交流戦導入により、記録達成へのハードルは下がったが……
東北楽天の岸孝之投手が、6月9日の広島戦において、史上19人目となる全12球団からの勝利を達成した。2005年のセ・パ交流戦導入以前においては、12球団から勝利を挙げるためには、最低でも両リーグで2球団ずつに在籍する必要があった。しかし、交流戦開始以降は2球団への在籍で達成できるようになり、達成へのハードルは以前よりも低下している。
しかし、「パ・リーグ球団への在籍のみ」での達成となると、岸投手も含めてこれまでわずか3名と、かなり希少な記録となってくる。今回は、この記録を達成した3投手の経歴と活躍を振り返るとともに、将来の記録達成が期待される投手たちも紹介していきたい。
涌井秀章(西武・埼玉西武→千葉ロッテ→東北楽天)
涌井秀章投手は横浜高校から、2004年のドラフト1巡目でライオンズに入団。高卒2年目の2006年に12勝を挙げてブレイクすると、2007年には高卒3年目で最多勝のタイトルを獲得。その後もリーグ屈指の先発投手として活躍し、2009年には自身2度目の最多勝に加え、沢村賞の栄冠にも輝いている。
2013年オフにFA権を行使し、地元球団でもある千葉ロッテに移籍。この時点で埼玉西武を除く11球団から勝利を挙げていた涌井投手は、2014年4月15日の古巣・埼玉西武戦で移籍後初勝利を挙げ、同時に全12球団からの勝利を記録。一つのリーグの球団だけに所属しての記録達成は、史上初の快挙でもあった。
千葉ロッテでは移籍初年度の2014年こそ苦戦したが、在籍2年目の2015年にシーズン15勝を記録し、埼玉西武時代に続いて最多勝のタイトルを手にした。その後もマリーンズのエースとして活躍したが、シーズン3勝に終わった2019年オフに、トレードで東北楽天へと移籍した。
自身3球団目となる東北楽天でも、移籍初年度から存在感を発揮。120試合の短縮シーズンながら11勝を記録し、自身4度目の最多勝を獲得した。異なる3つの球団での最多勝は、こちらも史上初となる快挙となった。今季は不振に終わった2021年からの復調を感じさせる投球を見せていたが、5月に右手を骨折して戦線を離脱。復帰が待ち望まれるところだ。
金子千尋(オリックス→北海道日本ハム)
金子千尋投手は長野商業高校、トヨタ自動車を経て、2004年のドラフト自由枠でオリックスに入団。プロ3年目となった2007年の途中から先発ローテーションに定着すると、翌2008年には自身初の開幕投手を務めて10勝を記録。そこから4年連続で2桁勝利を達成しただけでなく、2010年には自身初の最多勝にも輝いた。
2013年には沢村賞の選考項目7つを全て満たすという快挙を達成したが、同年に田中将大投手が24勝0敗という歴史的なシーズンを送ったこともあり受賞はならず。しかし、翌2014年にも圧倒的な投球を続け、最多勝と最優秀防御率をW受賞。前年は惜しくも逃した沢村賞も、満を持して受賞する運びとなった。
その後は故障の影響もあってやや成績を落としたが、それでも4年連続で防御率3点台を記録し、一定の安定感は維持していた。金子千尋投手は交流戦も含めて長年にわたって活躍してきたこともあり、2018年オフに北海道日本ハムに移籍した時点で、オリックスを除く11球団からの勝利を記録していた。
そして、2019年4月18日に古巣のオリックスから白星を挙げ、史上2人目となるパ・リーグ球団のみでの12球団勝利を達成。同年は先発と中継ぎを兼任して100イニング以上を消化し、8勝2ホールド、防御率3.04とフル回転の活躍を見せた。その後は本領を発揮できないシーズンが続いているが、今季こそは復活を果たせるだろうか。
岸孝之(西武・埼玉西武→東北楽天)
岸投手は名取北高校から東北学院大学を経て、2006年の大学生・社会人ドラフト希望枠でライオンズに入団。ルーキーイヤーの2007年から11勝を挙げて即戦力の期待に応えると、続く2008年にはシーズン12勝を記録し、日本シリーズでは14.2回を無失点という完璧な投球を披露。チームの日本一に大きく貢献するとともに、シリーズMVPも受賞した。
その後も先発陣の軸として活躍を続け、プロ入りから2014年までの8年間で7度の2桁勝利を記録。2014年には自身初タイトルとなる最高勝率を受賞するなど、ライオンズの主戦投手として10シーズンにわたって登板を重ねた。
2016年オフにFA権を行使し、地元球団の東北楽天に移籍。2018年には低迷するチームの中で孤軍奮闘して11勝を挙げ、最優秀防御率のタイトルも受賞した。その後は故障の影響で登板数を減らしたが、2021年は3年ぶりに規定投球回に到達。今季は交流戦終了時点で5勝をマークしており、4年ぶりとなる2桁勝利の可能性も見えてきている。
岸投手は2021年終了時点で広島を除く11球団から勝利を記録していたが、その広島戦は2021年終了時点で11試合に登板し、0勝8敗と大の苦手だった。しかし、6月9日の試合で広島相手に7回無失点と好投し、12試合目にしてついに初勝利を記録。史上3人目となる、パ・リーグ球団のみでの全12球団勝利を達成してみせた。
現時点で、この記録にリーチをかけている2名の投手とは?
現時点で「パ・リーグ球団のみでの12球団勝利」を達成しているのは、今回紹介した3名の投手のみ。だが、あと1球団でこの記録に手が届く投手が、現在のパ・リーグには2名存在している。
千葉ロッテの美馬学投手は2022年の交流戦終了時点で、巨人を除く11球団から勝利を記録している。ちなみに、美馬投手は東北楽天時代の2013年に日本シリーズで巨人と対戦し、2勝を挙げてシリーズMVPに輝いている。ポストシーズンだけでなく、交流戦でも巨人から白星を記録し、また一つ新たな勲章を手にしたいところだ。
オリックスの増井浩俊投手も、現時点で東京ヤクルトを除く11球団から勝利を挙げている。加えて、増井投手は史上わずか5名しか達成者がおらず、パ・リーグ球団のみでの達成は史上唯一となる、「全12球団セーブ」も達成している。さらに、「全12球団ホールド」も既に記録しているため、残すは「全12球団勝利」のみとなっている。
増井投手は2021年、2022年と2シーズン続けて交流戦の東京ヤクルト戦で先発したが、2年続けて5回2失点と試合を作りながら勝利はならず。前人未到の“全12球団勝利・ホールド・セーブ”総なめという快挙に向けて、来季は「三度目の正直」に期待したいところだ。
交流戦以外でセ・リーグ球団から白星を挙げられないだけに、そのハードルは高い
交流戦の導入によって以前よりもハードルが下がったとはいえ、12球団からの勝利が希少な記録であることに変わりはない。ましてや、交流戦以外でセ・リーグ球団から白星を挙げるチャンスが存在しない、パ・リーグの球団のみでの達成となればなおさらだ。
12度目の対戦でついに広島から白星を挙げて快挙を達成した岸投手に続き、来シーズン以降にこの記録へ手が届く投手は現れるだろうか。先述した美馬投手と増井投手も含め、“パ・リーグ一筋での12球団勝利”という快挙が、来季の交流戦における注目のトピックの一つとなる可能性は十分にあるはずだ。
文・望月遼太
関連リンク
・トミー・ジョン手術を乗り越えた投手たち
・リーグトップの防御率を誇る埼玉西武リリーフ陣
・おみやげにオススメ パ・リーグを観戦したら買ってほしいご当地グッズ
・教えて! 鉄平先生! 大人はどうサポートする? 土谷家の場合
・昨季の交流戦が、後半戦に与えた影響は?
記事提供: