から激しくしのぎを削ってきた埼玉西武と福岡ソフトバンク。初戦は思わぬ大差がついたものの、見応え満載の一戦だった。
これで1勝分のアドバンテージを持つ埼玉西武に福岡ソフトバンクが並び、イーブンな状況で第2戦を迎える。
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