トミー・ジョン手術からの復帰には、1年以上の長い期間を要する
選手生命にかかわるケガを克服するための手段として、側副靭帯再建術、いわゆる「トミー・ジョン手術」を選択する投手は少なくない。一般的には復帰まではおよそ1年から1年半ほどの時間を要するとされており、術後は長いリハビリが待ち受けることになる。最近では、オリックスの豪腕・澤田圭佑投手や埼玉西武の高卒4年目捕手・牧野翔矢選手が右肘のトミージョン手術を受けた。
今季のパ・リーグでは、そのトミー・ジョン手術から復帰を果たした投手たちが存在感を放っている。今回は、近年にトミー・ジョン手術を受けた経験を持つ投手の中で、現在一軍で活躍を見せる投手たちの顔ぶれと、各投手の詳細な経歴を紹介していきたい。(成績は交流戦終了時点)
石川直也投手(北海道日本ハム)
石川直也投手はプロ3年目の2017年に37試合に登板して頭角を現すと、続く2018年には開幕からクローザーに抜擢される。シーズン途中に抑えの座から外れる時期もあったものの、52試合に登板して18ホールド19セーブ、防御率2.59という数字を残し、チームのAクラス入りにも大きく貢献した。
続く2019年はセットアッパーとしての登板が主となり、自己最多の60試合に登板。21ホールド5セーブに加え、奪三振率は12.42と圧巻の数字で、勝ちパターンの一員として奮闘を見せた。しかし、2020年に右ひじを故障し、同年8月にトミー・ジョン手術を経験。そこから2シーズンはリハビリが続き、一軍登板は果たせなかった。
それでも2021年オフに実戦復帰を果たすと、2022年は二軍で11試合に登板し、防御率0.82と格の違う投球を披露。この活躍が認められて5月8日に954日ぶりの一軍登板を果たすと、その後も安定感のある投球を続け、再び勝ちパターンの一角を担うように。かつての守護神が公式戦で久々のセーブを記録する日も、そう遠くはなさそうだ。
與座海人投手(埼玉西武)
與座海人投手にとって、プロ1年目の2018年は苦難のシーズンとなった。右ひじの故障によって一軍・二軍を通じて登板できず、10月にトミー・ジョン手術を受け、同年オフには育成契約に。それでも、翌2019年には早くも二軍で実戦復帰を果たし、再び支配下への復帰を勝ち取っている。
3年目の2020年には開幕前の対外試合でアピールに成功し、開幕ローテーション入りを果たす。開幕から3試合続けて試合をつくりながら勝ち星に恵まれなかったが、5試合目となった7月23日の試合で5回2失点と好投し、待望のプロ初勝利を記録。8月に入ってから調子を落として一軍定着は果たせなかったが、貴重な経験を積む1年とした。
続く2021年は中継ぎとしてスタートしたものの、シーズン終盤には先発として安定した投球を披露。その流れは2022年も継続し、先発投手のアクシデントで急遽登板した4月28日の試合で白星を挙げると、そのまま先発の一角に定着。5月17日の試合では地元・沖縄で8回無失点の好投を見せるなど、一気にブレイクを果たしそうな気配を見せている。
西野勇士投手(千葉ロッテ)
西野勇士投手は2008年に育成選手としてプロ入りし、4年目の2012年オフに支配下登録を勝ち取る。翌2013年には先発として9勝を挙げてブレイクを果たすと、リリーフに転向した2014年にはクローザーとして防御率1.86、31セーブという素晴らしい数字を記録。そこから3年間で86セーブを挙げ、チームの守護神として活躍を見せていた。
しかし、2016年途中から右ひじに問題が生じ、2017年からの2年間は本領を発揮できず。それでも、2019年には先発と中継ぎを兼任しながら防御率2.96と復活を見せ、2020年も開幕ローテーション入りが確実となっていた。だが、開幕直前に右ひじを負傷してトミー・ジョン手術を受け、そこから2シーズンをリハビリに費やすことになった。
長い道のりを経て2021年オフに実戦登板を果たし、2022年はリリーフとして開幕一軍入り。安定した投球を続けたことで僅差の試合での登板も増加し、交流戦終了時点で9ホールド、防御率1.80という好成績を残している。守護神時代に見せていたピンチに強い投球を取り戻し、再びチームの投手陣に欠かせないピースとなりつつある。
近藤大亮投手(オリックス)
近藤大亮投手は先発を務めたプロ初年度こそ1試合の登板にとどまったが、2年目の2017年にリリーフとして55試合に登板。セットアッパーに定着して25ホールド、防御率3.07という数字を残しただけでなく、奪三振率11.48と高い奪三振能力を示した。
そこから3年連続で50試合以上に登板し、2018年は奪三振率8.67、2019年は奪三振率11.05と、独力でピンチを切り抜けられる右腕としてフル回転。防御率も3年続けて3点台前半と、苦しい時期が続いたチームのブルペンを支えた。しかし、2020年に右ひじを故障して同年9月にトミー・ジョン手術を受け、オフには育成選手となって再起の道を歩んだ。
昨季の優勝の輪にも加われず、捲土重来を期した今季は二軍での8試合で防御率0.00、奪三振率14.10と圧巻の数字を記録。4月24日に支配下に復帰すると、13試合で6ホールド、防御率0.73、奪三振率9.49と大活躍を見せている。ここまでわずか1四球と課題の制球面も大きく改善されており、完全復活と同時にキャリアハイのシーズンを送る可能性も十分だ。
黒木優太投手(オリックス)
黒木優太投手はプロ1年目の2017年から早くも勝ちパターンに加わり、25ホールドを挙げて同年のオールスターにも出場。8月以降に大きく調子を崩して最終的な防御率は4点台となったが、奪三振率10.46という優れた数字を記録し、新人ながら大いに存在感を発揮した。
続く2018年も9月初旬までリリーフとして登板を重ね、39試合で17ホールドをマーク。引き続き主力として奮闘したが、2019年の6月に右ひじを故障し、トミー・ジョン手術を受けて同年オフには育成契約へ移行。2020年オフには支配下登録も勝ち取ったが、翌2021年は二軍での17試合で防御率6.19と、かつてのような投球は見せられなかった。
しかし、2022年は二軍での6試合で無失点と好投し、4シーズンぶりとなった一軍のマウンドでも14試合で防御率1.29と好調だ。14イニングで13奪三振と以前の奪三振力も戻りつつあり、4月6日には5年ぶりとなるセーブも記録。苦難の道を乗り越えた剛球右腕は、ルーキーイヤーの輝きを着実に取り戻しつつある。
種市投手も二軍で好投を見せており、今季中の復活も期待できる状況だ
また、2020年にトミー・ジョン手術を受けた千葉ロッテの種市篤暉投手も、今季は実戦復帰を果たしている。ここまで二軍で6試合に登板して防御率2.84、奪三振率10.66と好投しているだけに、このままいけば今季中の一軍復帰も見えてくる。将来のエース候補と呼ばれた逸材が、これから復活を果たした投手たちのリストに加わる可能性は十分だ。
大手術から1年以上のブランクを乗り越えての完全復活は、決して簡単なことではない。それだけに、苦難を経て表舞台に帰ってきた男たちの活躍は、復帰を待ち望んでいたファンの胸を打つものにもなる。これからトミー・ジョン手術を受け、リハビリに励むことになる投手たちにとっても、こうした先達たちが見せる活躍は、大きな力となることだろう。
文・望月遼太
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