「全員野球」でチーム史上最多の年間70勝、台湾シリーズ進出も決める
全6チームが前後期60試合ずつ戦う台湾プロ野球(CPBL)。安定した先発投手陣と強力打線で統一セブンイレブン・ライオンズが制した前期シーズンに続き、7月5日からは10月11日までは後期シーズンが行われた。
後期開幕から1カ月あまりは、一時3ゲーム差以内に全6チームがひしめくなど団子状態が続いたが、前期3位の中信兄弟は8月14日に首位に再浮上すると、そこから20試合を16勝4敗と独走、2位以下を引き離し、9月11日にまず年間1位のマジックナンバー15を、14日には後期シーズンの優勝マジック12を点灯させた。
そして、9月29日、後期優勝マジックを1として迎えた中信兄弟は、ビジターで楽天モンキーズに8-5で勝利、ライトスタンドを埋めた熱心なファンが黄色の紙テープを投げ祝福した。
中信兄弟は2022年後期以来、2年ぶり19度目の半期優勝、今季からチームを率いる平野恵一監督は、半期優勝を果たした6人目の日本人監督となった。
台湾プロ野球では一昨年から、毎年プレーオフが実施されている。今季のように前後期の優勝チームが異なる場合、年間勝率が高い半期優勝チームが直接台湾シリーズに進出、一方、年間勝率で下回った半期優勝チームは、1勝のアドバンテージをもって、前後期共に優勝を逃した4チーム中、勝率が最も高いチームと、台湾シリーズ進出をかけプレーオフを戦う。
今季から古久保健二監督が率いる楽天モンキーズは、中信兄弟に敗れた9月29日、年間勝率1位争いから脱落したものの、同日、年間勝率3位は確定させ、プレーオフ進出を決めた。
そして、ここからは後期優勝を決めた中信兄弟と、前期優勝の統一との年間勝率1位争いとなった。
優位に立つ中信兄弟は、マジック1としてから台風来襲による「水入り」もあったが、10月7日、本拠地・台中インターコンチネンタル球場で行われた台鋼ホークス戦、7回裏、0対3から同点に追いつくと、9回裏、入団以来14試合無失点を続けていた吉田一将から三連打でサヨナラ勝ち。本拠地最終戦で見事な逆転勝利、自力で年間1位を達成し、チーム16度目の台湾シリーズ進出を決めた。
9月29日の後期優勝の際はビジターということもあり、喜び方が控えめだったナインも、この日は思い切り歓喜に酔いしれた。
あいさつに立った平野監督は「年間1位おめでとうございます!」と切り出すと、「皆さんが台湾で一番のファンです。本当に毎試合、毎試合、熱いご声援ありがとうございます、皆さんのおかげです。去年、(年間)4位、悔しかったですよね。今年は1番ですよ!」と絶叫、今季、史上初めて100万人突破と、リーグ断トツの本拠地観客動員数を記録した熱狂的ファンのサポートに感謝した。
そして、関係各位へのお礼、選手たちへねぎらいの言葉をかけた後、再度ファンヘ向け「まだ、台湾シリーズがあります。本当のナンバーワンになるために、本当に、本当に、熱い声援をよろしくお願いします」と選挙運動さながらの猛アピール、ファンは爆笑しながら、喝采を送った。
中信兄弟はさらに、若手主体で臨んだ10月9日の楽天モンキーズ戦でも、延長タイブレーク11回の末に5対4で勝利、シーズン最終戦を飾った。結局、後期は38勝22敗、貯金16で勝率.633の好成績、年間120試合でも70勝(50敗)、勝率.583という成績をあげた。年間70勝は、林威助監督時代の2022年の69勝を上回り、球団歴代1位となった。
平野監督は9日の試合前、勝率.496、5チーム中4位に終わった昨季との違いについて、春季キャンプの時に掲げた「3連敗以上しない。一週間5試合を3勝2敗で戦う」という目標をしっかり達成できたことを挙げ、前期は3度、3連敗があったが、後期は最大でも2連敗だったことを問われると、「粘りをみせてくれた」と選手を称賛、勝率5割から戦力引き上げに奮闘した、投打のコーチ陣にも感謝した。
中信兄弟は人気チームゆえ、采配や選手起用にも厳しい声が飛ぶ。平野監督自身、5ゲーム差の3位に終わった前期は、戦術面、特にバントの多用についてファンから批判を受けたが、こうした声に対しては自らメディアを通じて説明。後期に入り、選手が進塁打を打てるようになると、バントは減少、エンドランや盗塁を増やすなど戦術を調整し、打順も柔軟に組み替えた。
「平野イズム」浸透で結果が出てくると、選手の成長を第一に考える、厳しくも愛情あふれる指導への評価も上昇。ユニークでコミカルな一面も広く知られるようになり、「平野(ピンイエ)」人気は高まっている。
後期シーズン優勝の立役者たちも、数人挙げよう。投手陣は、台湾人の主力先発投手が怪我や不振に苦しんだなか、外国人投手が計83試合で先発と、「助っ人」頼みのローテーションとなった。前期は家族の不幸もあり低調だった、2020年、2021年のシーズンMVP、ホセ・デポーラが後期だけで7勝(通算10勝)をあげる活躍。また、ブルペン陣がピリッとしないなか、王凱程が9月下旬に離脱するまで43試合に登板。ベテランの黄恩賜も、8月下旬に約2年ぶりに一軍登板を果たし19試合に登板するなど、近年怪我に泣いていた「復活組」の貢献が光った。
打撃陣では、主力が期待通りの働きを果たした上、前期ブレイクした曽頌恩が終盤まで息切れせず、チーム1位、リーグ5位の打率.304、チーム2位の10HRをマーク。さらに、入団以来、潜在能力を高く評価されていた宋晟睿が課題の打撃で成長をみせ、終盤はスタメンに定着、54試合でチーム2位の17盗塁と、足でも貢献した。
なお、今シーズンの中信兄弟は、投打のタイトルホルダーがいなかったが、これは前身の兄弟エレファンツ時代を含め35年間の歴史で3回目のこと。これまでの2回(1991年、1998年)は、いずれも年間最下位に終わった年であり、年間1位の年としては異例だ。ただ、この点も平野監督が掲げた「全員野球」による勝利の証明といえそうだ。
統一と、楽天モンキーズによるプレーオフは、統一が1勝のアドバンテージをもった形で、10月12日から、4戦3勝制で開催される。昨シーズンも、プレーオフは同じカードとなり、前期優勝も後期失速した統一が、勢いを取り戻せず楽天に3連敗を喫した。今年、プレーオフを制し、10月19日から始まる中信兄弟との台湾シリーズに進出するのはどちらのチームか、注目される。
※情報は10月11日時点のもの
文・駒田英
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