2019年にホームランラグーン設置
千葉ロッテマリーンズの本拠地・ZOZOマリンスタジアムにホームランラグーンが設置されてから、ちょうど5シーズンが経過した。
以前は本塁打が出にくい球場だったZOZOマリンスタジアムも、それによって大きく様変わり。「2023 パーソル クライマックスシリーズ パ」第3戦における藤岡裕大選手の同点3ランに代表される、劇的なホームランがたびたび生み出されるようになった。
今回は、ホームランラグーン設置前後の5シーズンにおける千葉ロッテの年間成績や、投打のチーム成績を紹介。導入から5周年を迎えたホームランラグーンがチームにどのような影響を及ぼしたのかについて、具体的な数字をもとに検証していきたい。
2013年から4年間で3度のAクラス入りも、2017年以降の2年間は大不振だった
ホームランラグーンが設置される前後の5シーズンにおける、千葉ロッテのチーム成績は下記の通り。
ホームランラグーン導入前の千葉ロッテは、2013年からの4シーズンで3度にわたって3位でAクラス入りを果たしていた。首位とのゲーム差こそ離されたものの、クライマックスシリーズでも2度のファイナルステージ進出を果たすなど、一定の競争力を有していた。
しかし、2017年は開幕からしばらくは過去に類を見ないほどの貧打にあえぎ、最終的にチーム史上ワーストの87敗を喫する大不振に陥った。続く2018年も81敗を記録してリーグ5位と、2年連続で80敗以上を記録。これらの数字を鑑みても、ホームランラグーンはチーム状態がどん底に近い時期に導入された、と形容して差し支えないだろう。
ホームランラグーン設置を境に、リーグ2位を3度記録している
ホームランラグーン初年度となった2019年もリーグ4位に終わったが、借金はわずかに1、首位とのゲーム差は9.5と、過去2年間に比べて成績は改善。そして、2020年はシーズン終盤に失速するまで激しい優勝争いを繰り広げ、最終的に2位に入る躍進を見せた。
続く2021年も引き続き優勝争いに加わり、シーズン最終盤までオリックスと熾烈な争いを展開。141試合目で敗れて惜しくもリーグ制覇は逃したものの、2年連続でリーグ2位となった。2022年は3年ぶりのBクラスとなる5位に沈んだものの、新指揮官の吉井理人監督のもとで戦った2023年は再び優勝争いを演じ、直近4年間で3度目となるリーグ2位に入った。
ホームランラグーン設置前に千葉ロッテがシーズン2位となったのは、実に2007年まで遡る。2年連続80敗というチーム状態からわずか2年で13年の空白を埋め、首位とのゲーム差も大きく縮まっている傾向を見れば、ホームランラグーンの設置を境に潮目が大きく変わった。
3年連続でリーグ最下位だった本塁打数が、5年間で大きく改善
次に、ホームランラグーン設置前後の5年間における、千葉ロッテのチーム打撃成績を見ていこう。(※表における括弧内の数字はリーグ内の順位)
ホームランラグーン設置以前の5年間は、チーム本塁打数がいずれも100未満となっていた。リーグ内の順位も全て4位以下であり、2016年からは3年連続でリーグ最下位。チーム全体が長打力不足に陥っていたことは明白だった。
また、得点・打率・出塁率・長打率といった主要なスタッツの全てが、5年続けてリーグ4位以下だった。三振数は5シーズン中3度リーグ最小となるなどコンタクトには長け、犠打数も2015年と2018年にリーグ2位となったものの、スモールベースボールが得点力向上につながらなかったことがうかがえる。
しかし、ホームランラグーン設置初年度となった2019年は158本塁打とチーム本塁打数が前年から80本も増加し、リーグ内における順位も3位まで向上。出塁率と長打率もそれぞれリーグ3位、得点数はリーグ2位と他の数字も伸びを見せ、貧打解消の兆しがあった。
翌2020年も120試合の短縮シーズンながら90本塁打と、143試合換算で年間107本というペースで本塁打を記録。2021年はリーグ2位の126本塁打、それぞれリーグ2位の出塁率と長打率を記録し、得点数はついにリーグトップに躍り出た。2022年はリーグ5位の97本塁打と本塁打数は減少したものの、得点数はリーグ3位と一定以上の水準を維持している。
2023年は得点数こそリーグ4位に後退したが、直近5年間で3度目となる100本塁打に到達。そして、ポランコ選手がチームにとっては1986年の落合氏以来37年ぶり、千葉移転後では初となる本塁打王のタイトルに輝いた。
本塁打の増加に加えて選球眼も向上
近年の千葉ロッテ打線が持つ特徴の一つとして、四球の多さが挙げられる。2018年から6年連続、ホームランラグーン設置後は全てのシーズンにおいて、リーグ上位3位以内の四球数を記録。また、打率は5年連続で4位以下ながら、出塁率は2022年を除く4シーズンで3位以上となっている。
出塁率が向上すれば、それだけ走者を置いて長打が飛び出すケースも増える。ホームランラグーン設置前は5年連続で4位以下だった得点数が、2019年は2位、2022年は3位、そして2021年はリーグ1位と、目に見えて向上している点が象徴的だ。
これらの傾向からも、本塁打数が増加する一方で、決して大味な野球に終始するのではなく、犠打など小技を絡めた攻めを展開していることがわかる。ホームランラグーンへ過度に依存していないからこそ、チーム成績の向上にもつながっていると言えそうだ。
被本塁打の増加もあって、積極的に奪三振を狙う方向にシフトしている?
最後に、ホームランラグーン設置前後の5年間における、千葉ロッテのチーム投手成績を見ていこう。(※表における括弧内の数字はリーグ内の順位)
ホームランラグーン設置前の5年間のうち、リーグで下から3位以内の被本塁打数を記録した回数は3度。2014年にはリーグ1位の被本塁打を喫したものの、浜風の影響もあって本塁打が出にくい球場とされていたZOZOマリンスタジアムの特性を活かし、被本塁打をある程度抑えることができていた。
しかし、ホームランラグーン設置直後の2019年以降はやはり被本塁打も増加し、3年連続でリーグ最多の数字を記録。だが、2022年の被本塁打数は2位、2023年は同3位と徐々に改善の兆しも見えており、来季以降もこの傾向が続くのかは注目の要素といえよう。
その一方で、防御率はホームランラグーン設置前の5年間で3度にわたって4点台と高水準ではなかった。そして、設置後の5年間におけるチーム防御率は図の通り向上している点は興味深い要素だ。
また、設置前の5年間における奪三振数はリーグ最少が4度、残る1年もリーグ5位と極端に少なかったが、設置後はリーグ2位が2度、リーグ3位が1度と大きく向上。球場の特性を活かして打たせて取る投球から奪三振を狙う方向にシフトしたアプローチの変化は、防御率を見ても着実に効果を発揮しているといえそうだ。
球場の特性に適応して進化を遂げたチームは、悲願のリーグ優勝に手が届くか
ホームランラグーンを設置して以降はチーム本塁打数が増加し、それに伴って得点力も向上。その一方で、被本塁打の増加は、防御率に大きなマイナスを生じさせるには至っていない。球場の特性の変化と同時に起こったチーム成績の向上は、それに伴うアプローチが奏功していることの表れでもある。
もちろん、チームにとって最大の目標はリーグ2位という成績ではない。ホームランラグーンの設置後は優勝争いを演じるシーズンも増えているだけに、投打に期待の若手を多く擁するチームがさらなる成長を遂げ、悲願のリーグ優勝を達成できるかに注目したいところだ。
文・望月遼太
関連リンク
・競争激化の千葉ロッテ内野陣で光る出塁能力。藤岡裕大の進化とは
・2024年に復活が期待されるパ・リーグ6球団の選手
・けん制の多い投手、少ない投手は? けん制のデータを覗いてみる
・友杉篤輝は64試合出場 2023年ルーキーの活躍【千葉ロッテ編】
・総投球数は12万球超え。2023年パ・リーグの球種割合を調査してみた
記事提供: