台湾プロ野球、投打共に安定の楽天モンキーズが前期優勝 日本人コーチ陣加入もプラスに

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2022.7.30(土) 07:00

前期優勝を果たした楽天モンキーズの選手たち(C)CPBL
前期優勝を果たした楽天モンキーズの選手たち(C)CPBL

「楽天」が地元ファンの前で悲願の半期初優勝! コロナ禍で激動の前期シーズン制す

 前後期60試合制の台湾プロ野球、前期シーズンの優勝マジックを1としていた楽天モンキーズは7月10日、本拠地、楽天桃園球場で味全ドラゴンズと対戦した。今季最多、12529人のファンがつめかけた試合は3回表、味全に先制を許したものの、すぐにその裏、林立、成晉の連続タイムリーで3-1と逆転、先発、元横浜DeNAの王溢正が5回2失点と試合をつくると、朱俊祥が6回、7回を、そして8回は陳禹勳が無失点で抑え、史上初の「通算100(118)セーブ&100ホールド」を達成、1点差を守った。

 楽天は8回裏、打者11人の猛攻で一挙7点を奪い10対2と勝負を決めるも、9回表のマウンドにはクローザー、かつて広島でもプレーしたヘーゲンズが上がった。6球で2アウトを奪ったヘーゲンズは、最後の打者、郭天信のどん詰まりのゴロをつかむと、ファーストへ下手投げでトス、この瞬間、楽天の前期優勝が決定、大歓声の中、チームカラー、クリムゾンレッドの紙テープが一斉に投げ込まれた。

 楽天は開幕からロケットスタートを切り、5月19日には、史上3位タイとなる28試合目での20勝到達、優勝は濃厚と思われた。しかし、台湾で新型コロナウイルスの市中感染が急拡大していた中、地方遠征なども重なり、チーム内でクラスターが発生、1軍の選手・指導者がほぼ全員感染する事態に見舞われた。チームは失速し、6月13日には2位、統一セブンイレブンライオンズとのゲーム差は0に。しかし、ここで首位の座を死守すると、離脱組の復帰もあり次第に復調、最後は統一との天王山2連戦に連勝するなど4連勝で逃げ切った。

 前期シーズンは、各チーム、コロナによる離脱や主力の負傷といった不測の事態に翻弄された。こうした中、楽天と優勝を争ったのは統一と中信兄弟であった。

 統一は、開幕前後に主力選手が相次いでケガで離脱、大幅な戦力ダウンの中、代役が奮起し健闘をみせたものの、いざ首位奪取というタイミングで、6勝無敗でチームの勝ち頭だったオンドルセク(元東京ヤクルト)が離脱する不運、2ゲーム差で迎えた7月8日、9日の天王山でも連敗し、一歩及ばなかった。

 昨年、手堅い野球で台湾王者となった元阪神、林威助監督率いる中信は、昨季の躍進を支えたブルペン陣が不振に陥り、投手の運用に悩まされる事になった上、打撃陣も長打力不足に泣いた。

 前期シーズンは首位から4.5ゲーム差の2位で終えた中信だが、前期重用してきた外国人先発三本柱のうち、7勝のモリマンドが7月10日にKBOへ移籍、5勝のスタンキビッチが7月15日、家庭の事情により帰国と、ここに来て相次いで2人が退団、新外国人加入まで台湾人先発投手の奮起が必須となる。7月12日に1軍へ昇格した元東北楽天の牧田和久は、前期は2試合に登板し、1回1/3、被安打5、2失点とまだベストコンディションとはいえないが、まずは中継ぎでチームの窮状を救う活躍が求められる。

 台湾プロ野球では今季から、台湾シリーズ進出をかけたプレーオフが毎年実施されるようになった。前後期の優勝チームが同じ場合は年間勝率の2位と3位のチームが対戦、前後期の優勝チームが異なる場合は、優勝2チームのうち勝率の低い方の優勝チームと、残り3チームのうち年間勝率が最も高いチームが対戦する。22日からスタートする後期シーズンも、熱戦が期待される。

歓喜に沸くナイン(C)CPBL
歓喜に沸くナイン(C)CPBL

投打噛み合い、「楽天人脈」による日本人指導者加入も大きな鍵

 楽天モンキーズの前期の戦いぶりに話を戻そう。「暴力猿打線」と呼ばれる強力打線が売りのチームである楽天は、公式使用球の反発係数低下を受け、今季、各チームが外国人野手を獲得した中、唯一、外国人選手を投手のみで揃えた。

 この前期シーズン、林泓育、陳俊秀、朱育賢の主砲3人の調子が今ひとつだったが、前期、打率.350、8HR、52打点で打撃三冠王、「台湾の山田哲人」の異名を持つ林立、そして、打率3位、盗塁はリーグトップの16盗塁と、今季ブレイクした成晉らがチームを牽引、伏兵も活躍し、リーグ随一の打線を構成した。

 投手陣もハーラートップ8勝のコービー、6勝1敗、防御率2.20の黄子鵬ら先発陣が安定、ローテ陣で7割近い勝率をあげたほか、ホールドランキングトップ2の陳禹勳と朱俊祥、リーグトップ17セーブ、防御率0.97の守護神ヘーゲンズなどブルペン陣も踏ん張り、防御率は2.92とリーグ唯一2点台をマークした。ケガやコロナで長期離脱した昨年のドラフト組、元千葉ロッテの陳冠宇や元メジャーの曾仁和が後期、期待通りの働きをすれば、投手陣はさらに盤石となるだろう。

 楽天グループは2019年9月、球団身売りを発表していたlamigoモンキーズを買収、ファンの思いを尊重し、本拠地・桃園の「園」と同じ音である「猿」が由来のチーム名を残し、「楽天モンキーズ」に生まれ変わった。モンキーズは2017年前期から2019年前期まで5期連続優勝、2017年から2019年まで台湾シリーズで3連覇しており、豊富な資金をもつ親会社への売却で「楽天王朝」への期待は高まった。しかし、予想に反し、一昨年、昨年と、半期優勝、台湾シリーズ出場をいずれも逃す結果となった。その為、楽天にとってこの半期優勝は「至上命令」に近い形であった。

 前身のlanew、lamigo時代、チームを7回の台湾一に導いた名将、洪一中監督からチームを引き継いだ曾豪駒・監督にとっても初の半期優勝となった。試合後、涙をにじませながら「2年間待って、ようやく手に出来た。次の目標は台湾王者だ」と語った曾監督の姿からは、同監督が抱えてきたプレッシャーの大きさが垣間見えた。

 楽天モンキーズは、外資が親会社の球団として半期優勝を果たした初のチームとなった。川田喜則・副董事長は、コーチ陣や選手の奮闘に加え、春季キャンプ前から綿密な戦略を立て、これをしっかり執行できたことが大きかったと振り返り、今後も補強の手を緩めないと強調、東北楽天ゴールデンイーグルスと共に、この秋、日台の「楽天」が頂点に立つことを希望した。

 そして、今回の前期優勝の大きな鍵と言われているのが、「楽天人脈」による日本人指導者の加入である。昨年10月、まず川岸強氏が投手コーチに就任、一、二軍を巡回し投手力の見極めを行うと、今季は二軍投手コーチに就任し、若手の底上げを図った。

 また今季から、昨季まで3年間、同じ台湾プロ野球の富邦ガーディアンズでバッテリーコーチを務めていた古久保健二氏が一軍ヘッドコーチに、西村弥氏が一軍の守備走塁コーチに就任した。曽豪駒・監督も、特に走塁や守備面の意識、そして戦術実行において、日本人コーチのサポートは大きかったと感謝した。次回は、曾・監督を支えた古久保健二一軍ヘッドコーチのインタビューをお届けしよう。
                                                       文・駒田英

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駒田英(パ・リーグ インサイト)

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