速いは勝利! 内野安打一塁到達時間TOP5

パ・リーグインサイト キビタキビオ

福岡ソフトバンクホークス・周東佑京選手(C)パーソル パ・リーグTV
福岡ソフトバンクホークス・周東佑京選手(C)パーソル パ・リーグTV

パ・リーグで今もっとも一塁ベースに近い韋駄天は誰か?

 2024年のプロ野球が開幕してから、2カ月が過ぎようとしている。今シーズンのパ・リーグは、ここ3年、優勝から遠のいている福岡ソフトバンクホークスが好調で首位を独走しはじめているが、ストップウォッチによる計測タイムの争いはどうなっているだろうか?

 今回は、開幕から4月30日までに記録された内野安打における、打者が打ってから一塁ベースに到達するタイムのTOP5を紹介していこう。

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ランキング初登場の小郷裕哉選手(東北楽天)が5位

 まず、第5位にランクインしたのは、東北楽天・小郷裕哉選手。昨年、120試合に出場し、ほぼレギュラーに定着した小郷選手は、今年も走攻守三拍子揃った身体能力の高さを発揮し、特に走でいうと福岡ソフトバンク・周東佑京選手に次ぐ13盗塁(5月27日現在)と、ハツラツとプレーをしている。それが、3秒84という好タイムに表れた格好だ。

 このときの走りについては、小郷選手が打ってから走り出すまでの形に注目してほしい。千葉ロッテ・小島和哉投手の変化球によって体勢は崩されてしまったが、スイングをフィニッシュするかどうかのところで、すでに一塁ベース方向へ1歩目を踏み出していることがわかる。

 左打者はスイングによる体重移動で体が一塁ベース方向へ流れがちではあるが、それをスムーズに全力疾走につなげていくには、最初の1歩目から全力で走る意識が擦り込まれている必要がある。裏を返すと、小郷選手はそうした姿勢を持ち合わせているということだ。

 シーズンを通してこの姿勢を維持できれば、小郷選手の内野安打はますます増えて、安定した打率を残すことに寄与するだろう。そうなることを期待したい。

3位と4位は周東佑京選手(福岡ソフトバンク)の独擅場となる

 続いて4位は、3秒81というタイム。このカテゴリーではもはや常連の周東選手がランクインした。

 低めの変化球に対して左手を伸ばすようにして引っ掛けた打ち方は、決して理想的なスイングとはいえない。だが、これだけ球足の遅いゴロが一二塁間へ転がると、守備側としては後方のセカンドが全力疾走で前進してもアウトにするのは難しい。そのため、ファーストが一塁ベースを離れ、打球のライン上に割って入るようにして捕球したのはやむを得ない。

 すると、今度は一塁ベースカバーに走るピッチャーと周東選手との競争になる。しかし、ピッチャーはファーストからの送球を背後から受けつつ、踏むべき一塁ベースを足で探らねばならず、どうしても遅れがちになってしまう。

 すでにトップスピードに乗っている周東選手にとって、それはしめたもの。ピッチャーを追い抜くような格好でセーフになってしまった。打ち取ったはずなのに一塁に生きてしまう周東選手の足は、対戦相手にとっては脅威でしかない。

 そして、わずか0秒01差の3秒80で3位に入ったタイムも、周東選手によるものだった! これも一二塁間のゴロで、今度はすでに説明済みの“セカンドが捕球したケース”である。セカンドの外崎修汰選手が、一塁ベースカバーに入った隅田知一郎投手へトスするも、4位のときと同じく、周東選手に追い抜かれる形でセーフになった。

2位に入った源田壮亮選手(埼玉西武)の3秒70台のタイムには一抹の不安も

 2位は、周東選手が台頭する以前からこのランキングの常連だった埼玉西武・源田壮亮選手が、3秒77という素晴らしいタイムで食い込んできた。

 落ちる変化球に対して、手首をこねずになでるような形で打球方向を制御し、ピッチャーの右側を抜いたゆるいゴロは、ショートが回り込んで捕球していてはとても間に合わない。泥臭い内野安打にして見事出塁した。

 ただ、3秒77というタイムを確認して、個人的には少し違和感を得たところがあった。昨年までの源田選手は「良いタイムでも3秒80台」という印象があったからだ。

「数字だけみると進化しているではないか。それが何か?」と思うのは至極当然だが、 実をいうと、源田選手はプロ入り前の社会人・トヨタ自動車時代には3秒70台の高速タイムを出していたのだ。しかし、スイングする際から体の重心が先走って一塁方向へ流れてしまう「走り打ち」の傾向があり、プロに入ってすぐに当時の辻発彦監督から指導され、頭を残してスイングする形に修正した過去があったことを思い出したのである。

 いくら内野安打の確率が高くなっても、走り打ちの度が過ぎれば、当て逃げ傾向になって本来の打撃がおぼつかなくなる。新人時代、レギュラーに定着するために頭を残したスイングを固めて打撃向上を目指した源田選手は、一塁到達タイムがわずかに遅くなったものの安定した成績を残すようになり、日本を代表するショートになっていった。

 その経緯があるだけに、いくら好タイムでも「スイングが崩れかけているのではないか?」と、つい勘ぐってしまった。

 もちろん、これはあくまで一塁到達タイムというたった一つの要素から素人判断で勝手に推測しているにすぎない。だから、杞憂であってほしい。源田選手には不安を払拭する活躍を続けてもらい、現時点で最下位に低迷中のチームを浮上させる、けん引役になってくれることを願っている。

番外編で右打者最速とセーフティバント最速のタイムを知ろう

 ここからは、毎回おなじみとなっている番外編のタイムを二つ紹介しよう。

 一つ目は、右打者に限定した最速タイム。開幕から4月いっぱいまでのパ・リーグでは、外崎選手の4秒13がもっとも良かった。

 右打者は、左打者と比べて単純に一塁ベースへの距離が長いことがタイムの出にくい理由ではない。スイング後の体重移動が三塁側へいってしまい、一塁側へ方向転換させることにタイムをロスしてしまうことも大きな要因になる。

 そのため、普通にブルンと振ってからスタートすると、俊足選手でも4秒20台~30台にとどまることもよくある。それを考えると、今回の外崎選手のケースでは、外角の投球に対してバットを投げ出すようにしていたことで、体重移動はむしろ一塁側へ向いていたのは良い条件だった。右打者特有のロスが少なく、好タイムにつながったと思われる。

 次に、もう一つの番外編はセーフティーバントの最速タイムだが、ここでも周東選手が出てきた。

 3秒40というタイムも素晴らしいが、何よりも一連の動作に一切の無駄がないのも良い。ギリギリまで打撃の構えをキープしておき、ピッチャーがボールをリリースする瞬間を狙って素早くバントの構えにチェンジ。1歩目を踏み出しながら三塁線の絶妙なコースへ打球を転がす様は、もはや芸術でしかない。

 最初からバントを警戒して定位置よりかなり前にポジショニングしていたサード・宗佑磨選手も素早い処理をしたが、送球したときには「もう、お手上げ」という感じで脱力していた。

1位もやはり、あの人なのか!?

 ええ、はい。栄えある1位も3秒75というタイムで周東選手である。周東選手ファンの方々、きっと十二分にご堪能されたと思います(笑)。

 このときのバックネット裏から周東選手の後ろ姿を捉えた映像を見ると、一塁ベース付近ではスピードに乗った軽快感を醸し出しているとはいえ、走り出しのあたりではしっかりと地面を踏みしめていた。

ロスなく脚力を足裏に伝達している様子がうかがえるこの走り出し。野球に限らず、走ることを武器にしている人、したいと思っている人、特に短い距離で爆発的な加速を求めている人は、このスタート参考にしてみてはいかだろうか?

 それにしても、1、3、4位と番外編に入賞した周東選手の独走場になってしまった。過去のランキングでも、走塁に関する部門ではここ数年、周東選手がいないときがないといっていいほど全盛期が続いているが、今シーズン序盤はレギュラーとして固定され、出場機会が多いことも拍車をかけているのだろう。

 こうして周東選手が好タイムを連発して出塁することで、クリーンナップとして待ち構える柳田悠岐選手、山川穂高選手、近藤健介選手により得点しやすい状況を数多くつくることになり、福岡ソフトバンクの今年の好調に直結しているとすら感じる。

 しかし、他の5球団は指をくわえて見ているわけにはいかない。周東選手の成果自体は称賛するが、他球団も何とか対策を練ってアウトにしてほしい。これは決して言い過ぎではないと思うのだが、周東選手の勢いを止められるかどうかが、今後の2024年パ・リーグペナントレースの優勝争いの行方を左右するのではないだろうか?

 その大いなるきっかけとなるかもしれない内野安打を左右するシーン。パ・リーグファンのあなたは決して見逃してはならない。

文・キビタキビオ

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