「ひとつのテーマパークをイメージして」常勝軍団のキャンプを支える 宮崎市観光協会 岡崎弘輔さん

パ・リーグ インサイト 後藤万結子

2024.3.27(水) 15:00

宮崎市観光協会 岡崎弘輔さん(C)PLM
宮崎市観光協会 岡崎弘輔さん(C)PLM

 新型コロナウイルスが5類感染症に移行後、初めて行われた今年の春季キャンプ。宮崎市では、福岡ソフトバンク、オリックス、巨人の3球団がキャンプを行い、全国各地から多くのファンが訪れた。地元の方々だけでなく、遠方から訪れたであろうファンの姿がキャンプ地周辺のみならず、市街地にも多く見られ、観光地では一般的に閑散期とされる2月とは思えないほどのにぎわいが見られた。

 同じ市内で3球団が春季キャンプを行っているのは宮崎市のみだが、春季キャンプ地に宮崎市が選ばれる理由は一体どういったところにあるのだろうか。今回は、宮崎市観光協会で福岡ソフトバンクを6年間にわたって担当している岡崎弘輔さんにお話をうかがった。

宮崎市の野球の裾野をどんどん広げていくきっかけに

(C)PLM
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 宮崎市はもともと観光地としても有名なスポットで、特に青島は1960年代から70年代にかけてハネムーンの聖地として名を馳せていた。しかし、どれだけ有名な観光地であっても2月〜3月は閑散期となることが多いのが実情だ。そこで宮崎市は、1959年からキャンプを行っていた巨人に加え、施設整備に投資したことで、福岡ダイエーホークス(現:福岡ソフトバンク)のキャンプ誘致に成功。2015年からはオリックスがキャンプを開始し、今では同じ市内に3球団が集っているが、この要因について、岡崎さんはこう語る。

「宮崎市は温暖な気候で、日照時間も長いんです。あとは、プロスポーツ選手は、特に『食』がすごく大事だと思っています。宮崎市の食べ物が好きだと言ってくださる方が多いので、そこは強みかなと思っています」

 宮崎市は1年を通して温暖な気候で、年間快晴日数は全国でも上位に位置しているだけでなく、山の幸から海の幸までがそろう”食材の宝庫”だ。そして何より、練習施設が充実していることも大きな要因の一つと言える。多くの球団では、一軍キャンプと二軍キャンプは別の場所で行われるが、福岡ソフトバンクは、リハビリ組や一部選手を除くほとんどの選手が同じ場所でキャンプを行う。これだけ多くの選手が一堂に会し、練習を行うことができる施設を、市が保有・管理しているという環境的素地も大きな強みの一つだろう。

 福岡ソフトバンクが春季キャンプを行う〈生目の杜運動公園〉には、メインスタジアムやブルペン、サブグラウンドの他に、大きなドーム型の屋内練習場が存在する。このように整った練習環境については、「監督がA組、B組間を歩いて見に行ける環境というのはなかなかないと思います」と胸を張る。「元々ここ(生目の杜運動公園)には運動公園自体はあったのですが、宮崎市政70周年事業の時(1994年)に、整備していこうという話になりました。その後1999年に着工して、2002年にアイビースタジアムが完成しているんです」と岡崎さんは話す。

 生目の杜運動公園全体が完成してから、約1カ月後には福岡ソフトバンクが秋季キャンプを開始するというタイトなスケジュールだったため、キャンプ開始当初は球場やブルペンなど、練習で主に使用する設備以外は、まだ整備が終わっていない箇所もあったのだとか。今では、子どもが遊べるキッズエリアなども用意されており、小さいお子さんを連れた家族で、キャンプの見学に来ているファンの方々も多く見られた。

 筆者が訪問した日は、キャンプも終盤に差しかかった平日だったが、この日も約7,000人近くを動員。なかには北海道から足を運ぶ方もいるとのことだったが、ファンの方々の目的とは。

「やはりファンサービスが一番かなと思っています。毎週末サインボール投げを行うんですが、だいたいボールが飛んできやすい場所が決まっていて、その争奪戦が繰り広げられていたりもします。また、ここ(生目の杜運動公園)が、(他のキャンプ地と比較して)選手とファンの距離が一番近いと思っているので、お子さんが『選手にサインをもらえた』、『ハイタッチをしてもらえた』と野球に興味を持ってもらえるのもありがたいですし、これを宮崎市の野球の裾野をどんどん広げていくきっかけにもしていければと考えています」

ひとつのテーマパークをイメージして

(C)PLM
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 福岡ソフトバンクの春季キャンプは、整った練習環境もさることながら、飲食店の屋台数と広々としたキッズエリアも大きな特徴だ。宮崎名物の地鶏を販売する飲食店や、特産品である『きんかん』などの青果を販売するJA宮崎中央、そして銘菓を販売するお土産ショップなど、さまざまな屋台が軒を連ねるほか、子どもたちが安全に楽しく遊べるキッズエリアも完備されていたが、これも宮崎市としての一つの戦略だそう。

「まず、24店舗ある飲食店はすべて地元の事業者です。基本は宮崎に店舗を持っているお店に出店をしてもらうということを条件にしています。一番は宮崎市のPRというところと、屋台で『美味しい』と思ってもらい、次は実店舗に足を運んでもらいたいというコンセプトがあります。また、お父さんは野球を見て、お母さんと子どもは外でご飯を食べて、遊んでいるという家族連れの方々が多いので、キッズエリアも作っています。見に来たお客さんに楽しんでもらえる“ひとつのテーマパーク”をイメージしています」

 すでにこれだけ多くのファンが福岡ソフトバンクの春季キャンプを訪れ、にぎわいを見せているが、岡崎さんは今後について「『日本一のキャンプ地』にしたいです。施設面や、練習環境、お客さんの来やすさ、すべてにおいて日本一のキャンプ地に、と思っています。選手やチーム関係者の方は、約1カ月間滞在されるので、過ごしやすく、家にいるような感覚でいられるような環境を整えていければ、と思っています。また、お客さんに対しては楽しんでもらえて、また行きたいと思ってもらえるようにしたいですね」と展望を語ってくれた。

 現在、宮崎市観光協会内の福岡ソフトバンク担当は岡崎さんを含めて2人。キャンプの準備段階では、球団の複数部署との打ち合わせから、飲食店を出店する事業者に対する説明会まで、基本的にはすべて2人で行っている。多忙を極める業務だが「体力的には大変なこともありますが、現場が好きなので」と岡崎さんは笑顔で話す。

 まもなく2024年シーズンが開幕し、今年も長い戦いが始まるが、シーズン後半になってから、春季キャンプでどれだけ追い込んだかが発揮されてくると口にする選手も多い。つまりは、春季キャンプでどれだけ良いスタートダッシュを切れたかどうかが、シーズン全体のパフォーマンスに大きな影響をもたらす。福岡ソフトバンクが常勝軍団であり続ける背景には、岡崎さんをはじめとした、宮崎市の方々の手厚いサポートがあった。


取材・文 後藤万結子

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パ・リーグ インサイト 後藤万結子

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