環境の変化をきっかけに、本来の打撃を取り戻せるか
埼玉西武の若林楽人選手と巨人の松原聖弥選手のトレードが、6月25日に成立した。松原選手は2021年に巨人で外野のレギュラーを務めた実績を持つだけに、環境の変化をきっかけにして、本来の打撃を取り戻すことができるかに注目が集まっている。
今回は、松原選手の球歴に加えて、セイバーメトリクスで用いられる各種の指標に基づく、選手としての特徴について紹介。不振にあえぐチームを救う存在として期待される新戦力が持つ高いポテンシャルについて、より深く掘り下げていきたい(記録は7月3日の試合終了時点)。
イースタンの年間安打記録を樹立し、一軍でもレギュラーとして活躍
松原選手がこれまでに記録した、年度別成績は下記の通り。
松原選手は明星大学から、2016年の育成選手ドラフト5位で巨人に入団。プロ2年目の2018年には二軍で117試合に出場し、打率.316、出塁率.373、24盗塁とハイレベルな成績を記録。シーズン134安打というイースタンリーグ新記録を樹立し、7月には支配下登録を勝ち取るなど、今後に向けて大きな期待を抱かせるシーズンを送った。
翌2019年は打率.287、出塁率.349と確実性はやや低下したが、2018年は0本だった本塁打を5本記録し、長打力の向上を示した。続く2020年の7月に念願の一軍デビューを飾ると、そのまま外野の主力として活躍。86試合で打率.263、3本塁打、出塁率.330、12盗塁と一定の成績を残し、ブレイクの足がかりを作った。
そして、2021年には135試合に出場して自身初の規定打席に到達し、打率.274、12本塁打、15盗塁、出塁率.333、OPS.756といずれもキャリアハイの数字を記録。打順も1番や2番といった上位打線を担ってチャンスメーカーの役割を果たし、外野のレギュラーとして走攻守にわたって大いに躍動した。
このまま一気に主力の座に定着するかに思われたが、翌2022年は打率.113と極度の不振に陥り、前年の半数以下となる50試合の出場にとどまった。続く2023年は12打数無安打、2024年も9試合で打率.154とその後も結果を残せず、苦境を脱するきっかけをつかめずにいた。
そんななか埼玉西武へトレードで移籍し、新天地では移籍直後からトップバッターを任されている。ヒット性の当たりを放ちながらも好守に阻まれるシーンが続くなどまだ本領を発揮しきれてはいないものの、与えられたチャンスを生かして復活を果たせるか。
二軍では盗塁成功率に課題を残していたが、一軍昇格後は劇的に改善
次に、松原選手がこれまで記録してきた、年度別の各種指標について見ていきたい。
巨人で主力として活躍した2020年と2021年の2シーズンは、ともに出塁率.330台という数字を記録していた。打率と出塁率の差を示す「IsoD」は2年続けて.060台と高くはなかったものの、チャンスメーカーとして一定以上の資質を示している。
さらに、長打率から単打の影響を取り除いた、真の長打力を示す指標とされる「ISO」に関しても、2021年は.148とまずまずの数字を残していた。一定の長打力と確実性を兼ね備えた存在として、上位打線を務めるに相応しい活躍を見せていたといえよう。
チャンスメーカーという観点で言うと、盗塁成功率も重要な指針の一つとなってくる。松原選手は2018年に二軍で24盗塁を決めた一方で20盗塁死を喫し、盗塁成功率は.545。翌2019年は二軍で17盗塁、20盗塁死で盗塁成功率.459と、盗塁の技術に大きな課題を残していた。
しかし、2020年は一軍で12盗塁を決めて盗塁死はわずか2つにとどめ、盗塁成功率.857と非常に高い数字を残した。続く2021年は盗塁成功率.682と前年に比べて数字を落としたものの、依然として一軍デビューを果たす前の時期に比べて優秀な値を記録していた。
通算の盗塁成功率も.750と一定以上の数字であり、二軍における研鑽と失敗を経て、盗塁の面でも大きな成長を示してみせた。今季の埼玉西武はリーグ4位の39盗塁と走塁面にも課題が残るだけに、機動力の面でも松原選手が得点力向上に貢献できる余地はあるはずだ。
近年の松原選手の不振には、運に恵まれなかった側面もあった?
松原選手が不振に陥った理由の一端は、ホームランを除くインプレーになった打球が安打になった割合を示す「BABIP」にも示されている。この指標は選手の能力以上に運に左右される部分が大きいとされており、一般的な基準値は.300と考えられている。
松原選手のような俊足の左打者は打球が内野安打になる可能性が高く、それによってBABIPも上昇しやすい傾向にある。実際、松原選手は2020年に.340、2021年に.329といずれも基準値を大きく上回るBABIPを記録しており、足を生かして安打数を上積みしていたことがわかる。
しかし、2022年のBABIPは.160と基準値を遥かに下回る数字まで下落し、2023年のBABIPは.000と、前に飛んだ打球が1度も安打にならない事態に陥った。2024年の移籍前におけるBABIPも.250と基準値よりも低い値であり、2021年を境に運に恵まれなくなりつつあることがうかがえる。
そして、埼玉西武へ移籍後のBABIPも.125と非常に低い数字であり、相手の好守に安打を阻まれるケースが多くなっていることが、指標においても示されているといえよう。ただし、これから松原選手のBABIPが再び上向くことになれば、2020年や2021年に残したような成績を残す可能性も十二分にある、という考え方もできるはずだ。
移籍をきっかけにして再び足を生かしたプレーを復活させ、新天地においてチャンスメーカーとしての役割を全うすることができるか。松原選手がオフェンス面で本来のプレーを取り戻せるかどうかは、得点力不足に苦しむチームにとっても大きな意義を持ちそうだ。
確固たるレギュラーが不在の外野陣において、自らの存在価値を示せるか
秋山翔吾選手が退団して以降の埼玉西武では、年間を通じて外野の定位置を確保した日本人選手が不在の状況が続いている。期待された若手が伸び悩むケースも増えつつあるだけに、他球団でレギュラーを務めた実績のある松原選手の加入が、外野争いにおけるカンフル剤として機能することにも期待を寄せたいところだ。
また、松原選手はチャンスメーカーとしての実績に加えて長打力と盗塁技術も兼ね備え、現在の埼玉西武打線に不足する要素を補える存在でもある。俊足と強肩を生かした外野守備も含めて、復調を果たせばチームにとって大きな補強となる可能性は大いにあるといえよう。
運にも恵まれずに低打率にあえいだ2年半の苦闘を経て、松原選手は再びキャリアを軌道に乗せることができるか。ここから打率を向上させて最下位に沈むチームの起爆剤となれるか、俊足強肩の外野手が見せる今後のプレーには要注目だ。
文・望月遼太
関連リンク
・【松原聖弥が入団会見】きょうのパ・リーグ【6月25日】
・松原聖弥が先制タイムリー! 移籍後初打点をマーク
・即戦力ルーキー・武内夏暉の精密コントロールの秘密に迫る
・渡辺久信監督代行の実績と、教え子たちの顔ぶれ
・ベルーナドームのサマーグルメ「ライオンズ焼きパフェ」登場
記事提供: