現代野球では希少となった、「アンダースローの先発」を継ぐ存在だ
埼玉西武の與座海人投手が8月13日の試合で9勝を挙げ、2桁勝利目前となっている。アンダースローの先発投手は、現代野球では希少な存在。それだけに、抜群の安定感を見せてシーズン途中からローテーションを守り続けている與座投手は、ひときわ目を引く存在だ。
では、そんな與座投手の投手としての持ち味は、いったいどこにあるのだろうか。今回は、與座投手のこれまでの球歴や、変化球の割合といった要素を確認。加えて、その投球内容に基づく指標における、とある「驚異的な数字」についても、詳しく紹介していきたい。
プロ1年目に直面した大ケガを乗り越え、ついに大ブレイクを果たしつつある
これまで與座投手が記録してきた、年度別成績は下記の通り。
與座投手は沖縄尚学高校から岐阜経済大学を経て、2017年のドラフト5位で埼玉西武に入団。だが、プロ1年目の2018年は、右ひじの故障によって一軍・二軍を通じて一度も登板できず。同年10月にトミー・ジョン手術を受けたこともあり、オフには育成選手としての再契約を結んだ。
いきなり大きな試練に直面した與座投手だが、翌2019年には早くも二軍で実戦復帰を果たし、同年オフには支配下に復帰。そして、続く2020年には開幕前の対外試合で好投を続け、見事に開幕ローテーション入りを勝ち取ってみせた。
開幕後は3試合続けて5回2/3以上を投げて3失点と試合を作っていたが、なかなか勝ち星には恵まれず。それでも、7月23日に5回2失点と好投を見せてプロ初勝利をマークし、続く登板も5回無失点で2連勝。先発陣への定着が期待されたが、8月に入ってからは2試合続けて序盤でノックアウトされ、その後は一軍での登板を果たせなかった。
続く2021年は主に中継ぎを務めたものの、シーズン終盤には先発として4試合続けて5回以上を投げ、いずれも2失点以下と安定した投球を披露。2022年に入ってからも好調は続き、自身2度目の開幕ローテーション入りを果たした。しかし、今季初登板となった3月31日の試合では4回0/3を4失点とチャンスを生かせず、二軍での再調整を余儀なくされた。
しかし、4月26日に再び一軍に昇格すると、4月28日の試合で先発のバーチ・スミス投手が故障で降板したことを受けて急遽マウンドへ。緊急登板ながら3回2/3を1失点にまとめて今季初勝利をマークすると、そのまま先発に復帰。7月30日にはプロ初完封を無四球で達成する離れ業を演じるなど、好投を続けて先発陣に欠かせないピースとなりつつある。
奪三振率は決して高くはないが、それを補って余りある長所を持っている
次に、與座投手が記録した年度別の指標を見ていきたい。
これらの指標の中でも特に注目したいのが、2022年における圧倒的な与四球率の低さだ。与四球率は9イニングを投げた場合に、平均で何個の四球を与えるかを示す指標。すなわち、今季の與座投手は9回を完投したとしても、1試合で1個しか四球を出さないことになる。先発としてこれだけの数字を残す投手は極めて稀で、まさに驚異的な水準といえる。
その一方で、今季の奪三振率は4.81、通算でも5.08とかなり控えめな数字で、典型的な打たせて取るタイプの投手と言える。そうなれば被打率の重要性も高まるが、2020年は被打率.311と打ち込まれ、防御率も5.45と苦しんだ。しかし、2021年以降は被打率が.222前後と大幅に改善されており、その影響が防御率にもダイレクトに反映されている。
抜群の制球力と被打率の改善により、そもそも走者を出すこと自体が稀に
奪三振を与四球率で割って求める、制球力を示す指標の「K/BB」は、一般的に3.50を上回れば優秀とされている。先述の通り、與座投手の奪三振数は多くない。それにもかかわらず、2022年のK/BBは4.64と、極めて優秀な水準に到達。與座投手の制球力が群を抜くものであることが、この数字にも示されている。
そして、与四球率と被打率の双方が大きく改善されたことにより、1イニングごとに出した走者の数を示す「WHIP」も年々向上を続け、2022年は1イニング1人未満となっている。そもそも走者を出すケースが少ないからこそ大量失点の可能性も低いという、好循環が生まれているのだ。
さまざまな球速の変化球を使い分け、打者を文字通り手玉に取っている
最後に、與座投手が2022年に記録している、結果球の割合を見ていきたい。
與座投手は120~130km/h台の速球に加え、スライダー、シンカー、チェンジアップ、カーブといった多彩な球種を操る。その中でも、割合としてはストレートが約55%と半数以上を占めており、あくまで投球の軸は速球であることがうかがえる。
また、スライダーとシンカーという逆方向に曲がる2つの球種は、それぞれ約120km/h前後というほぼ同じ速さで変化する。スライダーは24.8%と全体の約1/4に達し、シンカーも8.6%と一定の頻度で投じている。速球に近い球速から変化を見せるこの2球種は、打たせて取る投球に非常に適している。それだけに、決め球に使う割合が多いのも納得だ。
また、この2球種よりも少し遅い110〜120km/h台のチェンジアップに加え、時には100km/hを下回ることもあるカーブも、投球のアクセントとして用いている。カーブは約9%と、結果球となる割合はシンカーよりも多い。與座投手としても、独特のスローカーブには一定の信頼を置いていると考えられる。
速球を軸としながらさまざまな変化球を使い分け、あらゆる球がストライクゾーン内に制球される。打者としては幅広い球速帯に備えなければならず、狙い球が外れると打ち損じの可能性が高くなってしまう。これらの数字からも、優れたコントロールを生かした緩急自在のピッチングで凡打の山を築き、文字通り打者を手玉に取っていることが伝わってくる。
本格派が多い中で異彩を放つ與座投手は、今後のチームにとっても大きな存在だ
待球をしても四球になる可能性は非常に低く、かと言って早打ちに出ればその術中にはまる。下手投げから繰り出される独特の球筋も相まって、相手打線にとっては非常に対策の打ちづらい投手となっている。今回紹介したさまざまなデータを見る限りでは、その投球は打たせて取る投球の到達点の一つと言えるかもしれない。
現在の埼玉西武の先発陣には與座投手の他にも若きホープが多いが、高橋光成投手、松本航投手、今井達也投手のように、投球スタイルとしては本格派に分類される投手が多い。ローテーションの面でも緩急をつけられる與座投手の台頭は、今後の投手陣を占ううえでも非常に大きな要素となってきそうだ。
2018年にライオンズに入団した與座投手だが、故障の影響で同年からのリーグ連覇には貢献できなかった。苦しいリハビリを乗り越え、一回りも二回りも大きくなったサブマリンは、優勝争いを繰り広げるチームの先発陣を支える存在の一人となっている。今季こそは、自らの活躍によってチームに歓喜をもたらすことができるか。残りのシーズンも、その変幻自在のピッチングに要注目だ。
文・望月遼太
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