プロ19年目、40歳のシーズンに現役引退を表明した内海投手
埼玉西武の内海哲也投手が、8月16日に今季限りでの現役引退を表明した。プロ19年目のシーズンを送っている内海投手は、今季から投手兼任コーチとしてプレー。若手投手にとっては文字通りの生きた教材であり、これまで培ってきた豊富な経験をチームに還元してきた。
また、今季は2度の中継ぎ登板でいずれも無失点と好投を見せており、その実力もまだまだ健在だ。巨人時代に幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた内海投手の力が、優勝争いを繰り広げるチームにおいて、これから必要とされる可能性も十分にあるはずだ。
今回は、そんな内海投手が送ってきた19年間の現役生活を振り返るとともに、その存在が埼玉西武にもたらしたものについて、あらためて紹介していきたい。
巨人のエースとして長年活躍。2011年はまさに圧巻の投球を披露
内海投手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。
内海投手は東京ガスから、2003年のドラフト自由枠で巨人に入団。入団から2年間は防御率5点台と苦しんだが、3年目の2006年に12勝を挙げ、防御率2.78とブレイクを果たす。続く2007年には14勝を記録し、自身初タイトルとなる最多奪三振も獲得した。
この活躍によって主戦投手の座を確固たるものにすると、同年から2013年までの8年間で7度の2桁勝利を記録。注目度とプレッシャーの大きな巨人という球団にあって、エースとしての重責を担いながら結果を残し続けた。
とりわけ、2011年は自己最多の18勝を挙げ、自身初の最多勝を受賞。続く2012年も15勝を挙げ、2年連続で最多勝に輝く快挙を達成した。この2年間は統一球導入の影響で投高打低の傾向が強まっていたとはいえ、2年続けて防御率1点台とその安定感は際立つもの。新たな環境にいち早く適応し、出色の投球を見せていたといえよう。
移籍後はケガに悩まされたが、今季は金字塔にも到達
リーグ全体の打撃成績が向上した2013年にも、13勝を挙げて防御率3.31と、2010年以前と同様の安定した数字を記録。だが、2014年は防御率3.17と一定の投球内容を示しながら7勝に終わり、その後は2桁勝利には手が届かないシーズンが続くことになった。
それでも2016年には9勝をマークして復活を印象付け、2018年も5勝をマーク。先発の一角として随所でベテランらしい投球を披露していたが、2018年オフにFA移籍した炭谷銀仁朗選手の人的補償として、埼玉西武に移籍する運びとなった。
新天地でも先発として活躍が期待されたが、2019年は故障の影響で一度も一軍登板を果たせず。戦列に復帰した2020年以降も一軍ではやや安定感を欠き、登板機会は限定的だった。しかし、今季は5月7日の試合で先発として5回1失点と好投し、史上92人目となる通算2000投球回を達成。先述の通りリリーフでも好投を見せ、復調を印象づけている。
抜群の制球力が、投球スタイルの転換を可能に
次に、内海投手がこれまで記録した年度別の指標を見ていきたい。
2004年から2007年までの4シーズンのうち3年間で、奪三振率が8.30を超えていた。2007年にはセ・リーグの最多奪三振に輝いており、若手時代は多くの三振を奪うタイプの投手として活躍を見せていた。
しかし、2009年には防御率2.96とすぐれた投球内容を示した一方で、奪三振率は5.76と大きく低下。このシーズンを境に打たせて取る投球にシフトしていき、2011年以降の奪三振率は全て6点台以下となっている。それでいて成績が下降することはなく、むしろ2011年と2012年は抜群の数字を記録。モデルチェンジは奏功したと言えるだろう。
そうした投球スタイルの変化を可能にしたのは、内海投手が持つすぐれた制球力だ。実働17年間のうち、与四球率が2点台以下だったシーズンは実に15度。また、与四球率が1点台だったシーズンも、今季を含めて5回存在する。これらの数字は、先発投手としては破格に近い安定感となっている。
持ち前のコントロールは、特殊な環境でも?
1イニングごとに出した走者の数を示す「WHIP」に目を向けると、20試合以上に登板してきた2005年から2014年までの10シーズンのうち、平均値とされる1.25を下回った年が6度、1.30以下の年は8度と、安定した水準を維持してきた。
キャリアを通じて被打率と防御率の間に一定の相関性が見て取れることもあり、打たせて取る投球を展開するがゆえに、被打率の高低に投球内容が左右されてきたことは否めない。しかし、内海投手の特徴でもある四球の少なさによって、出した走者の数自体は総じて抑えられていた、という点も、内海投手の安定感に寄与したと考えられる。
また、統一球が導入された直後の2011年から2012年にかけて、抜群の投球を見せていた点も示唆的だ。ボールが飛びにくいとされる環境下においては、ストライクゾーン内で積極的に勝負しても、痛打を浴びる可能性は低くなる。すなわち、内海投手がすぐれた制球力を持っていたからこそ、その環境を大きな追い風にできたということにもなろう。
制球に課題を抱える若手投手にとって、内海投手は文字通りの活きた教材
今季の埼玉西武が記録しているチーム防御率(2.63)は、現時点でパ・リーグトップの数字だ。だが、358個の与四球と、与四球率3.02は、いずれもパ・リーグで2番目に多い。そんな中で、エースの高橋光成投手(与四球率2.77)と、與座海人投手(同0.98)の2名は、いずれも若くしてすぐれた制球力を発揮している頼もしい存在だ。
しかし、松本航投手(与四球率3.13)と、隅田知一郎投手(同3.15)は、チーム平均の与四球率をわずかに上回っている。そして、佐藤隼輔投手(同4.00)、今井達也投手(同5.57)、渡邉勇太朗投手(同7.43)のように、明確に制球面を課題としている若手投手も決して少なくはない。
その一方で、内海投手は今季の与四球率が1.54、K/BBはキャリア最高の4.00と、40歳という年齢を感じさせない制球力を維持し続けている。一軍で登板機会が得られない時期であっても真摯に野球と向き合う姿勢も含め、二軍で研鑽を積む若手にとっては、まさに多くを学べる存在といえよう。
多くの人に慕われた人格者。後輩たちは最後に胴上げで送り出したい
内海投手は巨人時代に主力として6度のリーグ優勝を経験し、2012年には日本シリーズMVPにも輝いた実績を持つ。だが、移籍初年度の2019年に埼玉西武は優勝を果たしたものの、自身は故障の影響で一軍登板を果たせなかった。今季は内海投手がライオンズの一員として、優勝を経験するための、文字通りのラストチャンスとなっている。
すぐれた人間性を物語るエピソードには事欠かない、多くの人に慕われた人格者。長きにわたった現役生活の最後の1年において、リーグ優勝を置き土産とすることができるか。内海投手から教えを受けた後輩投手たち、そして何より内海投手本人の奮闘に、大きな期待を寄せたいところだ。
文・望月遼太
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