鈴木優が米国トップクラスチームの監督に聞く、これからの少年野球のあり方

パ・リーグ インサイト 鈴木優

2024.3.14(木) 16:00

オーナーのグレッグさん(左)、鈴木優(中)、ゼネラルマネージャーのタイラーさん(右)【写真:本人提供】
オーナーのグレッグさん(左)、鈴木優(中)、ゼネラルマネージャーのタイラーさん(右)【写真:本人提供】

 先日、オレゴン州ポートランドにある少年野球のチーム「Mound Time(マウンドタイム)」のオーナーであり監督のグレッグさんにお話を聞く機会をいただいた。

「Mound Time」はアメリカ代表選手をチームから輩出するなど、アメリカ内でもトップクラスの少年野球チームだ。そこで今回は、アメリカの少年野球の仕組みや「野球離れ」について思うことを聞かせてもらった。

大人数でも選手一人ひとりとしっかり向き合い、練習メニューも管理

 はじめにチームの規模について尋ねると、「Mound Timeには全部で18チームあり、年齢とレベルによって全員が試合に出られるように振り分けています。コーチの人数は30人いて、2人は正社員で残りの28人はパートタイムの方々で教えています」と回答したグレッグさん。

 もうこの情報だけで日本の少年野球との規模の違いがわかるが、シアトルにはここよりも多い30チームを持つところもあるというのも驚きだ。しかし、その規模だからこその大変さもあるようだ。

「それぞれのコーチによって教え方・考え方が違うので、それを同じ方向に向けるのが大変なんです。でも、このチーム数を持っていてもクオリティは低くしたくないし、選手一人ひとりにしっかり向き合うことは絶対にしなくてはなりません」と選手への思いを語る。

 日本のプロ野球では基本的に一軍・二軍、多くてホークスの四軍までだが、その規模でも意思疎通をして同じ方向を向くのが難しいところを見てきたので、これだけ多くの選手・チームをまとめているのはすごいことだ。
 
「また、保護者に対しての説明は今の時代絶対に大事だと考えています。高いお金を払ってもらっているから、親とも対話をし、理解してもらうという努力もしています」

 チームや選手の数が多くても一人ひとりの選手、保護者と会話し、各個人にとって一番良い練習方法などをしっかり考えて運営しているのだ。では、練習メニューは誰がどのように考えているのか。

「私が20年経験してきたことを踏まえて、1年を4つに分け、それぞれ4つのシーズンで何を鍛えたらいいかを考えています。シーズンが終わった秋は新しい取り組みを、冬は一切投げないでアジリティトレーニング、春は投げ始めと多く打つこと、夏はプレーに専念するために体の良い状態を保つことというように、その場その場で考えるのではなく、その子の将来のために1年を通してメニューを組んでいます」とグレッグさん。

 日本の少年野球ではプロ野球のように、シーズンごとに選手のメニューを考えてくれるチームは少ないと思う。特に怪我もしやすい子どもは、大人がメニューをしっかり管理しながらやらせてあげることが大事なのだと考えさせられた。

子どもたちの適性を見て、それぞれレベルの合った大会へ

「Mound Time」の室内練習場【写真:筆者撮影】
「Mound Time」の室内練習場【写真:筆者撮影】

 そして、こんなにチーム数の多い「Mound Time」だが、入りたい子どもが誰でも入れるわけではない。

「入りたいという希望があっても、空いている枠が埋まっていたら残念ながら断ることもあります。もし空いていても入る前にまず練習に参加してもらい、そこで選手の実力と野球へのパッションを見て判断させてもらいます。そして、チームの選手が決まるとオフシーズンに、どのチームが次の年にどの大会に出るかを実力や両親の環境などの適性を見て決めていきます」

 選手それぞれに全力で向き合うからこそやる気のある子どもを預かりたいし、全員が適正なレベルの大会に出場できるように考えられていることを聞き、「そこまでやるのか」と感心してしまった。

 ここまで書いてきた膨大な量のメニューやチームのことを、オーナーともう一人のパートナーで考えている。とてもボランティアではできない大変な作業だ。

野球界の未来のために必要なことは?

 そして最後に、日本の未来の野球界のためぜひ聞いてみたい質問を投げかけた。日本では野球を「見る」人が増えている一方で、野球を「プレーする」選手の数が減っていることについてだ。

「実は、地域の部活などでのプレーヤーはアメリカでも減ってきているんです。しかし、それとは逆に良い選手が出てくるのはすごく増えている。なぜかというと、私たちの経験で育て方がわかってきていて、システムが確立されてきているからです。
 
 また、プライベートの会社でチームを運営することが絶対大事です。ボランティアのように慈善でやっていると、選手、親が文句を言うことはできませんし、怠慢な指導をする人が出てくるかもしれません。お金を払っていないと、選手や保護者にチームや指導者を選ぶ余地がありません。お金を払うことで選手、親がチーム、指導者を選ぶ立場になります。

 それによってレベルをキープし、運営するチームも頑張るようになります。その結果、全体の競争になり野球界のレベルを上げることになる」

 日本では少年野球にお金を払うことに、やや抵抗があると思う。しかし、指導者もボランティアでできることには限界がある。もちろん自分の生活があるし、教えるための時間もつくらなくてはいけない。

 このシステムのように選手、保護者がお金を払うことで、指導者が仕事としてできるようになれば、全力で指導にあたることができる。アメリカではこのような「良いものにはしっかりとお金を払う」という考え方が当たり前になっているようだ。

 日本の野球離れの原因として、ボランティアで行われているチームでの指導者の暴力や保護者のお茶当番といった制度の存在をよく聞く。この記事で書いたような、アメリカでのシステムを日本にそのまま当てはめることは難しいかもしれないし、すべて見習う必要はないかもしれない。それでも日本の野球界の未来を考えるなら、今までのシステムを改善していく意識を持つことが大事ではないだろうか。

文・鈴木優

1997年生まれ、東京都目黒区出身の元プロ野球選手。ポジションは投手。2014年にオリックス・バファローズにドラフト9位で指名され7年間所属、その後読売ジャイアンツに1年間所属し2023年に現役引退。都立高校から直接NPB球団に入団した選手としては、史上初の勝利投手となり「都立の星」としても注目を集めた。現在はアメリカ・ロサンゼルスに移住し、現地の語学学校に通いながら野球について勉強をしている。また撮影、編集を自ら行うYouTuberとしても活動。

鈴木 優 【SuzuQtube

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