最短でかけ抜けた選手は誰か? 内野安打一塁到達時間 TOP5

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福岡ソフトバンクホークス・周東佑京選手(C)パーソル パ・リーグTV
福岡ソフトバンクホークス・周東佑京選手(C)パーソル パ・リーグTV

間に合うか否か? のスリルを演出する俊足選手たち

 声出しの応援が復活し、華やかな雰囲気で開幕した2023年のパシフィック・リーグ。
 侍ジャパンが世界一に輝いたワールドベースボールクラシック(WBC)の影響もあって、佐々木朗希投手(千葉ロッテ)のように時速160km/h超の力強い速球や、村上宗隆選手(東京ヤクルト)のように遠くへ飛ばす豪快な打撃など、力でねじ伏せるようなプレーが注目されがちだが、快足を飛ばして一塁に生き残る内野安打も野球のスリリングな見せ場である。

 今シーズン最初のタイムランキング記事は、そんな内野安打におけるトップ5を紹介しよう。
 開幕戦の3月30日から5月14日における約1カ月半の間に、打者が打ってから一塁ベースに到達するまでのタイム(セーフティーバント時はのぞく)が素晴らしかったのは、どんな選手たちであろうか。

ようやく実力を発揮し始めた? 藤原恭大選手(千葉ロッテ)が5位入賞

 まず、5位に入ってきたのは、藤原恭大選手(千葉ロッテ)。タイムは3秒90だった。
藤原選手は、大阪桐蔭高校時代に甲子園で活躍した逸材で、高卒新人ながら1年目から活躍することが期待されたが、5年目の今季までなかなか一軍に定着できなかった。
 
 今回、ランキング入りしたときの打撃は、外角へ逃げていくボールに体の重心が一塁ベース方向に流されながらも腕を伸ばすようにしてバットに当て、ピッチャーの足元を襲う低いハーフライナーにしたもの。それがグラブにあたって後方へ転々。自慢の脚力が生きた格好だ。

 走攻守すべての面で期待される万能タイプの藤原選手は、相手投手の投球モーションに合わせて右足を上げる一本足打法から、時に豪快なスイングで長打を放つこともある。だが、タイミングを外されそうになると、腕を伸ばすようにしてボールにバットを当てて対応する。そんな粘り強さがあることを垣間見たプレーだった。

 残念ながら、5月16日のオリックス戦で右太もも裏を痛め、現在は一軍登録を抹消されているが、中心選手として覚醒する兆しをみせ始めているだけに、早期復帰が望まれる。

4位は育成の星・茶野篤政選手(オリックス)

 続いて4位には、プロ1年目のルーキー・茶野篤政選手が3秒88という堂々たるタイムで彗星のごとくランクインしてきた。

 茶野選手は、昨年まで四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスでプレーしていたが、秋のドラフト会議で育成選手として4位指名されオリックスに入団。春のキャンプで猛烈にアピールし、開幕前に支配下契約を勝ち取ったハングリーな選手である。

 そして、育成指名選手としては史上初となる開幕スタメン出場を果たし、4月の前半頃までは4割を超えるハイアベレージを維持した。

 その後、打率は徐々に落ちついてきているが、きたる梅雨の季節や夏場の暑さを乗り切ることができるか? 脚力はそれを見定める試金石となるはずだ。

3位はランキング常連になりつつある和田康士朗選手(千葉ロッテ)

 3秒85というタイムで3位になったのが、和田康士朗選手。まるで、みぞおちあたりから生えているかのように錯覚してしまう長い足を華麗に操り、ストライドの広いランニングで魅了する。いまや、パ・リーグ屈指のスピードスターといっていいだろう。

 しかし、これだけの素晴らしい足をもってしても、和田選手はまだレギュラーとして定着したシーズンがない。2021年には24盗塁で盗塁王も獲得しているが、その多くは代走からの途中出場によるものだった。

 もちろん、勝負どころで起用される“切り札”としての役割は重要だが、これほどの足があるのならレギュラー奪取を狙わない手はない。
 課題とされていた打撃面をレベルアップさせるため、今シーズンは元近鉄で通算415盗塁を記録した大石大二郎選手と同じモデルで、グリップエンドに向かって徐々に太くなっていく形状のバットを使用している。

 以前は、柳田悠岐選手(福岡ソフトバンク)に近い“俊足&強打”のプレースタイルで「和ギータ」と呼ばれることもあった和田選手だが、ヘッドを効かせたスイングは難しくなるかわりにコントロールはしやすいといわれるバットに変えるあたり、「長打よりも、足で稼ぐヒットを増やそう」という意気込みが感じられる。

 今年こそ、常時スタメン出場となるか? 分岐点となるシーズンになりそうだ。

WBCで世界に通じる俊足をみせつけた周東佑京選手(福岡ソフトバンク)が2位

 2位に名を連ねたのは、周東佑京選手。3秒83という好タイムである。

 この春のWBCでは、世界中の野球ファンがその快足に驚いた。準決勝のメキシコ戦、吉田正尚選手(レッドソックス)の代走に起用された周東選手は、続く村上宗隆選手が放ったセンターのフェンスを直撃する大飛球に対して、正確な打球判断のもと猛スピードで一塁からサヨナラ勝ちを決める長駆ホームインを決めたのは記憶に新しい。

 周東選手は、この内野安打のタイムランキングにおいては、以前から常連だが、今回の2位に入ったプレーの中に好タイムの秘訣が見え隠れしていた。ポイントはスタートの素早さである。

 バッターが打ってからできるだけ早く一塁に到達するためには、もちろん足が速いことが必要だが、それと同じくらいスタートが重要になる。
 このときの周東選手の打球は正直いって打ちそこねのゴロだった。一般的な選手なら「しまった!」と思ったり、想定外な転がり方をした打球を目で追うなどして、一瞬動きが固まって一塁へのスタートが遅れがちとなる。
 ところが、周東選手は躊躇することなく反射的に走り出していた。

 野球では、時間のロスを最小限に抑えて次のプレーに移れるかどうかでアウトとセーフの明暗が分かれることがある。周東選手は、単純に足が速いというだけではなく、打球判断の能力も長けているということを見逃してはならない。

番外編 技ありセーフティーバントと右打者の最速タイム

 1位を発表する前に、恒例となっている番外編を紹介しよう。

 まずは、セーフティーバント編。バントの上手い選手の場合、投球をバットに当てるときから一塁へ走り出す体勢を作れるため、スイングしてから走るよりもタイムが良いのが一般的だ。

 今回の計測期間中、最速だったのは、小深田大翔選手(東北楽天)による3秒66。左打者のセーフティーバントに対して、反射的に三塁側へ走り出そうとしたピッチャーの逆をつき、マウンドやや一塁側にプッシュバントを試みたプレーだ。
 スピードもあるが、そこに技術をプラスアルファした「してやったり」の職人技といっていいだろう。

 続いて、右打者でもっとも良いタイムを記録したケースでは、阪神から移籍してきた江越大賀選手(北海道日本ハム)が登場。阪神時代から抜群の身体能力があることで知られていたが、落ちる変化球を投手方向へ身を乗り出すようにして打ったことで、最初から一歩目を踏み切るような体勢になり、右打者としては早い部類に入る4秒00というタイムを生んだ。

 新天地の北海道日本ハムで、嘱望されていた才能が開花するか? 興味深く見守っていきたい。

1位はやはり「あの選手」だったか

 栄えある1位に輝いたのは、やはり周東選手だった。ひとりでワンツーフィニッシュを決めた格好だが、1位のタイムは3秒77で2位の自身のタイムをも引き離すひとり別次元の3秒70台を記録した。

 もはや語るにもおよばない無双ぶりだが、和田選手と同様、周東選手も足を生かすには出塁せねばならず、常にバッティングが課題となる。
 今シーズンもバッティングは苦労しており、5月31日時点で打率は.185。本記事で絶賛している以上、代走に甘んじてもらっては断じて困る(笑)。

 かつて、メジャーリーグで活躍したイチロー選手も内野安打が占める割合が多く、それで高打率を維持できた時期もあった。
 周東選手も、ぜひ、内野安打に活路を開いて、さらなる活躍をしてくれることを期待している。

まだまだいるはず。隠れたスピードキング出現を期待

 毎年、とりあげていながら飽きることのない内野安打のタイムラインキング。
 今回、茶野選手が新たにトップ5に入ってきたように、これから台頭してきそうなスピードスターが最初に顔を出してくることが多い激戦区であるのも、興味を失わない一因だろう。

 2023年のペナントレースは、まだ始まったばかり。このあとも、類まれなスピードで猛烈にアピールしてくる若武者が現れるか? 楽しみに待ちたい。

文・キビタキビオ

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