24年間でわずか8名。「プロ1年目から2桁勝利」を達成したパ・リーグ投手の顔ぶれは?

パ・リーグ インサイト 望月遼太

北海道日本ハムファイターズ・伊藤大海投手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・伊藤大海投手(C)パーソル パ・リーグTV

即戦力の投手には、1年目から2桁勝利が期待されることが少なくない

 4月3日、埼玉西武の武内夏暉投手が7回1安打7奪三振無失点という圧巻の投球内容を見せ、見事にプロ初登板初勝利を飾った。武内投手をはじめ、今季は期待の新人投手が多く存在するだけに、1年目から先発陣の一角に加わる投手が複数名現れる可能性もあるはずだ。

 即戦力と目される先発投手にとって、「シーズン2桁勝利」が成功の基準とされることは少なくない。それでは、プロ1年目から2桁勝利を記録したパ・リーグの新人投手は、過去においてどれだけ存在したのだろうか。

 今回は、2000年以降のパ・リーグにおいて、ルーキーイヤーに2桁の勝ち星を挙げた投手たちを紹介。それに加えて、各投手が2年目以降に残した成績についても確認することによって、この記録が持つハードルの高さについて考えていきたい。(成績は4月11日の試合終了時点)

一定以上の防御率と、長いイニングを投げるスタミナが求められる?

 2000年以降における、プロ1年目にシーズン2桁勝利を記録したパ・リーグの投手たちの顔ぶれは下記の通り。

プロ1年目でシーズン2桁勝利を達成したパ・リーグの投手(C)PLM
プロ1年目でシーズン2桁勝利を達成したパ・リーグの投手(C)PLM

 パ・リーグでルーキーイヤーに2桁勝利を達成した投手は、2000年以降の24年間においてわずか8名しかいない。さらに、2010年以降に限定するとその数はさらに減少し、則本昂大投手、石川歩投手、伊藤大海投手の3名のみとなる。

 投手分業が進んだことによって、先発投手に勝ち星がつくケースは以前よりも少なくなっている。そうした投手にとっての環境の変化を差し引いても、アマチュアからプロに入っていきなり先発として活躍することの難しさが浮き彫りとなっている。

 防御率に目を向けると、防御率4点台以上の投手は一人もおらず、田中将大投手を除く7名の防御率は3点台前半以下だった。勝ち星がつくか否かは打線との巡り合わせによる部分が大きくはなるものの、1年目から2桁勝利を挙げるためには、一定以上の安定感が不可欠であることがうかがえる。

 また、久保康友投手以外の7名はいずれも規定投球回に到達しており、そのうち5名は160イニング以上を消化していた。長いイニングを投げればそれだけ援護が得られる機会も増えるだけに、1年目から多くのイニングを投げられるかどうかも、2桁勝利を記録するためには重要な指針の一つと考えられる。

ルーキーイヤーから先発として活躍した投手は他にも存在したが……

 ただし、プロ1年目から先発として活躍を見せた投手は、上記の8名以外にも少なからず存在していた。直近5年間における例を紹介すると、2021年に東北楽天の早川隆久投手が137.2イニングを投げて防御率3.86、K/BB4.23と優れた投球内容を示し、2桁勝利まであと一歩に迫る9勝を記録した。

 また、埼玉西武の松本航投手も2019年に防御率4.54ながら7勝を挙げ、同年のリーグ優勝に貢献。さらに、2022年には埼玉西武の隅田知一郎投手が、1勝10敗と勝ち星こそ伸び悩んだものの防御率3.75と奮闘。翌2023年は、東北楽天の荘司康誠投手が5勝を挙げ、109.2イニングを投げて防御率3.36と安定した投球を見せた。

 以上のように、ルーキーイヤーから先発の一角に加わり、一定の投球内容を示した投手は少なくない。その一方で、早川投手のように優れたピッチングを見せたにもかかわらず、2桁勝利には手が届かなかった投手が多いのも確かだ。2桁勝利という成績が持つハードルの高さは、こうした近年の例にも示されているといえよう。

大半の投手が10年以上の現役生活を送り、150勝投手も3名存在

 続いて、今回取り上げた8名の投手がプロ入り後に記録している、通算の投手成績について紹介したい。

プロ1年目でシーズン2桁勝利を達成したパ・リーグ投手の通算成績(C)PLM
プロ1年目でシーズン2桁勝利を達成したパ・リーグ投手の通算成績(C)PLM

 2021年にプロ入りしたばかりの伊藤投手を除く7名は、いずれもNPBにおいて10年以上にわたってプロ生活を送っている。また、田中投手はNPBでの活躍に加えて、MLBでも7年間にわたって主力投手として登板を重ねた。それに加えて、和田投手も4シーズンを米球界で過ごし、今季でプロ22年目という非常に息の長い現役生活を送っている。

 成績の面でも、田中投手は日米通算197勝、和田投手は同163勝を挙げており、岸投手もNPB通算158勝を記録。近代野球では希少となっている通算150勝という記録の達成者が、3名も存在する点は特筆すべき要素といえよう。

 それに加えて、則本投手も2023年までの11シーズンで通算114勝と、かなりのハイペースで白星を積み重ねてきた。また、久保投手もリリーフに回るシーズンがありながら通算97勝を記録しており、1年目以降も長いスパンで勝ち星を積み重ねた投手が多い点も特徴的だ。

2年目以降のシーズンに、タイトルを獲得した投手も多い

 各投手の主要タイトル獲得歴を見ていくと、岸投手と伊藤投手を除く6名は新人王の座に輝いている。それに加えて、和田投手は最多勝を2度、最高勝率とリーグMVPを1度ずつ受賞。さらに、田中投手は最多勝、最優秀防御率、最高勝率、沢村賞をそれぞれ2度、最多奪三振とリーグMVPを1度ずつと、圧巻のタイトル受賞歴を誇っている。

 岸投手も2014年に最高勝率、2018年に最優秀防御率をそれぞれ受賞。則本投手は2014年から2018年まで5年連続で最多奪三振に輝く快挙を達成し、石川投手は2016年に最優秀防御率を獲得している。また、当時は連盟表彰がなかったため獲得タイトルには数えられないものの、久保投手は2010年にセ・リーグ1位となる勝率.737を記録している。

 ここまで紹介した各投手のタイトル受賞歴は、新人王を除けばいずれもプロ2年目以降に獲得したものとなっている点も見逃せない。すなわち、1年目の活躍がピークというわけではなく、その後にルーキーイヤーを上回る投球を見せた投手が多かったということだ。

 プロ1年目に大きな活躍を見せた投手は、当然ながら他球団からの徹底的な研究を受けることになる。リーグ全体における対策の進行は、いわゆる「2年目のジンクス」に苦しむ選手が生まれやすい理由の一つにもなっている。

 しかし、ルーキーイヤーに2桁勝利を達成した投手たちは、いずれもその年の活躍だけで終わることなく、息の長い現役生活を送る傾向にあった。逆説的ではあるが、1年目から2桁勝利を達成するためには、その後もプロの舞台で成功を収められるだけの実力が必要である、ということが示されているという考え方もできるはずだ。

プロ1年目に2桁勝利を挙げた投手は、その後の大活躍も期待できる存在に

 以上のように、現代野球においてプロ1年目に2桁勝利を挙げることは非常に難しくなっている。この記録を達成した投手の大半が10年以上のプロ生活を送っており、主要タイトルを獲得した投手も多く存在することからも、相応に優れた能力の持ち主でなければ手が届かない記録であることがわかる。

 それだけに、今シーズンにおいて2桁勝利を達成する新人投手が出現すれば、その投手はその後も長期間にわたって活躍する可能性が高いと考えられる。プロの門をくぐったばかりのルーキーたちが見せる投球に、今後はぜひ注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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