本拠地・高雄澄清湖球場で始動!林統括コーチは「3年以内の優勝」の目標掲げる
今年3月2日、台湾プロ野球を運営するCPBL(中華職業棒球大聯盟)と「加盟意向書」を締結、4月末、審査を経て正式にリーグ加盟が認められ、6月8日に加盟セレモニーを行った台湾プロ野球第6の球団「TSGホークス(台鋼雄鷹)」が、9月24日、「CAMP IN KAOHSIUNG」 のスローガンのもと、本拠地である台湾南部、高雄市の澄清湖球場で始動した。
OBをコーチ陣に迎え、2019年にリーグに再参入した第5の球団、味全ドラゴンズが実質的には「復活」であったのとは異なり、完全にゼロからのチームづくりとなるTSGホークスは、3月末、元CPBL職員で、日本球界とのさまざまなパイプをもつ「日本通」の劉東洋氏がGMに就任した。6月には、モンキーズ(lamigo及び楽天)でいずれもヘッドコーチを務めるなど、豊かな指導経験をもつ林振賢氏が統括コーチに、そして7月には、統一7-11ライオンズで監督経験をもつ、CPBLの通算盗塁記録保持者、黄甘霖氏が外野守備コーチに就任した。
原石を発掘しようと、CPBL新人トライアウトとは別に独自の新人トライアウトを実施、7月11日のドラフト会議では30人の選手を指名した。このうち29名と契約、さらに育成扱いで3名と契約し、合計32名が初代メンバーとなった。
9月24日のキャンプ初日には、アメリカから帰国し隔離中だったU18ワールドカップ代表の3名、兵役中の1名を除く28名が参加、熱心な野球ファンもつめかけた中、選手たちはプロになった喜びと緊張とが入り混じった初々しい表情でキャンプインセレモニーに臨んだ。
あいさつに立ったTSGグループの謝裕民会長が「5年以内の優勝」を目標に掲げ、王炯棻球団董事長が「3年以内のプレーオフ進出」をつけ加えた中、現場を預かる林統括コーチは、フロントが十分な時間を与えてくれることについて感謝しつつ、選手にとってはプレッシャーこそが力になると強調、「3年目でのプレーオフ進出では少し遅い」として、自身の経験をもとに「昔、lanewベアーズ(楽天モンキーズの前身)は、ここ高雄を本拠地として、3年目で優勝した。みんな3年以内に優勝しようじゃないか」と呼びかけ、ファンの喝采を浴びた。セレモニー、簡単な練習を終えた後には、サイン会やグッズ販売も行われ、ファンと交流をおこなった。
TSGホークスは、来季はまず二軍公式戦に、2024年シーズンからは一軍公式戦に参入する。残り一年半の期間、ベースとなる戦力の底上げをしながら、ハード面の改善・強化を進め、興行面でもゼロからファン、スポンサーの開拓をしていていかなければならない。残された時間はそれほど多くはなく、劉GMは目の回る忙しさとなるだろう。
不祥事によるチーム減以来、6チーム体制の復活は、台湾プロ野球や野球ファンにとっての悲願であった。TSG自身の努力はもちろんだが、CPBLや地元・高雄市政府も協力し、盛り上げていってもらいたい。林統括コーチが優勝目標として掲げた3年目、2026年シーズン、TSGホークスがどのようなチームに成長しているのか、そして、澄清湖球場がどのような球場に生まれ変わっているのか、今から楽しみだ。
豪華コーチ陣! 侍ヘッドトレーナーが顧問、井端弘和氏が客員コーチ、あの懐かしの「助っ人」も
最高齢で25歳、高卒選手はじめ10代の選手も多いTSGホークスにとっては、何よりも育成が重要だ。劉GMの話からも、指導者の人選、育成に対する重視ぶりがうかがえる。GM就任時点で、日本人指導者の招聘プランを明らかにしていた劉GMは、8月の末、チームがスタートをきる秋季キャンプに、客員守備コーチとして井端弘和氏を招くことを発表した。
劉GMは、現役時代、日本球界を代表する守備の名手として知られた井端氏を招聘した最大の理由について、今年のドラフト会議で1巡目1位で指名したショートの曾子祐を始めとした内野手の守備強化を挙げた。また、バントや走塁の技術についても自身の経験を伝えてほしいと期待を示した。
井端氏はこの10月初旬にも来台、隔離終了後、8日にも指導を開始すると伝えられている。曾子祐も、井端氏から日本式守備の基本技術や、きめ細やかさを学びたいと期待している。今回は2週間の滞在が予定されているが、劉GMは、来春も機会があればと「井端講座」の定例化を希望している。
9月1日には、投手コーチとバッテリーコーチ、客員投手コーチと客員内野守備コーチ、4コーチの就任発表を行った。このうち、曹竣崵客員投手コーチはかつて中日ドラゴンズで、鄭漢禮バッテリーコーチは、かつてクラブチーム「サムライ那覇」でプレーした経験をもつ。
さらに、9月16日、公式フェイスブックに、「かつて台湾プロ野球で旋風を巻き起こしたあの男が高雄に帰ってくる」と投稿、「豊富な国際経験」、「簡単に三振をしない男」などのヒントもタグ付けされたため、一体誰だろうと、ファンの中で大きな話題となった。
監督が決定していないこと、また現役時代の三振数の少なさから、現在、富邦ガーディアンズで顧問をつとめる名将、洪一中氏の監督就任発表を予想する声も出たが、劉GMはこれを否定、翌17日に発表されたのは、1997年には読売ジャイアンツでもプレーした、ドミニカ共和国出身、ルイス・デロスサントス氏の打撃コーチ就任であった。
現在55歳のデロスサントス氏は、台湾プロ野球では「路易士(ルイス)」の登録名で、1994年から1996年の期間、呉念庭(埼玉西武)の父、呉復連氏らと共に兄弟エレファンツ(中信兄弟の前身)でプレー。穴の少ないスプレーヒッターで、3シーズン平均打率.361、首位打者1回、最多安打2回、
サードでベストナイン2回と活躍、22試合連続ヒット、89打席連続無三振など数々の台湾プロ野球記録も打ち立てた。
こうした好成績を評価し読売が獲得、系列紙が「台湾のイチロー」と期待したものの、日本では適応に苦しみ、一軍では結果を残せなかったが、翌1998年、台湾球界に復帰、もうひとつのリーグTMLで高雄エリアを本拠地とする雷公に入団すると、103試合で.打率358、リーグ1位の143安打、96打点と活躍した。結局、両リーグ通算、5シーズン462試合で、打率.353、88本塁打、365打点をマーク、台湾のファンにとっては、レジェンド外国人選手のひとりだ。
韓国やメキシコ、イタリアなどでもプレーした後、指導者に転じ、ミルウォーキー・ブルワーズのマイナーリーグなどで主に打撃コーチとして活躍、近年は、母国の野球スクールのファームマネージャーで20歳前後の選手の指導を担当していたといい、まさに若いホークスナインの指導者として適任といえる。
球団は、選手たちにバッティングに対する様々な考え方を植え付け、潜在能力を引き出してほしいと希望、本人も「現役時代とてもよくしてくれた台湾の人々に恩返しをしたいと常に考えていた」と話し、すでに選手たちの映像をチェック、自らの打撃技術を全て伝えたいと意気込んでいる。
TSGホークスはさらに、9月22日、30年以上のキャリアをもつ野球日本代表のヘッドトレーナー、河野徳良氏の国際顧問就任を発表。河野氏は球団トレーナー、フィジカルコーチなどの統括、人材育成のサポートのほか、将来的には、河野氏の出身校である日本体育大学との提携も検討しているという。河野顧問もキャンプに参加、選手たちはさっそく体幹強化を目的とした厳しいフィジカルトレーニングを課せられており、悲鳴をあげながら充実した表情をみせている。
台湾の「若鷹軍団」 さらなる日本人コーチの招聘を予定 日本チームとの交流プランも
劉GMはキャンプ初日、国際顧問の河野氏、客員コーチの井端氏に加え、日本人のトレーニングコーチを1名招聘することを発表、10月末から11月初旬にかけて来台予定だと説明した。このコーチは、かつてメジャーリーグでプレーした某有名日本選手の専属トレーナー兼トレーニングコーチだという。また、来年の春季キャンプで、投手コーチと守備コーチとして、日本人指導者をさらに2名招聘する予定であることも明らかにした。
メディアから、TSGホークスは「日本スタイル」のチームかと問われた劉GMは、否定はせず、こうした方針は、謝TSG会長や王球団董事長との話し合いを経て導き出されたものであると説明した。ただ、アメリカと日本、どちらのスタイルが良いかという話ではなく、各スタイルから台湾の野球、TSGホークスの選手たちに適したモデルをいかにしてみつけだすかどうかが重要だ、と強調している。
劉GMはまた、日本プロ野球チームとの交流プランを明かした。台湾はここにきてようやく、水際対策緩和、国境開放に向け大きく動き出した段階ということもあり、今年の秋冬、来年年初のタイミングでの交流は準備期間の問題で困難だというが、来年の秋季キャンプ期間の交流については、すでに青写真を描いており、進展があった段階で公表したいとしている。
選手たちには、一流コーチ陣の指導の下、めきめきと実力をつけてもらい、2024年シーズン、台風の目となることを期待したい。読者の皆さんにも、「日本通」GMが率い、日本人指導者や日本と縁のあるコーチが鍛える、台湾の「若鷹軍団」TSGホークスの動向について、ぜひ注目していただきたい。
文・駒田 英
写真提供・CPBL
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