今や希少な記録となった「200勝」。あと10勝に迫る田中将大は今季中に達成なるか?

パ・リーグ インサイト 望月遼太

東北楽天ゴールデンイーグルス・田中将大投手 (C)パーソル パ・リーグTV
東北楽天ゴールデンイーグルス・田中将大投手 (C)パーソル パ・リーグTV

日米通算200勝の大台まで、あと10勝

 30日、北海道日本ハム戦に先発する東北楽天の田中将大投手は、2022年終了時点で日米通算190勝を記録している。昨シーズンも9勝をマークしていたことを考えれば、残り10勝に迫った日米通算200勝の大記録が、2023年中に達成される可能性は十二分にあるだろう。

 投手分業が進んだ現代野球においては、通算200勝に到達する投手の数は減少傾向にある。1990年以降に通算200勝(日米通算も含む)に到達した投手は、北別府学氏、工藤公康氏、山本昌氏、野茂英雄氏、黒田博樹氏のわずか5名。さらに、2000年以降にプロ入りして通算200勝に到達した投手は、現時点で一人も存在しない。

 それだけに、2007年にプロ入りした田中将大投手が射程圏内に捉えている金字塔には大きな価値があるといえよう。今回は、田中投手の球歴、各種の指標、結果球の割合などのデータを紹介。各種のデータや投球スタイルの変化から見えてくる期待感を確認するとともに、近年では非常に高いハードルとなった200勝の達成に期待を寄せたい。

高卒1年目から順調に白星を積み上げ、2013年には歴史的なシーズンに

 田中投手がプロ入り後に記録してきた、年度別成績は下記の通り。

田中将大投手 年度別成績(C)PLM
田中将大投手 年度別成績(C)PLM

 田中投手は駒大苫小牧高校時代に甲子園で優勝投手となり、2006年の高校生ドラフトで4球団競合を経て東北楽天に入団。プロ1年目の2007年から11勝を挙げ、186.1イニングを投げて196奪三振という高卒新人離れした成績を記録し、新人王のタイトルにも輝いた。

 続く2008年は北京五輪による離脱がありながら9勝を記録し、3年目の2009年には15勝を挙げて球団史上初のAクラス入りに貢献。その後も2桁勝利をマークし続け、2011年には最多勝、最優秀防御率、最優秀投手(現在の最高勝率)、沢村賞に輝く圧巻の投球を披露。続く2012年には最多奪三振を受賞し、名実ともにリーグを代表する投手となっていった。

 そして、2013年は開幕から支配的な投球を見せ続け、24勝0敗1セーブ、防御率1.27という圧倒的な数字を記録。2リーグ制導入後では史上2人目のシーズン勝率10割に加え、最多勝、最優秀防御率、最高勝率、シーズンMVP、沢村賞、正力松太郎賞を受賞。まさに球史に残る伝説的なシーズンを送り、球団史上初のリーグ優勝と日本一の原動力となった。

世界最高峰の舞台でも実績を残し、2021年から古巣に帰還

 同年オフにポスティングでMLBに挑戦し、ヤンキースに入団。米球界1年目の2014年は、故障離脱がありながら13勝を挙げ、防御率2.77と実力を示した。翌2015年もケガに苦しめられたものの12勝を記録し、3年目の2016年はMLBでは自己最多となる14勝を挙げ、最終盤まで最優秀防御率のタイトルを争う活躍を見せた。

 その後も名門ヤンキースの主力投手として奮闘し、MLB初年度から6年連続で2桁勝利を記録。全60試合の短縮シーズンとなった2020年に連続2桁勝利記録は途切れたものの、ポストシーズンではたびたび抜群の勝負強さを発揮し、主戦投手としてチームをけん引し続けた。

 2020年オフに8年ぶりに東北楽天に復帰。復帰後の2年間はともに規定投球回に到達し、防御率3点台と一定の安定感を示している。打線と噛み合わずに2年連続で負け越してこそいるものの、試合を作る能力は健在といえよう。

奪三振率は低下したが、抜群の制球力は現在に至るまで維持

 次に、田中投手がNPBで記録してきた年度別の指標を見ていきたい。

田中将大投手 NPBでの年度別指標(C)PLM
田中将大投手 NPBでの年度別指標(C)PLM

 プロ1年目の2007年から196奪三振、奪三振率9.47を記録し、2011年にはシーズン241奪三振、奪三振率9.58という素晴らしい数字を残した。若手時代は奪三振の多さが持ち味の一つだったが、24勝0敗を達成した2013年の奪三振率は7.77と、意外にもさほど高くはなかった。

 MLB挑戦を経て日本球界に復帰した2021年以降は奪三振率がさらに低下しており、三振を量産するスタイルから打たせて取るピッチングへと、ベテランとなって投球スタイルを転換させたことが見て取れる。

 その一方で、プロ1年目の2007年の与四球率は3.28だったが、2008年と2009年は2点台、そして2010年以降は全て1点台以下と、与四球率は年を経るごとに向上。とりわけ、2011年の与四球率は1.07。そして、2012年の与四球率は0.99と、統一球の影響が色濃く出ていた時期の数字は圧巻だった。

 制球力を示す指標である「K/BB」にも、与四球の少なさは大きく作用している。プロ入りから2年間のK/BBは2点台後半だったが、3年目以降は全ての年で、優秀とされる水準の3.50を上回っている。中でも、2011年と2012年はともに8点台後半という圧倒的な数字を残しており、この時期の傑出ぶりが示されている。

 すなわち、投高打低の環境では持ち前の制球力の高さを活かして積極的に打者と勝負し、多くの三振を奪ってきたということだ。2022年のパ・リーグも投高打低の傾向が見られたこともあり、10年前の環境と、それを活かした投球術を知る田中投手が、来季以降にさらなる安定感を見せる可能性もあるかもしれない。

MLBの強打者たちを相手に真っ向勝負を挑み、優れた数字を残してきた

 続いて、MLBにおける田中投手の年度別指標を確認しよう。

田中将大投手 MLBでの年度別指標(C)PLM
田中将大投手 MLBでの年度別指標(C)PLM

 先述の通りに2013年の奪三振率は低下していたが、MLB挑戦を境に再び上昇に転じた。MLBで過ごした7年間のうち、投球回を上回る奪三振数を記録したシーズンは3度存在。さらに、通算の奪三振率は8.46と、NPBにおける平均値を上回っている。

 それに加えて、7シーズン全てで与四球率は2.10未満、そのうち5年間は1点台と、持ち前の制球力も発揮されていた。容易に四球を出さず、真っ向勝負でMLBの強打者たちを抑え込んできた点に、田中投手のピッチャーとしての凄みがあるといえよう。

 さらに、K/BBも7シーズン全てで3.50を上回り、そのうち6シーズンが4.50以上と、こちらも抜群の数字を記録。WHIPも7年間の平均が1.13と、一般的に優秀とされる1.20を下回っている。世界最高峰の舞台においても田中投手が優れた投球内容を見せていたことが、これらの数字からもうかがえる。

7つの球種を制球よく投げ分ける、卓越した引き出しの多さを誇る

 最後に、田中投手が2022年に記録した結果球の割合を紹介する。

田中将大投手 2022年の結果球球種割合
田中将大投手 2022年の結果球球種割合

 以前に比べると球速は低下したものの、それでもストレートの最速は150km/hを上回る。それに加えて、140km/h台で鋭く落ちるスプリット、130km/h台前半で縦に大きく曲がるスライダーの2球種は、MLBでも効果を発揮した、「伝家の宝刀」と形容できるボールだ。

 さらに、140km/h台中盤の小さく変化するツーシーム、140km/h前半の手元で動くカットボール、130km/h中盤のチェンジアップ、110~120km/h台のカーブと、多彩な球種をいずれも制球よく投げ分けられる引き出しの多さも、田中投手の非凡な点といえよう。

日米の球界を席巻した大エースは、新シーズンに金字塔へ到達できるか

 K/BB、与四球率、WHIPといった各種の数字が示す通り、田中投手は現在も一線級の実力を維持している。若手時代とは異なる投球スタイルに転換したものの、技巧派としても十二分に成功できるだけの卓越した制球力と引き出しの多さを備えるだけに、短期間で急激に成績を落とすことは考えづらい。

 パ・リーグ、そして大リーグで活躍を見せた大エースは、2023年に日米通算200勝の金字塔へ到達できるか。酸いも甘いも嚙み分けた右腕が新シーズンに見せる投球は、これまで以上に要注目となることだろう。

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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