今季、台湾プロ野球(CPBL)は、公式戦(全360試合)で史上初の200万人台となる276万6386人、1試合平均でも初の7000人台となる7684人をマークするなど、史上最多の観客動員数を記録した。ファン待望の室内球場「台北ドーム」はフィーバーとなり、新たな客層を開拓。観客動員記録を次々に更新し、台湾プロ野球を新たなステージへ進ませたといえる。
同時に、今季「第6の球団」として一軍公式戦に参入した台鋼ホークスは、新球団でありながら存在感を発揮。リーグの盛り上げに大きく貢献した。一軍初年度のシーズンを終えた台鋼ホークス。今回はその敏腕ぶりで、ファンから『三国志演義』の中心人物、劉備の尊称「劉皇叔」と呼ばれている、劉東洋GMのインタビューをお送りしよう。
一昨年3月、台鋼ホークスの初代GMに就任した劉東洋GMは、台湾プロ野球を運営するCPBLの職員出身だ。日本留学経験をもち、日本語が流暢な劉GMは、CPBL時代、月刊『職業棒球』雑誌の記者や編集長のほか、海外球界との折衝を行う国際グループのグループ長、PRを行う宣伝推進部の主任などを歴任。『職業棒球』雑誌では、長期間にわたりNPBに関するコラムを担当した。長らくCPBLの日本担当窓口として活躍し、日本球界及びメディア関係者からは「東洋(とうよう)さん」と呼ばれ、その信頼は厚い。
幅広い人脈をもつ上、NPBの球団経営やマーケティングについても明るいことから、第6の球団をリーグをあげて支えていくと表明していたCPBL蔡其昌コミッショナーの推薦もあり、新球団のGMに就任した。
就任の段階で、日本スタイルを取り入れたチームづくりをすることを明言していた劉GMは、多くの日本人指導者を招へい。日本人選手、さらにはNPBでのプレー経験をもつ選手も多数獲得した。さらに、これまでCPBLでは少なかったトレードを決行し、積極的にチーム力の底上げを行った。今季、台湾人選手の投打の主力となった左腕の江承諺、キャプテンの王柏融は、台鋼側から動かなければ獲得できなかった選手だ。
興行面でも、特に本拠地のある台湾南部、高雄のファンを重視したプロモーションで「高雄っ子」の心をつかんだ。公式動画や企画、イベントも、ユニークなものから感動的なものまで幅広いが、それぞれ、細かい心配りを感じる質の高いものとなっている。
韓国のトップチア、アン・ジヒョン率いる球団公式チアリーダー「Wing Stars」や応援団の盛り上げもあり、本拠地、澄清湖球場の平均観客動員数は、常打ち球場で3位となる平均6824人を記録した。劉GMに、今季の振り返りと手応え、今後の目標などを伺った。
――一軍初年度のシーズンは、他チームと選手層の差もあり、年間成績は49勝70敗1引き分けで勝率.412、1位の中信兄弟と20.5ゲーム差の最下位、6位に終わりましたが、後期シーズンは勝率を.441、5位に引き上げました。個人成績では、スティーブン・モヤが30HR、99打点の二冠王で年間MVPの候補になったほか、新人王の候補3人は、6勝の陳柏清、規定打席に達した王博玄、曾子祐といずれも台鋼ホークスの選手。つまりチームから新人王が生まれる事が決まりました(※11月4日の年間表彰式で曾子祐が受賞)。現在は秋季キャンプに入りましたが、今季を振り返っていかがですか
劉東洋GM(以下、劉):ゼロからの新球団ですし、1年目の今年、すぐには勝てないとわかっていました。ただ、ファンの方々に「勝てないかもしれないけど、他球団に対抗できる力を持っている」と、そして「負けても一緒にこの悔しさを味わいたい」と感じてもらうこと、この事がとても大事だと思っていました。エクスパンションドラフトルールの活用やトレードの敢行なども、その「対抗」のための力を確保するためでした。
私は選手たちに、諦めずに一生懸命やりぬくこと、日々進歩していく姿を見せることから積み重ねていこうと、さらには、ファンに期待を持ってもらえるような、感動してもらえる戦いをみせようと、常々伝えていました。
その意味では、勝率を前期シーズンの.383から、後期シーズンには.441に引き上げ、年間勝率4割の数字を残すことができ、一年目のシーズンとして最低限の目標を達成できたこと、この点は大きいと思います。
一番課題だったエラー数も、前期の71(リーグ最下位)から、後期は43(リーグ4位)まで減りました。守備の乱れでため息に包まれていた球場の雰囲気が、後半戦に入ってからは温かい声援に変わったと、肌で感じています。
もう一つの収穫は若手選手の成長ですね。新人王の候補3人以外に、中継ぎとして14ホールドを挙げた黄群も、受賞してもおかしくない成績を残しました。新人選手を育てることは今年最大の目標でしたので、台鋼の新人選手たちの活躍は本当に嬉しいものです。
――球団運営は難しいといわれた高雄、そして澄清湖球場を本拠地としているなか、一軍初年度、観客動員は健闘しました。球団運営の戦略方針を教えていただけますか
劉:他球団と同じ方法では絶対生き残れないと思い、斬新な、別の戦略でいかなければいけない、と考えていました。それは、トレードを含めた選手獲得もそうですし、プロモーションもそうですね。「独自路線なんて偉そうに」と言われるかもしれませんが、私はいくら叩かれても別にいいのです。でも、新球団が生き残るにはそれしかないのです。結果からすれば、今年の観客動員数は、特に澄清湖球場で安定しているので正解だったといえます。ただ、来年以降、ここからどう伸ばしていくのか、もっといいチームにしていくためには、もう一回、戦略を考えていかないといけません。職員には「これで満足してはいけない」と言い聞かせています。
――地元、高雄のファンの反応はいかがでしたか
劉:「高雄に台鋼ホークスができる前は、わざわざ台北、台中、台南に赴いて、地元球団ではないチームを応援していた。今は、地元にチームができて嬉しい」とファンの方から、直接感謝の言葉をかけていただいた事がありました。ファンの皆さんに、こうした感動を与えることができて、とてもやりがいを感じています。
――2リーグ分裂時代に存在したもう一つのプロリーグTMLのチームで、高雄、屏東を本拠地とした「雷公(FALA)」の復刻風ユニフォームが大変話題になりました。また、このユニフォームを含め、胸に「TAKAO」と表記されているユニフォームが複数ありますが、どんな意味合いがあるのでしょうか
劉:うちは全くの新球団で歴史がないですから、統一や兄弟のように、オールドファン向けの企画はできません。ただ、高雄の野球ファンにとっては、TMLの雷公であったり、La Newベアーズ(楽天モンキーズの前身)であったり、過去にも高雄に地元チームはあったわけです。そうしたチームであれば、我々にもこうした企画は可能ではないかと考え、今回、TML雷公の復刻デーを企画しました。
ユニフォームの胸の「TAKAO」表記は、「我々は高雄の球団であり、高雄を代表してプロ野球の世界で戦っている」というアピールですね。その思いが、ファンの方たちにはもちろん、選手たちにも浸透してほしいという思いがあります。高雄の表記が、台湾華語表記の「KAO HSIUNG(カオション)」ではなく「TAKAO」なのは、「TAKAO」の方がかっこいいからです。親しみやすいですしね。
――確かに、高雄という地名は、元々、マカタオ族が名付けた時代から「TAKAO」の音に近く、時を経て台湾語で「打狗」、そして日本語で「高雄」と表記が変わり、台湾華語読みの「カオション」になった経緯があります。チームのマスコットも「TAKAO(鷹雄)」くんですね
劉:そうですね。そして、もう一つは「TAKA」は「鷹」と同じ発音である上、「鷹雄」は「TAKAO」とも読めますが、台湾華語読みだと「インション」で「英雄」と同じ音。つまり、「我々はヒーローになる」という意味合いも込められています。思いついた時、「高雄のチームとして、これ以上のマスコットのネーミングはない」と思って、すぐ決めました。
――台北ドームで中信兄弟と対戦した際、台湾野球界の発展に貢献し、両チームの指導者とゆかりのあった故・榊原良行コーチのご家族を招待して始球式を行いました。また、怪我で無念の退団となった笠原祥太郎投手にはお別れ動画を作成。同じく怪我をした小野寺賢人投手については、登録抹消後、球場でファンとの交流会を実施しました。さらに、元NPBの呉念庭選手や王柏融選手にクローズアップした動画では、日本のファン向けに日本語字幕をつけています。歴史や選手へのリスペクトを感じる企画や、ファン目線に立ったハートフルな企画が目立ちます。その点については、どのような意図がありますか
劉:海外の方が、台湾人や台湾の魅力は何かという話になると、「人情味」とか「人の温かさ」を挙げる方が多いので、台湾、特に高雄のいいところを、野球を通じて伝えられたらいいな、という思いがあります。球団の運営については、色々な評価の仕方はあると思いますが、私がファンの方々から言われて何よりも嬉しいのは、台湾華語でいう、「用心(心を込めて取り組んでいる)」という言葉ですね。
――台湾球界復帰初年度で今季はキャプテンをつとめた王柏融選手は打率.280、6HRながら、OPSではリーグ12位と、最低限の働きをみせました。ドラフト1位指名、途中加入の呉念庭選手はここからという8月末、怪我で無念の離脱となりましたが、2人のチームに対する影響力について、どのようにお考えですか
劉:新球団の発足段階において、看板選手は絶対必要ですからね。NPB経験を持ち、また代表チーム中心選手の二人の存在は、知名度の低い新人が大部分のうちにとって、とても大きいです。彼らの影響でチーム全体の注目度が高まり、それによって若手選手の露出度も高くなりました。興行面の戦略として、そうした点の相乗効果は期待していたとおりでした。今シーズン2人はともに怪我で、満足するシーズンを送ることはできませんでしたが、来年こそ、魔鷹(モヤ)との3人による、真の「元パ・リーグ勢最強クリーンアップ」が実現することが楽しみです。ファンも期待していると思います。
――看板選手や、成長著しい若手のホープに加え、前所属球団では十分にチャンスをつかめず、拡張ドラフトやトレードで移籍してきた左腕の江承諺や捕手の張肇元ら中堅選手も頑張りました。また、ドラフトをみますと、異色の経歴の選手や、過去幾度も指名漏れした選手の指名獲得も少なくありませんが、この点について独自の戦略はあるのでしょうか
劉:私は「環境が変われば、人は変わることができる」という信念をもっています。もう一つは、人間ってやっぱりモチベーションが大事なんですよね。もしかしたら言い訳になるかもしれないですが、「いくら頑張っても使われない」と思うと、モチベーションはなかなか上がらないじゃないですか。でも、環境が変わって、頑張ればチャンスがあるぞ、と思うことができれば、人って変われるし、頑張れるんですよ。私は、台湾球界には「第二の江承諺」になれる選手が、まだまだいると思っていますよ。
――チャンスをつかんだという点では、独立リーグ出身の小野寺賢人投手が活躍しました
劉:小野寺(賢人)くんが代表的な例だと思うのですが、日本には技術が高く、特にコントロールがいい投手が多いですよね。横田(久則一軍投手統括)コーチと話をしたなかで、多少、獲得のリスクはあるかもしれないけれど、「これくらいの投球技術、コントロールがあれば、台湾球界でも、ある程度通用するだろう」と感じたんです。それだったら、他球団のように、エージェントの紹介でアメリカや中南米から獲得するだけではなく、横田コーチのパイプや私の人脈もあるなか、こうした獲得方法もあるのではないか、と考えました。
小野寺くんは、勝敗だけみれば2勝4敗でしたが、6試合連続のクオリティースタートをみせ、防御率は2.31、WHIPも0.97ですよね。彼が投げた前期シーズン、打線が打てなかったので、後期だったら5勝くらいしていたかなと。グラウンド内でのパフォーマンスはもちろんなのですが、グラウンド外の彼のキャラクターもあって、ファンに愛される外国人選手になりつつあるので、あらためて、獲ってよかったなと思っています。
――どんなチーム像を理想とされていますか。
劉:全ての人に好かれるチームづくりは難しいですが、活力があり、フレッシュで、温かみのある、そんな魅力あるチームをつくりたいと思っています。チーム自体の雰囲気や環境が、いい影響を与えているのか、台鋼は、親近感のある選手やチアリーダーが多い、とよく言われます。チームの良い雰囲気が選手たちを変える、そんな優れた「チーム文化」をつくりたいと思っています。
文:駒田 英
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