育成ドラフト下位からのシンデレラストーリー。水上由伸と豆田泰志にデータで迫る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

埼玉西武ライオンズ・水上由伸投手(左)豆田泰志投手(C)パーソル パ・リーグTV
埼玉西武ライオンズ・水上由伸投手(左)豆田泰志投手(C)パーソル パ・リーグTV

同じ年の育成ドラフト下位指名→ブルペンの主力になりつつある右腕

 育成選手としてプロの門をたたき、そこからチームの主力に成長する選手の数は決して多くはない。しかし、2020年の育成ドラフトでそろって埼玉西武に指名された水上由伸投手と豆田泰志投手は、いずれもリリーフの中核を担う投手に飛躍を遂げつつある。

 また、豆田投手は173cm、水上投手は176cmと、プロの投手としては小柄なところも共通点となっている。育成ドラフトの下位指名から這い上がって成功を掴みつつある二人の「小さな巨人」は、これから多くの野球少年に夢を与える存在となるかもしれない。

 今回は、水上投手と豆田投手のこれまでの球歴に加えて、両投手が記録してきた各種の投球指標を紹介。データに見る両投手の特徴や、今後の課題についても触れつつ、小柄な体格で打者と真っ向勝負を挑んでいく、両投手の更なる活躍に期待を寄せたい。

プロ初年度から台頭。翌年には2つのタイトルを獲得する大躍進

 水上投手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

水上由伸投手 年度別投手成績(C)PLM
水上由伸投手 年度別投手成績(C)PLM

 水上投手は帝京第三高校、四国学院大学を経て、2020年の育成選手ドラフト5位で埼玉西武に入団。この順位は同年のドラフト会議における、全体で最後の指名でもあった。指名順位こそ低かったものの、水上投手はプロ1年目の2021年から順調にアピールを続け、5月13日には早くも支配下登録を勝ち取った。

 同年6月に一軍へ昇格すると、プロ初登板から17試合連続無失点というパ・リーグ新記録を樹立する驚異的な活躍を披露。29試合に登板して4ホールド、防御率2.33と好成績を残し、翌年以降のさらなる活躍にも期待を持たせた。

 続く2022年は60試合に登板して防御率1.77と安定感抜群の数字を記録し、セットアッパーとして35ホールドポイントを記録。同僚の平良海馬投手と並んで、自身初タイトルとなる最優秀中継ぎの座に輝く。

 それに加えて、シーズンオフには阿部翔太投手(オリックス)との争いを制し、新人王のタイトルも受賞。育成指名からわずか2年でタイトルホルダーとなる、文字通りのシンデレラストーリーを歩んだ。

 2023年は平良投手が先発に転向したこともあり、水上投手にはブルペンの柱としての活躍が期待された。しかし、開幕からコンディション不良に苦しみ、23試合と登板機会を半数以下まで減らすことに。それでも、7月に一軍へ復帰して以降は好投を見せ、最終的には防御率2.12と例年通りに優秀な数字を記録している。

フォーム変更を機に飛躍を遂げ、勝ちパターンの一角として奮闘

 豆田投手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

豆田泰志投手 年度別投手成績(C)PLM
豆田泰志投手 年度別投手成績(C)PLM

 豆田投手は浦和実業高校から、2020年の育成選手ドラフト4位で埼玉西武に入団。高卒1年目の2021年は二軍で9試合に登板したが、防御率9.45とプロの壁に跳ね返された。しかし、翌2022年は二軍で18試合に登板し、81.1イニングを消化して防御率3.76と、確かな成長の跡を示した。

 そして、2023年のシーズン途中に山本由伸投手に近いフォームへ変更したことをきっかけに、投球内容が飛躍的に向上。二軍で26試合に登板して防御率2.43を記録しただけでなく、奪三振率も11.53と非常に高い水準に達した。この活躍が認められ、同年7月21日に支配下登録への移行を果たした。

 それから1週間後の7月28日に一軍でプロ初登板を果たすと、そこから8試合連続で無失点に抑える快投を披露。シーズン終了までに16試合に登板して失点はわずか1、防御率0.59という素晴らしい成績を記録した。勝ちパターンの一角として6ホールド・1セーブを記録するなど、リリーバーとして大きな存在感を示している。

2022年の制球力を再現できるか否かが、今後の活躍に向けたカギとなる

 ここからは、両投手がキャリアを通じて記録してきた、各種の指標を見ていきたい。

水上由伸投手 年度別投手指標(C)PLM
水上由伸投手 年度別投手指標(C)PLM

 水上投手の奪三振率はキャリアを通じて高いとはいえない水準であり、打たせて取るピッチングを展開していることがわかる。また、キャリア通算の被BABIP、すなわち本塁打を除くインプレーの打球が安打になった割合が.225と非常に低く、打たせて取る投球を支える大きな要素となっている。

 その一方で、与四球率はキャリア通算で4.23と、制球面に少なからず課題を抱えていることがわかる。ただし、最優秀中継ぎに輝いた2022年の与四球率は2.73、WHIPも0.91といずれも優秀な水準に達しており、コントロールの安定が成績向上につながったことがわかる。

 ところが、2023年の与四球率は7.41と非常に高く、WHIPも1.53と大きく悪化。前年に比べて苦しい投球を強いられた理由の一端が示されているだけに、制球力を2022年に近い水準まで改善できるか否かは、水上投手がセットアッパーに返り咲けるかを左右する要素となってきそうだ。

打たせて取る投球を支える指標の優秀さに注目

豆田泰志投手 年度別投手指標(C)PLM
豆田泰志投手 年度別投手指標(C)PLM

 豆田投手も水上投手と同様に、2023年の奪三振率は7.04と決して高い数字ではない。その一方で、同年の被打率は.098、被BABIPは.190といずれも非常に低くなっており、三振を奪う割合がさほど多くはなくとも、容易に安打を許さずに打者を抑え込んでいた。

 また、与四球率が4.11とやや高く、制球に課題を残している点も水上投手と共通する部分だ。BABIPは一般的に運に左右される部分が大きい指標と考えられているため、豆田投手が来季以降も好成績を残し続けるためには、コントロールのさらなる改善が不可欠といえる。

 ただし、豆田投手の二軍における奪三振率は、2021年が7.76、2022年が7.41だったのに対し、2023年は11.53と飛躍的に向上している。一軍においても同様に奪三振率を大きく上昇させることができれば、より支配的な投球を展開できる可能性も大いにあるはずだ。

 また、豆田投手がフォームの参考にした山本由伸投手は、NPBにおける通算の被BABIPが.260と、平均値とされる.300を大きく下回っている。それと同様に、佐々木朗希投手の通算被BABIPも.266と、平均的な水準とは大きな差がある数値を記録している。

 すなわち、非常に能力の高い投手の場合は、BABIPの基準となる値が一般的な投手とは異なるケースも存在する可能性があるということだ。豆田投手と水上投手のBABIPが今後どのように変遷していくかは、キャリアを通じて注目すべき要素となるかもしれない。

水上投手に続き、豆田投手も新人王獲得のチャンスを生かせるか

 投手が新人王を受賞するための資格は、「支配下登録から5年以内かつ、前年までの一軍での投球回が30イニング以内」と定められている。水上投手はプロ1年目となる2021年の投球回が27イニングにとどまったため、翌年における新人王の資格を維持。続く2022年に大活躍を見せたことにより、見事に新人王のタイトルを獲得している。

 そして、豆田投手が2023年に一軍で消化した投球回は15.1イニングのみであり、2024年の新人王を獲得する資格を有している。こうした流れも水上投手と共通しているだけに、豆田投手が先達に続く大ブレイクを果たし、新人王に輝く可能性も大いにあるといえよう。

 育成ドラフトの下位指名という立場から這い上がり、プロの舞台で存在感を放っている水上投手と豆田投手。入団時の注目度の低さや、体格的なハンデを乗り越えてシンデレラストーリーを描く両右腕の活躍に、新シーズンはぜひ注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

関連リンク

鷹の新戦力・ウォーカーに期待される役割とは
昨季本拠地で好成績を残した選手は?
1点差ゲームから見るパ・リーグ6球団の戦いぶり
2年連続の盗塁王は難しい?  小深田大翔と周東佑京は“ジンクス”を払しょくできるか
投高打低の影響は? 2023年のパ・リーグを、「リーグ平均打率」という観点で振り返る

記事提供:

パ・リーグ インサイト 望月遼太

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE