偉業達成まであと8本。幕張の安打製造機が見せた厳しさ、信念とは

パ・リーグ インサイト マリーンズ球団広報 梶原紀章

2018.8.31(金) 11:36

ヤフオクドームで安打を放ち、偉業達成まであと8本とした福浦和也選手(C)PLM
ヤフオクドームで安打を放ち、偉業達成まであと8本とした福浦和也選手(C)PLM

背番号「9」が放った1992安打目は綺麗な中前打だった。8月29日、ヤフオクドームでのホークス戦。先発の松本裕投手との1打席目は三塁失策で出塁。2打席目はセンター返しを心がけて打席に入った。初球のストレートを悠々と見逃しての2球目。135キロのストレートをはじき返すと打球は中前で弾んだ。

「あまりいい当たりではなかったけどね。(松本は)1打席目に対戦した時に変化球がけっこう、いい感じで落ちていた。試合前からもベンチからはセンター、センターと指示があった中で、センターへの意識を持って打ったね」

これがプロ2220試合出場での1992本目の安打。幕張の安打製造機の異名を持つ男は、センター返しという基本形を意識して、プロ初対戦の相手を2打席目で攻略した。

「初対戦だったからね。ボールの出どころが低くて、ストレートと変化球の見極めが難しい感じがした」

ただチームが放った安打はこの試合、これが最後となった。0対7の2安打完封負け。二ゴロに倒れ、最後の打者となりゲームセット。試合後、表情は厳しいままだった。

「打撃の状態は一時期に比べると悪くはない。いい場面で打ちたいよね。負けたのが悔しい。チームが勝たないとね」

3年前、1900安打の際にも…

思えば通算安打数が1900に到達したあの日も同じことを言っていた。少し霧がかった杜の都・仙台。2015年9月8日のイーグルス戦の初回。2点を先制し打席が回ってきた。1死1塁、相手先発・則本昴大の内角のストレートを追っつけるように拾い上げた。打球は左前に落ちた。福浦らしい一打。このヒットで通算安打は1900となった。節目の一打でも大ベテランは顔色一つ変えなかった。ベンチに戻ってきてチームメートから祝福されたが表情を緩める事は一切なかった。

「それよりもチームの勝利。記録を振り返ったり、噛みしめたりするのは今ではない」

試合はまだ初回。個人記録に関して今、喜ぶべき時ではない。あくまでゲームに集中して試合後に笑えばいい。この男の信念を感じた瞬間だった。そして試合は緊張感を維持したマリーンズが5対1で勝利した。

プロ25年。この世界の酸いも甘い部分も知る大ベテランは「チームの勝利」をどこまでも強調し続けてきた。自身の大記録が一歩ずつ近付くにも関わらず、まったく喜ぶ素振りはなく、試合の事に集中している。そしてそれこそが、背番号「9」の徹してきたプロとしての強いポリシーだ。

後輩を想う気持ち。そして厳しさ、信念が感じられた瞬間

福浦の勝利への信念を強く感じられた場面が2015年にもう一つあった。8月30日のバファローズ戦(現ZOZOマリンスタジアム)。5対2と3点リードの6回の守り。無死1,2塁。相手打者がバントをした打球を捕手の田村龍弘捕手がつかみ、積極的に三塁へスロー。これが左に逸れ、あわや暴投だったが、三塁手がうまく体を伸ばし捕球したことで間一髪アウトとなった。この直後だった。田村が表情を一瞬、緩めたのを、一塁を守っていたベテランは見逃さなかった。鬼の形相を見せ、喝を入れた。

「一生懸命やって、エラーをすることもあるし、結果が出ない事もある。それは仕方がないこと。ただ、あの時はニヤッとしていたのが見えた。プロは周りから見られている。どんな場面でも、試合中にあの表情はしてはいけない。ちょっとしたことかもしれないけど、プロはそういう油断はダメ。一つアウトにしたとはいえピンチはなお続いていた。そういうところを付け込まれたりする世界」

この試合は5対4で勝利した。試合後のロッカー。福浦と田村が二人で話し込む姿が見られた。試合中の鬼気迫る表情から一変、今度は優しく話しかけていた。普段から打撃やウェートのアドバイスをするなど、誰よりも田村を可愛がってきた。期待をしているからこそ、分かってほしかった。自身が培ってきたプロの哲学、厳しさを切々と教えているように見えた。

そんなプロフェッショナルな男の2000本安打がいよいよ近付いている。もう間もなくマリーンズファンの誰もが待ち焦がれた歴史的な瞬間が現実の事として訪れる。それでもやはり本人はブレることがない。

「ファンの方の想いは痛いほど伝わってくる。だけど、オレはチームの勝利のために打席に立つだけ。10本を切ったとかということを意識する事もなければ、感慨もないよ」

いつも冷静。そして黙々とチームの勝利のために、何ができるかだけを考え、日々を過ごしている。だから自身の個人記録を、それがたとえ大偉業へのカウントダウンであっても振り返る事も、感慨に浸る事もしない。そんな献身的な背中にこそ、ファンも関係者も後輩たちも、誰もが強く偉業達成を願う。シーズンは残り31試合。2000本安打まで、あと8本。チームの勝利と共に安打を重ねる。

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パ・リーグ インサイト マリーンズ球団広報 梶原紀章

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