初登場のカテゴリーにランクインしてきた韋駄天は誰か?
こちらの野球のプレータイムのシリーズを担当するようになって5年になろうとしているが、このタイミングで、なんと初登場の“種目”が投入された。
それは、塁上の走者が野手のフライ捕球と同時にスタートを切って次のベースを狙う「タッチアップ」である。なかでも圧倒的に数の多い3塁から本塁ベースに突入、生還するときのタイムを計測した。
タッチアップというプレーは、基本的には「アウトになる可能性がかなり低い=安全」であることを前提にして敢行することが多い。そのため、全力全開で走るケースは、割合としては少ないといえるだろう。
しかし、たとえ際どいタイミングになろうとも、そこで成功させれば勝敗を大きく分ける可能性がある場合には、意を決してスタートすることはある。そして、それが俊足選手の場合は好タイムが発生するチャンスだ。併せて、ホームベース付近で鬼気迫るクロスプレーを目にする場合もある。
果たして、どんな手に汗握る走塁に出合えるか? TOP5のランキングを見ていこう。
意外と言ったら失礼? 長打力が魅力の廣岡大志選手(オリックス)が5位に
まず、5位に入ってきたのは、今シーズン途中からパ・リーグに移籍してきた廣岡大志選手(オリックス)。タイムは3秒57だった。
場面はそこそこ打球の上がった、定位置よりやや前のライトフライ。ライトは十分な捕球態勢に入れる準備ができたため、いい送球が返ってくる。廣岡選手は足からのスライディングで外側に回り込み、送球を受けた捕手の背中側から左手でホームベースをとりにいったが、判定はアウトになった。しかし、ベンチからリクエストがあり、ビデオ検証の結果、セーフとなったプレーだ。
廣岡選手というと、セ・リーグの東京ヤクルト、巨人とプレーしてきたなかで、「パンチ力のある打撃が魅力の人」という印象が強い。もちろん、身体能力はかなり高いという認識はあったが、これだけの走塁を披露するとは、失礼ながらちょっと意外だった。今後は情報を上書きして、走塁でも好プレーを期待していきたい。
思い切りよくヘッドスライディングでホームインした4位若林楽人選手(埼玉西武)
4位は、埼玉西武の若武者、若林楽人選手が3秒55でランクインしてきた。映像を見ても、「これはかなりスピードがある」とすぐに認識できる躍動感のある走塁だ。
特にチェックしてもらいたいのは、レフトがフライを捕球した位置である。定位置よりもやや前のところで、後方から勢いをつけながら落下点に入っている。並の走力であれば、突入を躊躇していただろう。
それでも、自分の走力を信じてスタートし、背後のカットプレーが見えぬまま全力疾走。ヘッドスライディングで生還した。
このときは2塁走者がいて、レフトが高々とダイレクトに本塁へ送球してしまうと、2塁走者にも3塁へのタッチアップを許してしまう恐れがあり、送球は低くしてショートが中継に入った。しかも、その中継も乱れたため、本塁に返球はなく、結果的に楽勝でセーフとなったが、若林選手の走力があってのタッチアップ成功であった。
迫力満点のオーラで走る藤原恭大選手(千葉ロッテ)が3位に
3位は、前回の「内野安打一塁到達時間 TOP5」でも5位入賞を果たした千葉ロッテ期待の星こと藤原恭大選手が、3秒53というタイムで順位を上げて連続で登場した。
映像を見れば伝わると思うのだが、藤原選手の走りには他の選手にはない迫力を感じる。本人が一軍定着に向けて必死というのはもちろんあるだろうが、プレーそのものオーラの発散が半端ない印象だ。
爆発的なピッチの速さでスタートすると、そのままの勢いで最後のヘッドスライディングに持っていく。ある種“獣”のような走りに見えるのは、決して私だけではないだろう。
その勢いによる押しが強すぎて、ヘッドスライディングの際にちょっと蹴つまずいた感じになったが、それすらバネ仕掛けのような跳躍力を駆使して、ねじ伏せるように生還してしまった。結果的に好タイムになるのは、むしろ当然のことのように思えてくる。
現在のパ・リーグで、トップクラスのフィジカルとメンタルを持ち合わせた選手ではなかろうか?
2位は今シーズン前半戦に話題となった周東佑京選手(福岡ソフトバンク)のタッチアップ
この選手がランキングに入ってこないはずはない──。
はい、その期待にしっかり応えて、2位に入ってきたのが周東佑京選手(福岡ソフトバンク)。「WBCで大谷翔平選手(エンゼルス)を危うく抜いてしまいそうだった俊足」に、もはや細かな説明は不要だろう。
特に3秒51というタイムをたたき出したこのタッチアップのときは、センターの捕球位置が特に前だったため、「この捕球位置でスタートして、セーフになるの?」と驚愕する反応が当日に殺到したプレーだった。
しかし、一方で「これが1位でないとすると、どのタッチアップが1位なんだ?」という疑問も湧いてくる。
果たして、1位は一体誰なのか──?
番外編は「最遅タイム」と「計測不能」???
と、その前に。恒例の番外編を挟んでクールダウンさせようか。
今回は二つ用意してあり、一つはもっともタイムが遅かったタッチアップである。5秒31という、ランキングしたタイムから約2秒遅れてホームインしたのは、中村奨吾選手(千葉ロッテ)だった。
中村選手は別に超鈍足というわけではないが、なぜ、このようなタイムになってしまったのか? これは弁解の余地があるだろう。
打者のポランコ選手が打ったのは、ライトがフェンス際でかろうじて捕球した火の出るような打球だった。そのうえ、1塁にも走者がいたため、ライトは2塁に向けて送球。油断さえしなければ、全力疾走しなくても安全に生還できるケースだけに、最遅でも許してほしいところだ。
そして、もう一つの番外編は、中学時代に陸上の全国大会でサニブラウン・ハキーム選手を抑えて100mと200mで優勝した経歴を持つ五十幡亮汰選手(北海道日本ハム)が見参した。
そのタイムは、なんと「計測不能」というもの。スライディングキャッチしたライトが捕球する瞬間が、マルチに配置したカメラを駆使しても捉えきれなかったようだ。
思わぬ現象によって、この動画と記事に登場した五十幡選手だが、本来は本筋のランキングに入る可能性が十分にある選手。今シーズンは故障による出遅れもあってまだ本来の力を発揮できていない印象だが、次回以降は大いに期待している。
1位は和田康士朗選手(千葉ロッテ)がサヨナラ勝ちを決めた、かくも美しくもスピードある走りだった
さて、いよいよ1位の発表に入ろう。
2位・周東選手の本塁突入を上回るタイムを出したのは、千葉ロッテの「和ギータ」こと和田康士朗選手だった。タイムは一人だけ3秒50を切る3秒49。
思えば、このプレーも今シーズンのパ・リーグ前半戦では、印象に残るものだった。安田尚憲選手が打ったレフトファールフライからのタッチアップで、千葉ロッテが劇的なサヨナラ勝ちを収めたシーンである。
動画ではフライ捕球からの本塁返球ばかりに目が行きがちだが、ここでは和田選手の走塁を見てほしい。
まずは、スタート時の 和田選手の体勢。身長185センチの体を小さく折りたたむようにして低くかがんでいることがわかる。このあたりは、和田選手が高校時代に一時陸上をしていたことと関係がありそうだ。
そして、その低い姿勢からスタート後、一歩一歩地面に対して狂いなく垂直に左右の足を蹴っているように見えるシンメトリーな走塁フォームのなんと美しいことか。
和田選手のようなスラっとした足の長い選手の場合、その走りは本来、ストライドの広さや美しさがポイントになるはずで、ここでは距離が短すぎて大きなストライドを発揮する前にホームベース近くに到達してしまうため、正直、あまり語れないと思っていた。
ところが、そんなことはなかった。
バランスのとれた両足の踏みしめ方には、どこにも力みを感じられない。これは3位の藤原選手が力で押しまくるような走塁とは実に対照的な、流麗なものといえるのではないだろうか。
もちろん、どちらが良い? 悪い? というものではない。
藤原選手の力強さ、和田選手の美しさ。どちらも成立するものである。見ている我々は、それぞれの特徴を楽しめばいいと思う。
これからもぜひ定番としていきたい
「タッチアップの本塁生還TOP5」いかがだっただろうか。
やはり、直接的に“1点が入るかどうか”を左右するだけに、選手たちがひたむきにホームに向かう姿が印象的だった。その極限プレーをぜひ称賛したい。
今後もまた見てみたいと思える種目が一つ加わった。
次回の登場も、今から楽しみにしている。
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