MLBのトレードが活発するオールスターを終えた頃の時期、選手の価値が株価のように変動して明暗が別れた各チームが売り手または買い手となって選手達を見定めていく。
こんなビジネスの匂いがプンプンするメジャーリーグのトレード事情だが、そのイメージだけをお持ちのファンも多いかもしれない。確かに多くはビジネスという言葉で片付けられて、選手やその家族は巻き込まれる形で今日明日にでも住む場所が変わってしまうことが日常茶飯事だ。
その実態を選手達も理解しており、これはビジネスだから仕方がないと思っている。実際にこういう状況を作ってしまったのは自分たちの責任だという発言は良く耳にする。
銀行員でもサラリーマンでも“転勤"という言葉で異動を命じられる事があるため、そう特別な事ではないかもしれないが、メジャーリーガー達はその移籍を常に噂され、揶揄され、常日頃世間から評価を受け続けて審判が下されるような形となっている。そういう意味ではやはり精神的なタフさがないとやっていく事ができない職業だ。
そんなメジャーリーガー達は常にビジネスの駒として考えられているのかと言えば、必ずしもそういうわけではない。中には人情味溢れるトレードもいくつかあった。ファンの方々なら思い出深いトレードが多数あるかもしれないが、ここでも紹介していきたい。
まずは2017年シーズンのオフにセントルイス・カーディナルズからオークランド・アスレッチクスにトレードされたスティーブン・ピスコッティの話だ。カーディナルズが新たに外野手を獲得することも公になり、その事が影響したことが予測されるが、溢れた外野陣のうちの一人だったピスコッティのトレードを敢行したのだ。
そのトレード相手はオークランド・アスレチックス。実はピスコッティの母親はALSを患い、母が住むサンフランシスコ近辺の場所に近いオークランドに移籍させる事で合意した。できるだけ多くの時間を母と一緒に過ごしたいという選手の思いを叶える形で両チームが移籍を実現させた。
残念ながらピスコッティの母は5月に亡くなってしまったが、ピスコッティはトレードが決定し母親の近くにいられる事を“プライスレス"と表現した。その思いは、一見ビジネスと思われるメジャーリーグのトレード市場でも人間味溢れる利益以上の付加価値が生み出された。
その他のケースは…
もう1つ最近のトレードで印象深かったのは、タンパベイ・レイズからアトランタ・ブレーブスへ移籍したジョニー・ベンターズの話だ。2010年にブレーブスでメジャーデビューを果たし、3シーズンに渡ってブルペンの一員として活躍していたベンターズは2013年にトミージョン手術が必要という診断を受けた。翌年にもう一度同じ手術を必要とし、実に5年以上もメジャーリーグの舞台から遠ざかっていた33歳のベンターズは今季復活を果たした。タンパベイ・レイズの一員として22試合に登板。だがチームはプレーオフ争いからも遠ざかり、このトレード市場では売り手となっていた。そこで買い手であるアトランタ・ブレーブスはブルペンに加える新たな戦力として左腕のベンターズを獲得した。
ブレーブスの一員としてメジャーのマウンドに立ったのは2012年10月5日が最後だったが、子供たちも地元の学校へ通うなど、ベンターズの家族はアトランタの街を離れる事なく住み続けていた。そしてメジャーリーグでのキャリアをスタートした場所に彼はまた戻る事となった。
この例に関しては、人情に浸るようなトレードというだけではなく、ブレーブスもプレーオフ進出へ向けた貴重な戦力として獲得を決定。どんな結末となるかは分からないが、メジャーリーグにもこの二例のようにチームが選手の事を思って実行したトレードがいくつも存在する。
プロ野球では今季も最後の最後に“駆け込みトレード"が何件か発生した。所属球団で結果を残せなかった事が放出される要因である事が第一かもしれないが、新天地で活躍を願うチームの親心もあるだろう。表上はビジネスとして巻き起こるトレードの数々。選手に対しても、家族に対しても冷徹なものである印象をお持ちの方もいるだろう。だが、今回挙げたような人情味溢れる移籍も存在するという事を知り、今後巻き起こるトレードの数々を一味違った視点で楽しむ事もオススメしたい。
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