後半戦、期待の選手・北海道日本ハム編
この男の存在価値の大きさが改めて証明された。そう形容できるシーズンと言っていいはずだ。古巣の北海道日本ハムに復帰した鶴岡慎也捕手が、優勝争いを演じるチームを献身的に支えている。プロ16年目、ファイターズの一員としては12年目。過去7度にわたってリーグを制した”優勝請負人”にとって、再び声を掛けてくれた古巣を頂点へと導くための本領発揮はこれからだ。
樟南高校と三菱重工横浜で捕手として活躍した鶴岡選手は、2002年のドラフト8巡目で日本ハム(現・北海道日本ハム)に入団する。プロ入り4年目の2006年に76試合に出場してチームが日本一に輝くと、その後は主戦捕手のひとりとして計4度のリーグ優勝にも貢献した。
とりわけダルビッシュ有投手との相性は抜群で、鶴岡選手は息の合った意思疎通によって女房役としてエースを支えた。専属捕手として剛腕の持ち味を十二分に引き出していった鶴岡選手の存在が、若くして球界屈指の投手へと成長していったダルビッシュ投手の躍進に寄与していたところは少なからずあるはずだ。
高橋信二氏や大野奨太選手といったライバルたちと毎年のように正捕手争いを繰り広げながらきっちりと出場機会を確保し、課題とされていた打撃面でも年々進歩を垣間見せていた鶴岡選手。捕手としての高い実力と明るい性格でチームに欠かせない存在となっていたが、2013年のオフにFA権を行使。11年間にわたって在籍したチームを離れ、福岡ソフトバンクに活躍の場を移すこととなった。
前年に114試合で打率.295という活躍を見せたことから正捕手としての期待がかけられたが、攻守両面で期待に応えきれずにレギュラー定着は果たせず。在籍4年間で3度の日本一を果たしたチームの捕手の一人として貢献こそしたものの、そのうち100試合以上に出場したのが2016年の一度のみ。しかもその年はリーグ優勝を逃す形となるなど、残念ながら満足のいく成果を残せたとは言い難かった。
5年ぶりに古巣への復帰を果たすと
そして、鶴岡選手は2017年のオフに再取得したFA権を行使し、再び移籍市場に身を投じることに。経験豊富なベテランに対して獲得の手を挙げたのは、古巣の北海道日本ハムだった。一旦FAでチームを去った選手が、移籍元の球団に再びFAで復帰するのはNPB史上初。再び自らを必要としてくれたチームのために、鶴岡選手は5年ぶりにファイターズのユニホームへと袖を通すことを決断した。
入団会見では「ファイターズにいた11年、選手として育ててもらって、家族を築いたのもこの北海道です。自分にとって北海道は特別なものでしたので、今回声をかけていただいてうれしかったです」と興奮気味に話し、「5年ぶりに戻って、また22番の背番号を背負うことができる事もとてもうれしいです」と復帰の喜びについてコメント。「これからは北海道を盛り上げていきたいという思いと、グラウンドの上でしっかり役割を果たしていきたいという責任感、緊張感でいっぱいです」と改めて気を引き締めていた。
古巣復帰1年目となる今季は15歳年下の清水優心選手と正捕手の座を争いながら、新外国人のマルティネス投手とのバッテリーを中心に出場機会を確保。来日1年目ながら早くも7勝を記録している右腕の好投を引き出すのみならず、リーグ2位の盗塁阻止率.370を記録し、持ち前の肩と高い送球技術もまだまだ健在であることも示している。
鶴岡選手が存在感を発揮する場面は守備面だけにとどまらない。前年は一軍定着後では自身最小となる29試合の出場にとどまっていたものの、打率.321、3本塁打、OPSに至っては驚異の1.030と打撃面で覚醒を見せ、日本シリーズでも代打で濱口遥大投手のノーヒットノーランを阻止する安打を放つなど存在感を発揮していた。その流れは今季も続いており、49試合の出場で打率.282、2本塁打を放つなど随所で快打を披露。攻守両面で円熟味を増した活躍を見せている。
在籍した2チームで計7度のリーグ優勝を経験した勝者のメンタリティを持つベテランの加入は、チーム全体に対しても好影響を及ぼしている。多数の主力が抜けて苦戦が予想されたチームは前半戦が終わった段階で首位と1ゲーム差の2位と優勝争いを繰り広げており、今シーズン最大のサプライズと形容できるほどの大躍進を見せている。
リーグ優勝に向けた戦いが続く中で、今後はチーム全体により強いプレッシャーがかかってくる可能性もある。そうなれば、若手の多いチームに豊富な経験を還元できるベテランの存在は非常に大きなものとなってくることだろう。自身8度目となるリーグ優勝を勝ち取るため、37歳を迎えた熟練の名捕手は、これからも明るく、そして頼もしく、チームを盛り立てていってくれるはずだ。
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