俊足・強肩を備えた新時代の捕手。大ブレイクを果たしつつある田宮裕涼の強みとは?

パ・リーグ インサイト 望月遼太

北海道日本ハムファイターズ・田宮裕涼選手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・田宮裕涼選手(C)パーソル パ・リーグTV

過去5年間の一軍出場は31試合ながら、一気に大ブレイクを果たすか

 北海道日本ハムの田宮裕涼選手が、開幕から3カードを終えた時点で打率ランキングのトップに立っている。2023年までの5シーズンで一軍出場がわずか31試合だった若武者が、「打てる捕手」として一気に大ブレイクを果たそうとしている。

 今回は、田宮選手のこれまでの球歴と二軍成績に加えて、セイバーメトリクスで用いられる指標をもとに、選手としての特徴を詳しく紹介。さらに、直近2シーズンでブレイクを遂げた2名の先達との共通点について確認し、田宮選手のさらなる活躍に期待を寄せたい。(成績は4月7日の試合終了時点)

昨季終盤に10試合で2本塁打を放ち、今季はさらなる成長へ

 田宮選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

田宮裕涼選手 年度別成績(C)PLM
田宮裕涼選手 年度別成績(C)PLM

 田宮選手は成田高校から、2018年のドラフト6位で北海道日本ハムに入団。プロ1年目の2019年は二軍で73試合に出場し、続く2020年には一軍デビュー。わずか4試合の出場ながら、打率.429と非常に優れた成績を残した。

 2021年は3試合で無安打、2022年は14試合で打率.111とそこから2年間は苦しんだが、2023年はわずか10試合の出場で2本塁打・2盗塁を記録。10月5日のシーズン最終戦ではスタメンマスクを被って2安打を放つなど、確かな成長の跡を示した。

 そして、2024年は自身初の開幕スタメンに抜擢され、「9番・捕手」として2打数2安打を記録。捕手としても先発の伊藤大海投手をリードして6回9奪三振無失点の好投を引き出し、チームの勝利に大きく貢献した。その後も攻守にわたって躍動を続け、打率.458と圧巻のハイアベレージを記録している。

一軍で大活躍を見せている田宮選手だが、二軍成績は意外にも……

 続いて、田宮選手が2023年までに記録してきた二軍成績を見ていこう。

田宮裕涼選手 年度別二軍成績(C)PLM
田宮裕涼選手 年度別二軍成績(C)PLM

 2019年から2023年までの5年間は、いずれも二軍で40試合以上に出場してきた。現在は一軍において高打率を残している田宮選手だが、二軍では打率.253を記録した2021年以外は全て打率.220台以下と、むしろ打撃面で苦しむシーズンが多くなっていた。

 また、複数の本塁打を放ったシーズンも1度もなく、長打率も2022年の.320が最高だった。2023年には一軍出場した10試合で2本塁打を放ち、長打率.484という数字を残していたことを考えれば、長打率が控えめな数字となっていたのも意外な結果と言えそうだ。

 そんな中で、高卒1年目の2019年から2桁の盗塁数を記録するなど、5年間で通算46盗塁を記録していた点は目を引く。2023年には一軍でも2盗塁を決めており、捕手ながら機動力を使えるだけの脚力を持ち合わせる点は大きな特徴となっている。

 それに加えて、2023年には自己最多の13犠打を記録。俊足の持ち主である田宮選手にとっては、小技の技術は出塁に直結する要素となりうる。また、新庄剛志監督はスクイズをはじめとした思い切った策を講じることが多いだけに、持ち前の俊足に加えて犠打の技術も向上している田宮選手は、首脳陣にとっても幅広い作戦に応えてくれる存在になりうる。

俊足と強肩を生かしたユーティリティ性の高さは大きな武器に

 次に、田宮選手が二軍で記録してきた、守備位置ごとの試合数を確認したい。

田宮裕涼選手 二軍守備成績(C)PLM
田宮裕涼選手 二軍守備成績(C)PLM

 最初の3年間は捕手以外のポジションで起用されることはなかったが、2022年は捕手で27試合、外野手で14試合に出場した。さらに、2023年は捕手、外野手に加えて、二塁手としても2試合に出場。年を経るごとに、対応できるポジションの幅を広げている点は興味深い。

 また、2023年には一軍でも捕手として6試合、外野手として3試合に出場。北海道日本ハムには伏見寅威選手、マルティネス選手といった実績ある捕手が複数在籍するだけに、積んできた外野守備の経験は、今後も出場機会を確保するにあたって大きな意味を持つかもしれない。

 また、現在のチームは二塁手の確固たるレギュラーも不在といえる状況にある。新庄監督は大胆な起用法を見せることも少なくないだけに、田宮選手が将来的に二塁で起用される可能性もゼロではないだろう。捕手、内野手、外野手の全てに適応できるユーティリティ性の高さは、打撃を活かすという意味でも大きな武器となるはずだ。

キャリアを通じて四球は1つと、類を見ないほどの積極性を示している

 最後に、田宮選手が一軍で記録してきた、年度別の指標を紹介する。

田宮裕涼選手 年度別指標(C)PLM
田宮裕涼選手 年度別指標(C)PLM

 キャリアを通じて一軍で選んだ四球は1つだけと、まさに類を見ないほどの積極性を示している。それに加えて、二軍における打率と出塁率の差もかなり小さくなっていることからも、球をじっくりと見ていくのではなく、好球必打の姿勢を徹底していることがわかる。

 その一方で、長打率は2023年が.484、2024年が.542と、2シーズン続けて優秀な数字を残している。二軍における本塁打の少なさは先述した通りだが、今季は8試合が終了した時点で1本の三塁打を記録。俊足を活かして常に先の塁を狙えるという点は、打者としての生産性を高めるうえでも大きな意味を持っている。

 「ISO」は長打率から単打の影響を取り除いた、いわば真の長打力を示す指標とされる。田宮選手は10試合で2本塁打を放った2023年に.226という非常に高いISOを記録したが、今季はここまで.083と高いとは言えない数字にとどまっている。今後、昨季と同様の長打力を見せられれば、打者としての価値はさらに高まることになる。

 本塁打を除くインプレーとなった打球が安打になった割合を示す「BABIP」に目を向けると、2024年は.524と非常に高い数値を記録している。一般的に、BABIPは運に左右されやすい性質を持ち、長い目で見ると一定の数字に収束していく傾向があるとされている。

 直近の3シーズンにおける田宮選手のBABIPは、いずれも基準値とされる.300を下回っていた。いわば、今季の田宮選手には運が向き始めているという考え方もできる状況なだけに、今後もBABIPが高水準を保つか否かは、田宮選手にとって非常に重要な意味を持ってきそうだ。

直近2年間の“成功例”に続き、田宮選手もチームの中心となれるか

 また、北海道日本ハムでは田宮選手と同じく、積極的なアプローチを武器にブレイクを果たした選手が2年連続で存在している。松本剛選手は2022年に開幕直後からハイアベレージを記録し、左ひざの骨折を乗り越えて規定打席に到達。打率.347という好成績を残して自身初の首位打者を獲得し、一躍チームの看板打者の一人となった。

 また、田宮選手と同じ2018年のドラフトで指名された万波中正選手は、2023年に本塁打王まであと1本に迫る25本塁打を記録。外野手部門のゴールデングラブ賞に輝くなど守備面での活躍も目覚ましく、攻守にわたってチームを支える主力選手へと成長を遂げている。

 松本選手は序盤戦で大ブレイクを果たした勢いそのままに、シーズンを通して高打率を維持してみせた。田宮選手も同じくシーズン序盤から素晴らしい数字を残しているだけに、松本選手と同様に高水準の成績を残し続け、同い年の万波選手に続いてチームの中心選手となれるかに注目だ。

「打てる捕手」の台頭は、チームにとっても大きな意義を持つものに

 投高打低の傾向が強まる中で、現在のパ・リーグにおける「打てる捕手」という存在の希少性は高まっている。それだけに、田宮選手がこのまま主軸に成長を果たしてくれれば、チームにとっても他球団に対する大きな優位性を得ることにつながるはずだ。

 年連続で大ブレイクを果たした選手を輩出している北海道日本ハムにおける、新たな注目株と呼べる存在。プロ6年目に大ブレイクを果たしつつある田宮選手の躍動感あふれるプレーからは、今後も目を離すことができなさそうだ。

文・望月遼太

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